ヤンデレのフラグを叩き折ってみる





「さっきの休み時間末広くんと何話してたの」
「なんで昨日電話出てくれなかったの」
「今の電話誰からなの」
「誰との約束があるの」
「俺の知らない人と喋らないで」

 と、こんな感じで幼なじみである雄飛(ゆうひ)は俺が大好きだ。

 今でこそすっかりノッポさんに育っているけど、ちっちゃい頃はそれはそれは女の子みたいに可愛らしかったし、何より気弱でずっと俺の後ろに隠れてるようなシャイボーイだったわけで。
 紳士を自負する俺はすぐに泣くわ黙るわ吃るわする雄飛の面倒をよく見ていた。まぁぶっちゃけ小二まで雄飛を女の子だと思ってて、嫁にする気だったというのは極秘事項だ。

 今はもう憎たらしいくらいに男前に育ち、モテることはあってもイジめられるなんてことは全くなくなった。
 でも小さい時のトラウマっていうんだろうか。雄飛は俺がいないとダメらしい。これは自惚れとかじゃなくマジな話だ。

 さすがにトイレは一人で行けるようになったけど、ちょっとでも俺と離れると雄飛はすぐに不機嫌になる。

「末広くんとは前に貸してやったノートのお礼に何奢ってもらうか話してた」
「あ、悪い。昨日は疲れてたから九時半には寝ててさ。確実に電話を繋ぎたいなら八時くらいまでにしてくんね?」
「電話? ああ、母親。帰りにクリーニング取りに行けって」
「約束…? あぁ、次の日曜日法事があんだよ。だから水族館はまた今度な」

 雄飛の一日に何度かある質問タイムはなかなか骨が折れる。
 残念ながら俺ってあんま記憶力ないわけ。なのに昨日の夜何してたとか聞かれてもなかなか思い出せないし。

 確かに「なんでちゃんモード」はメンドーなんだけど、こう………何にでも興味を持つ年頃のチビっ子みたいで、こういう雄飛も別に嫌いじゃない。
 むしろなんつーかほほえましい気分になる。

「相変わらず人見知りだなー。雄飛も話してみればいいのに。佐藤くんとか超おもしろいぜ」
「やだ。豊以外となんか喋りたくない」
「ったく、かわいいやつだな!」
「……俺、かわいい?」

 きょとんと首を傾げる雄飛。俺より十センチ以上も背がデカいくせに仕草はガキの頃のまんまで、それがかわいい。昔の姿を知ってるだけにやっぱり守ってあげたくなる。
 俺、猫より断然犬派なんだよ。クリクリした目で見つめられたら大抵のことは許しちまう。

 ちなみに全然関係ないけど、ちょっと前に佐藤くんに「あれをかわいいとか言えちゃうお前に引いた」とか言われたな。
 佐藤くんは多分猫派なんだろう。懐いてくるのってかわいいと思うけど、つれないのが好きというのなら仕方ない。
 うん、きっと佐藤くんはツンデレ属性なんだろ。

「おう、かわいいぞ」
「なら俺以外の人とお喋りしないで。目も合わせないで」
「微笑みかけんのはアウト?」
「アウト」

 からかうつもりだったのに、大真面目に頷かれた。
 相変わらず無茶な要求をするやつだ。

「挨拶は?」
「……………だめ」
「挨拶はセーフにしよう! 挨拶はセーフ! はい、復唱」
「挨拶は……セーフ」

 負けじと要求してみたら、ぷくっと頬を膨らませながらも頷いてくれた。

「雄飛はかわいいな!」
「豊のほうがずっとかわいいよ、だいすき。一生俺のそばにいてね。絶対だよ」

 こんなに素直で人懐っこいのに、雄飛は友だちがあんまり……というか俺しかいないらしい。
 幼馴染みとしてはもっと交友関係を広げてほしいものだけど、極度の人見知りだし、仕方ないかと思ってる部分もある。

 一生なんて言ってるけど雄飛はすんごくモテるんだから、そのうち彼女とか紹介されるかもしれない。
 ちょっと寂しいけど、そうなったらそっと距離を置いてやろう。それが友人ってものだ、多分。

「俺には豊だけだよ。豊以外なんにもいらないよ。だから豊も俺以外なんにもいらないよね?」
「ご飯と明太子はいるぞ!」
「うん。じゃあ世界には俺と豊とご飯だけで十分だね」
「明太子も!」
「あぁごめん」






君はかわいい甘えん坊

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