美しく健気に咲く花を
無惨にも踏み荒らす。その白い花びらを散らし茎を折り葉を蹴散らす。

嗚呼、なんと残酷で甘美なんでしょう?
人の不幸せ、と言うのは……。



「……っつ、許して下さいっ…
こんな、こんなっ、事……」

下に組敷くのは一輪の可憐な白百合。
身体を震わせ戦慄く姿は征服欲を刺激する。

「おや……
いけませんね、貴女は私と契約した。
夫が無事に生きて戻るなら何でもすると言ったじゃないですか……あれは偽りだったのですか?」

「いいえ、いいえっ
偽りなどでは……貴方は夫を無事に帰してくれました。約束通りにでも……」

白い衣服を引き裂いて見えた美しい肌。
悪くはありませんよ、むしろ上物のそれ……首筋に歯を立てて舌で愛撫すれば身体は素直に反応を示した。

「あっ……」

「クス。身体の方が素直ですね。
さて、貴女の願いを叶えた代価をその身で払って頂きましょう。ね、ナナシ……」

悪魔が美しく微笑んだ。
あの日と同じ、綺麗な、笑顔で。

「んんっひゃあっ……」

胸に絡みつく細い指が厭らしく肌を滑る。
小さく縮こまった乳首を優しく撫でて気紛れのように指で押し潰す。

「やっ、あ……ぁあっひぁ……っ」

「気持ち良いのでしょう?」

囁く声は、まるで媚薬のように
私の心と身体を絡めとっていく。

「処女のクセに、
随分と淫乱な身体をお持ちのようですね。」

「ひっん……言わ…ない、で………」

夫となったあの人は優しくて、
とても優しくて、でも結婚したその日に戦争が起きて徴兵されてしまった。
高くはないけれどあの人が残してくれた指輪だけが私の心の支えだった。

「ずっと帰りを待って居たのです。
嬉しいでしょう、明日にでも貴女は夫に会える。穢れた身体で、ですが………」

「っつ、悪魔っ……貴方は……ひゃあっ!」

胸に吸い付かれた。
まるでいとけない幼子のように貴方が私の乳首を吸い上げる。

「そう、私は悪魔ですよ。」

それは、貴女も知って居たでしょう?
唇だけがそう動いて尖った乳首に歯を立てる。


「っううう!」

そう、知って居た。
彼が悪魔だと。
それでも、すがるしか無かったのだ。
激しくなる戦争。激戦区に飛ばされた夫。
彼の命が尽きるのも時間の問題のように思われた。今日か、明日か、明後日か……。
そんな日々に心が悲鳴を上げた頃、悪魔はやって来たのだ。最も自分が欲するものを携えて…






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