kuzu

Short story

明日天気になぁれ

「…え、何それ知らない…!」
「へぇー、お前でも知らないことあるんだ?彼女なのにな!」


普通彼女って何でも知ってるもんだと思ってたぜー、と意地悪な顔をしながらコニーはいつもの味のしないスープに口をつけた。…すごく悔しい。コニーは私に意地悪してからかっているだけだ。それは分かっていても、それでもコニーの言うとおり、彼女である私の知らないことをコニーが知っていることが気に食わない。


「…それでよ、その日の天気なんかも占えるんだぜ!俺は百発百中だ!」


今日はこの後雨だろうな、とコニーはカラッと晴れた空を見て言った。…悔しい悔しい悔しい!


「私もみたい!…ベルトルトの寝相!」
「そりゃ無理な相談だな。男子寮は女子禁制、女子寮は男子禁制だろ?」
「そ、そうだけど…。」


ま、一緒に住むようになりゃ嫌でも見れるだろ、と呑気に最後の一口を胃に収めたコニーに私は無理を承知で口を開いた。


「私がベルトルトの寝相見るの、協力してよ…!」



***



「うわ、ほんとに来やがった…。」


時間は午前8時。休日と言うこともあり、まだ寝ている訓練兵も多いであろう男子寮に、私は抜き足差し足で訪れた。今日を選んだのは、休日だから教官に見つかる可能性が低いのとベルトルトはいつも休みの日は遅くまで寝ているから爆睡姿を拝めると思ったからだ。ドアを開けて、私を見るなりげんなりしたコニーはそのままの顔で私を中に招き入れた。どうやら事情をコニーから聞いたらしいマルコは不安そうに私を見つめる。私が入室した際に陽が射し込んだのか、ジャンとアルミンが眠そうに目をこすりながら上体を起こした。


「んっ…なに、今日は休みのはず…?」
「誰だよ朝っぱらからうるせぇーな…。」
「お、おはよう…。起こしちゃってごめん!」
「なっ、なんでここにナマエが!?」
「てめぇ、こんなところで何してやがる!!」


私の姿に驚いたジャンとアルミンが大声を出したので、慌てて二人の口を塞いだ。……大丈夫。日頃の訓練でみんなよほど疲れているのか、エレンやライナー、その他の訓練兵はまだ眠ったままだ。


「ナマエはベルトルトの寝相を見に、わざわざ早起きして来たんだって…。」
「…つまんねー頼み事なんか聞くんじゃなかった。…あぁねみぃ。」


状況を説明したマルコに不機嫌そうなコニー。起こしてしまった二人も含めて、休日にも関わらず迷惑をかけてしまって少しの罪悪感はあるけど、でもだって見たかったんだもん…!そう思いながら肝心の彼の姿を探すと、


「んなキョロキョロしなくてもでけぇんだからすぐ分かんだろ。…あそこだよ。」


普段の悪人面に寝起きが重なって、物凄い顔をしたジャンが部屋の奥を指差す。その先に視線を向けると、……居た。かけていたはずの布団が全て捲り上がり、手足があり得ない方向に曲げられたその姿は、まさに芸術的作品だった。


「なにこれ!!どうなってるの!?」
「…知るかよ。本人も覚えてないんだから、余計たち悪いよな。」


ポリポリと頭を掻きながらコニーが言った。確かにこれは、想像以上に凄かった。でも、このままだと起きた時に寝違えて痛いだろうなぁ。そう思った私は、無理に曲がった右腕をそっとあるべき位置に動かしてみた。


「おい、何やってんだ!起きちまうだろ!誰かがナマエをここに連れ込んだなんて勘違いでもされてみろ、厄介なことになるぞ!!」
「や、やめた方がいいよナマエ…。そのまま寝かせてあげようよ。」


ジャンとマルコの言葉を無視して、私はベルトルトに近付いて今度は左足を同じように動かしてみた。…寝顔なんて初めて見たけどすっごく可愛い!そんなことを思っていると、


「うわぁ!!」


先ほどあるべき位置に戻したはずの右腕でグッと腕を引かれると、私はそのままベルトルトの胸に倒れこんでしまった。そこにすかさず動かしかけた左足が私の足に巻かれホールドされる。その隙に左腕や右足も同じように動き、両手両足でガッチリと抱き締められてしまった。…これじゃあまるで抱き枕だ。そんな私に先ほどの四人は哀れむような視線を向ける。


「うわっすげぇことになってる…。」
「…いいんじゃない?二人は付き合ってる訳だし。」
「おいおいこんなとこで朝っぱらからやめてくれよな…!」
「ぼ、僕はそろそろ出掛けようかな…外も晴れてるみたいだし。」
「い、いや、助けてよ…!」


芸術的作品に巻き込まれた私は、四人に助けを乞うが、四人にその気はないようだ。欠伸をしながら部屋を出ようとし、最後にドアを閉じかけた時坊主頭が振り向いた。


「あ、ナマエ。お前が動かす前の体制からして今日はこのあと雨だからな。」


えっそんなことよりも、っと言いかけたところでドアはバタンと閉まり、部屋には再び静寂が訪れた。所々から聞こえる寝息しか音はない。暖かい人肌と布団に心までぽかぽかしながら、私は目の前の寝顔を見た。


「ベルトルト…くん?」


問いかけに反応したのか、「んぅ」と言葉にならない声を出して、本人は眉間に皺を寄せた。せっかくの休日だし、さっきの四人じゃないけどもう少し寝かせてあげようかな。そう思っていると私も瞼が重くなってきた。ベルトルトの肩越しに見える窓から覗く山には、厚い雨雲がかかっていた。


起きたエレンとライナーに大声で叫ばれ、ベルトルトと目を覚ますのはこの一時間後。




[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -