kuzu

Short story

お楽しみはこれから
コンコン、と乱暴な手つきで部屋をノックされて扉へ向かう。…この叩き方はジャンだ。最も、自分が呼んだのだから彼の他に考えられないんだけども。扉を開けるとそこにはやはり、予想通りの人物が居て私は頬を緩ませる。仕事の合間にこうやって彼に会えることが、唯一の楽しみだ。しかし、そんな私とは裏腹にジャンは、私を見るなりいつもの悪人面をより一層らしくさせた。


「…なんだその格好。」


相手が俺じゃなかったら襲われてんぞお前、と軽く私の頭を叩きながらジャンは私の部屋へ足を進めた。…いや、"相手が俺じゃなかったら"って言うか、そういう展開を期待してこんな格好しているんですが。心の中でそう突っ込むと私はネグリジェの裾をぐっと掴んだ。


私とジャンはもう付き合って半年以上経つ。それなのにジャンは、私の体に触れようともしない。…確かに私はチビだし、お世辞にも魅力的な体ではないと思う。だけど、私達は所謂お年頃ってやつで。そういうことに興味がないわけがない。周りはサッサと済ませているのに、私達だけ取り残されたような気分なのだ。


かと言って、早々に諦めるわけじゃない。作戦はこれからだ。私はジャンの隣にべったりくっつきながら、この前の壁外調査の話や次の休みにどこに行くか、など他愛のない話をする。チラチラとジャンの視線が私の胸元に落ちるのに気付き、今日はいけるんじゃないかと思った。身長差からして、座っていてもジャンからは谷間がハッキリと見えているはず。しかし、


「お前なぁ…いくら寝巻きとは言えこんなの着んじゃねぇよ。」


見えそうだろーが、とジャンは視線を下に向けて、無理やりネグリジェを上にあげた。ネグリジェが首元まであがり、谷間は無事ジャンによって隠されたがその代わり、


「なっ……!」


ネグリジェを上にあげた分、下の布が足りなくなり、足の付け根辺りまでひんやりとした外気に晒された。きゃっ、なんてわざとらしい声を出して上にあがったネグリジェを元の位置に戻すとジャンは「わ、わりぃ…」と気の抜けた声で謝った。彼の顔はゆでダコのように真っ赤だ。


「ジャンのエッチ。」


興奮しちゃった?、と耳元で囁くとジャンはいよいよ耐えられないといった様子でそっぽを向いた。


「お前…みんなにそんなことしてんのかよ。」
「みんな?みんなって誰?」
「ライナーとか、死に急ぎ野郎とか…。」
「は?するわけないじゃん。ジャンにだけだよ。」
「……っ。」


ジャンの的外れな質問に太ももをさすりながら答えるとジャンは言葉にならない声を出した。どこに視線を置けばいいか分からない、と言った様子であたふたしているジャンにそっと囁く。


「…別に、見てもいいんだよ?」


そう言うとジャンはビクッと肩を震わせて私を見た。もう目がトロンとしてしまっている。


「お前…まさかとは思うけど誘ってんのか?」
「だとしたらどうするの?」


ニコッと笑ってジャンの唇にキスすると、ジャンは私の肩に手を置いてそれに答えてくれた。…最初は浅かったそれが、段々と深くなっていく。


「…どうなっても、知らねぇからな。」
「ジャンとなら、大丈夫だよ。」
「…そういうこと言うんじゃねぇよ。止められなくなるだろうが。」

そう言ってジャンは、私の肩に置いてあった手でそのままネグリジェの紐をズラす。するとそれはスルリと私の体から落ちた。お楽しみは、これから。




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