星願・教神…番外編 | ナノ

▽ かまえよ、ドラゴン


受け同士が百合百合してるのって可愛いと思います。しかし真はそういうのもNGなようです。心が狭いですね。




「それで吉田くんがさぁ」

今日も今日とて自慢の恋人は可愛い。一真はかなり真面目にそう思っていた。

「でね、すごい叱られてさ」

加えて言えば、軽くフライパンを振るいながら夕飯を作る晴巳にデレデレだった。

その華奢な背中を目にすると半ば反射的に抱きつきたい衝動に駆られるが、「料理中にふざけたら危ないから」と普通に怒られて以来、一真は大人しく待つことを覚えた。
普段静かな人間が本気で怒ると怖いというのは本当で、出来るなら二度と怒らせたくないと思うほどマジギレした晴巳は恐ろしかったのである。

「それで置いて帰っちゃったんだけどさー」
「……」

耳に馴染む、弾んだ声だった。いつまでもこの声を聞いていたいと真剣に思ってしまう程度には一真は重症だった。

「……………」

けれど、二人きりのときに他人の名前を聞かされるというのは率直に気分が悪かった。
晴巳が楽しそうであれば楽しそうなほど、一真の中に煮えたぎるマグマの如き嫉妬心が蠢く。
しかし、生まれついての表情筋のなさが勝ってしまい、それが顔に出ることはない。

「できたよ、適当な焼きうどん堤家風」
「おう」
「本当に吉田くんって笑かしてくれるよね」
「………」

かちんとコンロの火を消し、フライパンを持ち上げて狐色の麺を皿に移す晴巳に一真の眉間の皺が一本増えた。
やはり内心は面白くないらしい。無言の抗議のつもりではなかったがろくに相槌も出来ない有様だった。

「あれ、一真今日はいつもに増して喋んないね」
「そうか?」

黙りっぱなしの一真に初めて気づいた晴巳が机に箸やら食器を並べながら首を捻る。

「もしかして焼きうどんに文句あんの?」
「いや、焼きうどんは旨い。不満はない」
「三日前が焼きそばだったのにまた焼きうどんだから拗ねてんの? しょーがないじゃん、簡単なんだから」

「これ昨日の残りのお漬け物」などと軽く主婦のような発言をかましつつ、晴巳はテレビをつけるとそちらに興味を移したようだ。

「いや、晴巳の炒め物系はハズレがないというか……つーか何でも美味いと思う」
「ちょっと一真うるさい、土田のコメントが聞こえなかった」
「……悪かったな」

照れくさそうな一真の台詞はお呼びではなかった。
晴巳はとって今は贔屓の芸人のコメントの方が大切らしく、対晴巳に限ってはそう珍しくもないデレは極めてぞんざいな扱いだった。

「……」

はぁ、一真はこっそり溜め息をつくと箸を握った。








「え? うそ、数学の課題提出って今週だっけ、やべ忘れてた」

「んー、まぁ半分以上終わってるから何とかなるけど俺は」

「別に裏切ってないけど? 計画性のない吉田くんと一緒にしないでほしいなぁ、すっごく不愉快」

「ごめんって、なにも泣かなくても……ほら、冗談だって」

「うん、分かった分かった。今度見せてあげるから、な?」

晴巳が携帯電話で通話を始めてかれこれ、20分は経過していた。

その間一真はテレビの方に視線を向けていると見せかけつつも、横目で晴巳を穴があきそうな勢いで凝視していた。
会話から推測するに、相手はまたしても、あの「吉田」である。一真は段々、その吉田という存在が心底憎らしくなってきていた。確か一回くらいは見たことがあったはずだが、まったくその姿を思い描くことはできない。

まぁ、ぶっちゃけて言えば一真にとってはそれほどどうでもいい相手なわけである。
そしてそのどうでもいい相手と愛する恋人が長々電話をしているのが何よりも面白くないというのも自然な話だった。

「……」

しかし、そんなことを口にできるはずもなく。一真にできるのは眉間に皺を寄せることだけだった。

視線の先には、答えの分かりきったクイズ番組がグダグダ進行していた。お約束のようなパネラーの珍妙な解答が繰り広げられている。
実に馬鹿馬鹿しいものだが、晴巳と一緒に見ているときはそれなりに面白く感じていたはずだったが。

「………」

今の一真には寛容な心で茶番劇のようなテレビ番組を見る余裕はどこにもなかった。

一真は大変イライラしていたのである。一向に終わる気配を見せない電話にも、どうでもいいクイズ番組にも。

「いやー、それは吉田くんの落ち度だと思うよ? 同情しなくもないけどさ…………あ、」

テレビを見ているフリをしながら晴巳を凝視していた一真は、手持ち無沙汰らしく髪の毛をいじりながら喋る晴巳と不意に目が合った。ばちっと音がしそうな勢いだった。

くりっとした目が一真を見つめ、それから急に晴巳は心得た顔になった。

「あー、吉田くん。ごめん、話はまた明日……しょーがないだろ、緊急事態なんだから」

晴巳は当然のような態度で話を強引に打ち切った。
本当に唐突だったらしく、電話口から「ちょっとー!」と非難の声が上がっているのがうっすら一真の耳にも届いた。
が、それも晴巳は華麗にスルーした。

「……良かったのかよ、電話」
「誰かさんが拗ねだしたからいいんだよ、このまま放っといたら眉間のしわとれなくなりそうだし」

ニッ、と悪戯小僧のように笑われる。

携帯電話を机の上に置くと、晴巳は徐に一真の眉間に手を伸ばした。
ぐーりぐーり、と皺を伸ばすが、手を離すとすぐも元通りになってしまう。まるで形状記憶のようだった。

その様子から一真がどれだけむくれているかを知った晴巳は、何だかほっこりした気分になった。可愛らしい焼餅であることに気付いたのである。

「なに、寂しかった?」
「…別に」
「ん、可愛いヤツめ」
「……」

うっへへ、と笑って抱きついてきた晴巳の方が一真はよっぽど可愛いと思った。

うっすら顔を赤らめた一真は自分よりずっと華奢な身体を腕の中におさめると、ようやく険しい顔を緩める。実に現金な反応だった。






繰り返し、繰り返し、そんな毎日

[ back ]


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -