kuzu

Short story

未来は明るい1


「無茶しやがって……!!」


ミシミシと骨が鳴る。背中に回された腕は、私を締め殺そうとしているんじゃないかと思うほど強い。だけど今はそんなことだって気にならなかった。この痛みでさえ、今私が生きていることを実感できて嬉しい。


正直、生きていここに戻ってくるなんて出来ないと思っていた。仲間たちが続々と補給の任務を放棄する中、私は単騎でわずかながらのガスを背負い、巨人が我が物顔で闊歩する外へと飛び出した。仲間を、あの人を、見捨てるわけにはいかない。それだけが私を突き動かしていた。巨人に体を掴まれた時はもう死んだと思ったけど、こうして私は奇跡的に生き延びることが出来て、またここへ帰ってこれて、そしてこうやってジャンに抱きしめられている。昨日だって、その前の日だって毎日してもらっていた私の日常の一部だったそれは、本当はすごく特別なことなんだって、今気づいた。


「お前が居なくなったら…俺は何の為に生きていきゃいいんだよ…!!」


もうこれ以上力を入れられると潰れると思っていたが、ジャンの腕は容赦なく私をぎゅうぎゅうと締め付ける。


「なぁ、頼むから…もうこんなことやめてくれよ。お前は俺に守られときゃそれでいいんだよ…!」


普段は照れ屋で、誰かが居る時には手すら繋いでくれないジャンが、堂々と私に口付ける。最も、生存確認や補給室に入った巨人を倒す作戦なんかで、私たちに好奇の目を晒す者など今は居なかったが。


「でも、それじゃあ人類は勝てないよ…?ジャン、私強くなりたい。ジャンに守られるんじゃなくて、ジャンを守りたい。ジャンと一緒に戦いたい!大切な人を守りたいの…!ジャンのことが大好きで、大切だから。」


そう言うとジャンは、今までしてきた自分の行為は棚に上げるように、私の言葉に顔を真っ赤にさせ、やっと私を解放してくれた。


「…お前なぁ、そうゆう恥ずかしいこと言うんじゃねぇーよ。こっちが照れるだろーが。」
「ジャンにナマエ!ここに憲兵が使ってた銃があるはずなんだ。探してきてくれないか?」


マルコに声をかけられ、私たちは我に返りマグネットの向きを変えたようにスルリと離れた。「さっき散々見せてもらったから、今更いいよ。」と呆れる彼に従い、私たちは持ち場を離れる。これが、ほんの少し前のことだったのに、



***



「……もうどれがマルコの骨か分かんなくなっちまったな…」


現実味のないジャンの言葉に、私は頷くしか出来なかった。マルコが死んだ。最期の姿を見て、燃えてゆくところまで見届けたのに私はそれを現実として受け入れることが出来なかった。マルコだけじゃない。他の同期も、たくさん巨人に食べられた。みんな、後悔している。こんなことになるなら、兵士なんて選ばなかった。


「私たちの仲、取り持ってくれたのもマルコだったね。…喧嘩したときも間に入ってくれて、私たちの結婚式にも、来てくれるって…うっ…い、言ってたのに…」
「………っ」


ジャンは私の言葉に答えずに、拳を握りしめる。そして、生気の抜けた顔で私に問いかけた。


「ラウラ…希望兵科は決めたか?俺は…俺は…調査兵団にする…!!」


見た目とは異なりその力強い声に思わずハッとする。それはジャンの決意に驚いたからではなくて、彼が私と全く同じことを考えていたからだった。


「わ、私も…!調査兵団に……!」


未来は明るい、そう信じて。




[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -