「お疲れ様です。セバスチャン……」

暗闇から現れたのはナナシ。
猫の様にしなやかな動きでセバスチャンの隣に寄り添いそっと耳打ちをする。

戦闘にのみ特化した、
逆に言うとそれしか出来ない使用人に比べ暗殺者として色々な場所に入り込みそれなりの場数を踏んでいるナナシはそれなりに使える駒ではある。

「貴女もご苦労様ですね、ナナシ。」

彼女には、屋敷の管理と情報収集を任せてある。その彼女が此処へやって来たという事はそれなりに有用な情報を掴んで来たのだろう。
今や厄介事の中心にあるサーカス団。
その団員として主と一緒に潜り込んだものの同室者が死神と言う誤算のお陰でなかなか思うように動けないのも事実だ。

「今回は貴女のお陰で助かりましたよ、 ナナシ……内にも外にも厄介な人物が多いものですから。」

「勿体ない言葉です。」

そう言ってまた闇へと消えようとした身体を セバスチャンは上手に捕らえる。

「セバスチャン?」

「もう少し良いでしょう?」

身体を引き寄せられて耳元で囁かれると自然と身体が熱くなって行く。

「……セバスチャン……」

「私の相手をしなさい。」

短く付け加えられたその言葉にナナシの身体は小さく震えた。






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