教えてください神様、 | ナノ



「あれ、沢地さん」

駅近くにある赤い看板が目印のファミレスに到着したとき、店の入り口付近には沢地が佇んでいた。

「あれ吉田くん、偶然だね」
「ほ、本当に偶然ですね沢地さんここで会ったのも何かの縁ですよ一緒にご飯食べていきませんか俺ら今からここでご飯なんですよ」

晴巳が挨拶の言葉を口にしようとした瞬間、吉田が物凄い勢いで喋り出した。あまりの早口に一瞬、晴巳は一体何と言っているのか飲み込めなかったが、数秒かければ意味を理解することができた。

「……偶然、ですか、沢地さん?」
「本当偶然ですね、晴巳さん」

あくまでも沢地は偶然のバッタリを装う気らしく、戸惑う晴巳の言葉をわざと遮った。

壁に軽くもたれて立っていた沢地はモデルのようだったが、よく見てみれば相当急いで来たようで、額には汗をかいていた上、いつもはセットされている髪の毛が好き勝手な方向に広がっている。
走って駆け付けた、と推測するのが妥当だと晴巳は思ったが、その理由や原因がいま一つ分からず曖昧な顔になった。

「なら、俺もご一緒していいですか、会津さん」
「……あ、ああ」

晴巳以上に状況がよく分かっていない一真は半分条件反射のように頷いた。

「晴巳さんも、構いませんか?」
「構いません、けど……沢地さんはこんなとこで何してたんですか?」

隠したがっている雰囲気なのは承知していたが、興味はあり、晴巳は明確な答えを期待せずに尋ねた。

「え、あ―……ね? ほら?」
「よーし、お店に入ろう! 僕はドリアが食べたいなぁ!エビが入ったやつ!」

絵に描いたように焦った沢地が吉田にアイコンタクトを送り、その吉田が晴巳の前にバッと飛び出すと、有無を言わせずに店内に引きずり込んだ。

僕って何だ、吉田くん。そんなキャラじゃないだろ。
ずるずる腕を引きずられながら晴巳は首を傾げていたが、ようやく真相に思い当った。

ファミレスまで移動している道中、必死に携帯を操作していた目的というのが沢地をここへ呼び出すことだったに違いない。
謎は全て解けた! と晴巳はすっきりした気持ちだったが、なぜ沢地をそこまでしてこの場に呼び出さなければならなかったのかという疑問が残った。








暖かい店内に晴巳や吉田の顔が綻ぶ。友人同士と言い切るには少し微妙な雰囲気を察知したのか、店員が案内したのは一番奥の人目につきにくい席だった。

「うーん、パスタもいいけどなぁ……」
「辛いんじゃねーのか、それ」
「これぐらいだったらギリギリ平気。まぁ予想外に辛かったら一真のと交換するから大丈夫」
「…おい」

四人掛けの席につき、メニューを捲っていた晴巳はパスタのページを見ていた。程度にもよるが、あまり辛いものが得意でないことを知っている一真はそのページに載っていたぺペロンチーノの写真に顔を顰めた。

「一真はこの和風御膳にしようよ。魚のフライ美味しそう」
「…分かった」
「俺の半分あげるから。あ、この選べる小鉢はひじきがいい」
「ん、分かった」

一冊のメニュー表を二人で眺めながら取引などを持ちかける晴巳に対し、一真は提案を受理するだけだった。特に不満がなければ全面的に晴巳の要求を通すいつもの一真のスタンスだった。
それは実に通常運転な光景だったが、間近で見せつけられる人間にはたまったものではない。

数分の会議の後、ようやくオーダー内容を決めて満足げに顔を上げた晴巳は正面に座っている吉田がポカンと口を開けていることに気づいた。

晴巳の隣には一真が座っており、正面には吉田がいるのだが、呆けたような顔で晴巳の方を見ているのである。

「なに、どーしたの?」
「なななんでもないよっ」

なぜ、焦る。
あまりにこちらをジッと見つめる吉田に晴巳は首を捻る。しかし、ブンブン首を横に振られるだけで、無理やりに誤魔化されてしまった。

「吉田くん」
「ふぁい!」
「吉田くんのクセに隠し事するんだ?」

頬杖をついて、ニッコリ微笑んでみる。隠されると暴きたくなる程度には晴巳はいい性格をしているのである。

「だだだから! ななにも考えてないってば!」
「ふぅん?」

見事なまでにオロオロする吉田を眺めるのはそれなりに楽しかったが、変化がないからすぐに飽きてきた。

「……晴巳」
「ん?」

慌てるだけの吉田がつまらなくて、ファミレス必需品である伝票を入れるための透明な筒をテーブル上に転がし吉田を狙う晴巳。
一真に呼び掛けられたのが生返事になったのは、狙いを定めている最中で集中していたからである。

「ちょ、堤くん痛い!」

筒は会心の軌道を描き、吉田の肘にヒットした。
思わず三振を奪った高校生球児のようにグッと拳を握る。といっても晴巳にはキャッチボールの経験しかないのだが。

「いつもこんなことしてんのかよ」
「……こんなこと?」

「ファニーボーンがぁぁぁ!!」と大袈裟に騒ぐ吉田に晴巳が腹を抱えて笑っていると、一真に肩を掴まれて引っ張られる。

「何? どーしたの、一真」

突然不機嫌な声を突き付けられた晴巳が戸惑った顔をする。戸惑っただけでなく、肩を掴んだ一真が妙に近かったために気恥かしさがあった。そのため微妙に視線を彷徨わせる晴巳の頬は少しばかり血色がよかった。

「お腹すいた?」
「……ちげぇ」
「とりあえず離してくれる?」

さり気なく腰に手を回してくる一真に晴巳はますます明後日の方向を見るしかできなかった。一週間ぶりの距離感がくすぐったくて仕方がない。

「……て、どうしたの二人とも?」
「いえ」
「なんでもありません!」

今度は沢地まで口をポカンと開けていた。吉田と沢地が揃って口をポカンと開けている光景は珍妙だったが、並んでいるとどこかしっくり来る感じもあった。

「何ていうか、沢地さんにちんちくりんな吉田くんって似合わないかと思ってたんですけど、そうでもないですね」

やっぱり吉田くんと沢地さんは仲いいんだな。
おっとりというかのほほんとしている吉田と大人っぽい沢地ではあまり合わない気がしていた晴巳だったがその認識を改めた。

予想外に上手く行っているようだし、ここまできたらあまり口出さない方がいいかもしれない。そっと見守るかな、と晴巳は誰に言うでもなく決めた。

友人の恋路に関してはそれなりに勘が働く晴巳だが、自分のことになると途端に客観的に慣れないのが誠に残念である。
晴巳と一真のやけに近い距離に気まずい思いをしている人間がいることにも気付かず、晴巳は「俺、いいやつだな」などと自画自賛するのだった。






「目の前でイチャイチャされると目のやり場に困りますね、沢地さん」
「この気まずさに気づいてほしねぇ、吉田くん」


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