教えてください神様、 | ナノ



「タックン、お兄さんのところにおいで! コーラあげよ、コーラ」
「タックンって何すか」

吉田が逃走のため、呼ばれてもいないのに「誰だよ俺を呼んだヤツー」という顔をしながらフラフラ歩いていると、ふいに勢いよく腕を引っ張られた。
そのままブロックを積んだだけの即席椅子に座らされて、どこから持ってきたのか冷えたコーラの缶を渡される。

不名誉な呼び名に膨れてはいるが、お礼もそこそこにコーラを飲みだしている吉田は完全にコーラで懐柔された子どもの顔をしていた。実に素直な反応である。

「お前可愛いヤツだなー」
「よしりん、俺はポテチあげる!」
「たくろん、俺は綿菓子あげるよ」
「……せめて呼び方統一してくれません?」

いつの間にか吉田は囲まれていた。名前は分からないが、前回ここを訪れたときにも色々食べ物をくれた男達だった。
孫を可愛がる老人のように次々と菓子類を差し出す彼ら一人一人に吉田は律儀に礼を言いつつ抗議も忘れなかったのだが、バラエティーに富んだニックネームは改善される兆しがない。

「イジメられてんのか、お前」

なんだかなぁと思いながらコーラを飲んでいると、すぐ近くから喉の奥で笑う声がした。文字にすると「クックク」といったところである。

「っぷ、違うっての! 俺はご立腹なんだからな!」
「……きたねぇな」
「ちょ、今のは炭酸が悪さしたから、俺のせいじゃ、うぷ」

完璧にイジメっ子の顔をしていた倉敷に吠えたが、炭酸ガスが逆流してきたため、間抜けな声にしかならなかった。

「なあ倉敷」
「なんすか」
「吉田卓郎クンの渾名は何が良いと思う?」

吉田が「たくろん、綿菓子食う? あーん」というセリフととも口に綿菓子を突っ込まれているうちに、倉敷は質問を投げかけられていた。
ゆるい笑顔を浮かべた金髪の男が、口の中の砂糖の塊がなくなるとすかさず継ぎ足してくる。そのため吉田は「とりあえず、変な渾名は要らないです」と言葉を挟むこともできず、無言で倉敷を睨んだがどこ吹く風である。

「ヨシタクが呼び名統一しろってうるさいから」
「たくろん、コーラ零れてるよ」
「渾名とか別に要らないだろコイツに」
「たくろん、綿菓子で手ベタベタなんだけどどうしよう」

……なんだこれ。退院パーティのカケラもないぞ。場は大変カオスなことになっていた。
大袋の中身が空になったため、吉田はやっと椀子綿菓子から解放され、茫然と目の前で繰り広げられる会話を聞いていた。口の中が甘すぎて気分は最悪だった。

「たくろん、一票」
「ヨシタク、二票」
「よしりん、二票」
「タックン、二票」
「………うーん、票が割れちまったなぁ」
「どれもひどい…」

コンクリートの壁にどこからか拾ってきたらしきレンガでガリガリ書きだされていくのは己の渾名候補で。吉田は頭を抱えて項垂れた。

「たくろんがいいって、絶対」
「お黙り、綿菓子ボーイ! ベタベタした手で俺に触らないで!」

さきほど綿菓子のトラウマを植え付けてきた金髪の男に頭を撫でられたが、嫌な感触がして吉田は悲鳴のような声を上げた。

「じゃあ『吉田』とか呼んじゃうよ?」
「そんな急に他人行儀に!?」
「ほーら寂しいだろ?」
「何だそのドヤ顔はよぉおおお!」

断固として男子高校生に相応しくない呼び方は拒否する姿勢の吉田だったが、あまりにも話を聞いてもらえないので半分諦め気味だった。

「……コイツは卓郎だろ?」
「ハイジって本当つまらない男だよね」
「だから坊やなんだよバーカ」
「…ンだとテメェら」
「そうですよ、普通に卓郎とか呼んでくれたらいいんですってば」

なぜかからかって遊ぶ対象を吉田から倉敷へとシフトしそうな雰囲気があったので、先程庇ってくれた(ような気がするようなしないような)倉敷をフォローしてみる。

「なに、たくろんったらハイジにお熱?」
「お、お熱とはまた古い表現しますね……!」

しかし、妙にニヤニヤしながら肩を無理やり組んでこられ、吉田はげんなりした。
嫌われる先輩代表例というか、嫌われる先輩博覧会みたいな、ものすごく嫌な光景だった。

「ハイジハイジ、ヨシタク、お前のこと好きだってさ」
「………はぁ?」
「灰慈ぃいい! 俺をそんな目で見るなよ! 俺はそんなこと言ってない!!」

ぐいぐい肘で突っつかれるのは我慢できたが、とんでもないガセ情報を流され、その本人にゴミを見るような目を向けられるのは辛かった。

「良かったなハイジ、ヨシタクと晴れてカップル成立じゃん」
「意味分かんねぇ」

何でもかんでも恋愛沙汰に結びつけようとする女子中学生のようだった。完全にからかわれているのは吉田にも分かっていたが、ここで変に大人ぶって黙っていたら事態がますます悪化すると察知したため必死である。

「えーたくろんハイジなんかと付き合うのー? 止めた方がいいって、あんな似非ツンデレ」
「誰がツンデレだテメェ」
「俺にしときなよ、綿菓子あげるから」
「やっぱり綿菓子か! 綿菓子とでも付き合っていなさい!」

好き勝手言われすぎ、疲れた吉田は、

「もうこんなとこ出て行ってやる!」

涙目になりながら頭の悪そうな捨て台詞を吐いて、この場から逃げ出した。

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