▽ 甘いよ、晴巳さん
軽率に晴巳と一真をイチャイチャさせたかっただけです。短め。 「うーん…可能性0%って逆にキモいな……」
ある日、コタツに足を突っ込んで雑誌を読んでいた晴巳はつまらなさそうに握っていたペンを転がした。
「何がだ?」
雑誌にあっさり恋人を奪われ、暇そうにテレビをぼんやり眺めるしかなかった一真は首を傾げる。
構ってもらえそうな予感に少しばかり嬉しそうな雰囲気が滲み出しているのだが、本人に自覚はない。
「いやさぁ、雑誌に載ってた浮気チェックしてたんだけど」
「………………………………………は?」
「鈍い反応ッスね」
パタンと雑誌も閉じて投げ出すと晴巳はポカンとする一真に笑った。
「は、なに言ってんだ」
「はは、吃りすぎ」
浮気チェック浮気チェック、頭の中で何度か反芻して言葉の意味を理解すると一真は晴巳が思わず笑ってしまう程に慌て始めた。
つまりは何だ、疑われていたのか? とぐるぐる頭の中で晴巳の言葉が回っていた。
「そんな真面目に凹んだ顔しなくてもいいだろ? あくまで試してみただけだって」
完全に機能停止状態のロボットと化した一真に晴巳は面白がり、ニヤニヤと意地の悪い顔になっていた。
「自分と居る時に電話が鳴っても出ない、とか簡単な項目20個にイエス・ノーで答える信憑性もないヤツだってば」
しかしあまりに一真が深刻そうな表情で固まっているため、肩をすくめた晴巳はこう付け加えた。
「しかも0%とかいう数値叩き出してたよ、すごいね一真」
晴巳がポンポンと肩を叩いてやると、一真はようやくピクリと動き出した。まさに再起動という表現がピッタリなロボット染みた動きである。
「当たり前だ……晴巳以外とかありえねぇ」
「…それはどうも」
一真は低い声でそう断言した。そこまではっきり言われれば、照れるなというのが無茶というもので。
軽い口調で返しながら、晴巳は微かに赤くなった顔を隠すように再び雑誌を拾い上げて広げた。
じっとその様子を見ていた一真は、普段飄々としている晴巳の珍しい照れ姿に床を転げたい程に胸がきゅんとなったが、ゴミを見るような目を向けられる自分の姿を簡単に想像できてしまったのでなんとか我慢した。
しかしそのときめきの後、ふと心配事が湧いて出てきた。
それって晴巳はどうなんだ、という疑問である。
「晴巳…」
「どうかした?」
「………」
問い掛けにも答えず、一真はその薄い背中に抱き付いて晴巳のお腹辺りで軽く手を組んだ。
肩に顎を乗せてピッタリくっつく。
じんわり暖かな熱源をしっかり抱えて、一真は漸く口を開いた。
「……愛してる」
「…………知ってますよ」
突然の一真の行動には晴巳も随分慣れていたが、不意打ちのドキリとする言葉はやはり心臓に悪い。
晴巳はされるがまま、じっとしていた。
ギュッと抱き付いてくる一真に色々と文句を言って離れさせることは簡単だったが、敢えて見送ることを選ぶ。
どうやら暇潰しの雑誌のせいで恋人は不安らしい。
無言の一真の行動の真意を読み取った晴巳はお詫びの意味を込めて、大人しくしておいてあげることにした。
「晴巳…」
「?」
大して面白くも何ともない奥様向けの昼情報番組を見つめること数分。
依然と晴己を離そうとしない一真が口を開いた。より力の籠る腕が少し苦しかった。
「…晴巳…」
「だから、何?」
後ろから抱き込められた晴巳が一真の表情を見ることは叶わない。
「晴巳は……」
「俺だけ………だよな?」
一瞬、テレビ画面が映像の切替えのために真っ暗になる。そこに映った自分と深刻な表情の一真。
その時、晴巳は初めて気付いた。
「一真も俺だけ、なんだろ?」
「当然だ」
冗談でも、不安だからでも、恋人に疑われるのは切ない。
思わず、自分からキスをねだるぐらいには。
首をグイッと反らせて挑発するように見つめれば、心得たとばかりに降ってくる唇の感触。
離れたばかりの唇をペロリと舐めると、普段の無表情が嘘のように一真が真っ赤になり、晴巳はいたずらっぽく笑った。
とても幸せな、ある日の出来事