「じゃあ買い物行ってくる。一真は療養しといて」
一真の自宅に着き、晴巳はベッドの近くの窓を少し開けるとすぐに財布片手に玄関に戻ろうとした。
「……俺も行く」
「大丈夫だって。まだ昼間だし、一真はゴロゴロしときなって。疲れてんだろ?」
「晴巳……いや、なんでもない」という思わせぶりな発言を病院から自宅までの間に二ケタにぎりぎり届かないくらいしてしまったので、晴巳は完全に一真を病人扱いしていた。
決して身体に悪いところがあるのではないのだが、いくら一真が否定しても晴巳は耳を貸そうとしなかった。当然といえば当然かもしれない。
「……分かった」
ここで強気に出たところで勝てる確率はゼロに等しいことを経験上悟り、不満顔で一真は引き下がった。
「……つーか一体何を一真は心配してるのやら」
財布の中身を確認しながら、玄関に向かう晴己がブツブツ呟いている。女子どもじゃないんだけど、という言葉が聞こえてきた。
「あぶ「言わなくていいから」
一真からすれば晴巳は不用心なところも多く、心配になってしまうのは当然なのだが、残念ながら晴巳には伝わらない。
なのでこれだけは言わせてもらおうと口を開いた途端に遮られ、息が詰まった。
「ヤンキーのクセに…」
しかし、声は照れたように上擦っており、わざとらしい悪口も照れ隠しにしか聞こえなかった。
可愛い、と一真は小さく呟いたが、玄関近くの晴巳から「引き千切んぞ」と言葉が返ってきた。かなりの地獄耳である。
それからパタンとドアが閉まった。
「……ちょっと激しいよな」
途端に訪れた静寂に一真は肩を落とした。それからベッドに上がり、寝転ぶ。
暫く放置していたはずの布団のはずが、まるで干したかのような感触だった。なぜか、と考えてみるが結論を出すのに時間はほとんど必要なかった。
これは期待してしまうのも仕方がないのではないだろうか。
それっぽいことを言ってくれたし、見舞いも来てたくれたし、何より自分に対して優しいではないか。一真はふわふわと晴巳のことを思い出し、幸せな気持ちになってきた。
同時に久々に歩いたからなのか、眠気が襲ってきて、連絡が来ても気付くように携帯を枕元に置いてから目を閉じた。
「こんなのキャラじゃない」
近所のスーパーまで歩いている途中、先程の一真の様子が晴巳の頭を駆け巡っていた。
胸の中がモヤモヤする感覚を誤魔化すように足を速めてみたものの、足に乳酸が溜まっていく感覚があるだけで全くスッキリしない。
スーパーについてみてもそれは変わらず、牛肉を慎重に選びながらも気分は一向に晴れない。
「……ああもう」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いてから、夕飯を作るのも久々だと思い出した
一真が入院している間は落ち着かない心地がして、ゆっくり夕飯も作る気分にもならず簡単に済ませていたのだ。
「………ムカつく」
肉を選び抜いて、野菜類をかごに放りこみながら、だんだん腹が立ってきた。
もしかしたら、あんな怪我じゃ済まなかったかもしれない。
もしかしたら、こんな風に夕飯を作ることがもう二度となかったかもしれない。
あれ程心配したのに、ケロリとしている本人を見たら全てが霧散してしまったけれど。
俺は、一真にとっての何なんだろう。
なんで、一真から連絡の一つもくれなかったんだろう。
考えて、ちょっと途方に暮れた。
だから勢いあまって、あんなことに
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