教えてください神様、 | ナノ



「確かに良い奴ですけど、何かアレですよ、アイツ」

病院の喫煙スペース。
入院着の老婆が二人ほどプカプカ煙を吐き出している横で、晴巳は沢地と相対していた。

最早日課となった一真のお見舞いを終え、帰る途中に目立つ金髪の男が雑誌の一ページのように佇んでいるのを発見してしまったら無視はできない。
晴巳に気付くなりモゴモゴと口ごもる様子だったので「喫煙スペースにでも行きますか?」と問いかければ、沢地は主人に叱られた犬みたいな顔をして頷いた。

どうせ目的は俺じゃないんだろうな、とこの前の一件で深く理解していた晴巳は面倒な前置きは一切省き、本題に入った
わざわざ待ち伏せのようなマネをしていた沢地に、どうでもいい世間話を振るのは時間の無駄というものである。

「な、何の話かな?」
「吉田さんの家の卓郎くんのことに決まっているじゃないですか」

照れているのか、はたまた天然なのか晴巳には判断できなかったが、沢地は惚けた声を出した。

「沢地さんのためにそこはかとなく情報収集しようとしたんですけどねー」
「……えっと、なんの話ですか?」
「けど吉田くんの話が意味不明でして。なんでも弟子入りしたとかなんとか……?」

戸惑った様子の沢地に淡々と晴巳は続けた。

「あ、本気で言ってたんだ吉田くん…」
「その反応ってことは重要でもなんでもないことなんですね」
「まぁふざけてるようなものだろうと思うけど……」

先日吉田に事情を聴取し、意味不明な供述をされた晴巳は沢地の照れたようなリアクションをじっと観察する。
洗練された印象の沢地だが、年下の吉田には振り回されっぱなしといったところだろうか、と大きくは間違っていない推理をしながら晴巳はさらに直球で聞いてみることにした。

「吉田くんに会いたいですか…?」
「…………」
「人間素直が一番ですよね」

長い沈黙の後、やたらとか弱い「はい」という返事が返ってきた。まさに蚊の鳴くような声で、可憐な乙女のようだった。

「じゃあまず作戦を考えないといけないですね。沢地さんは俺が見たところ、断然不利ですよ」
「ふ、不利?」

え。え。と、いかにも女性に不自由しそうにない容姿を裏切った、慌てふためいた声に晴巳は笑ってしまった。
案外、可愛い人なのかもしれないと思った。

「とりあえず会って話さないことには何も始まらないですもんね……何か口実を作りましょう」

まだ付き合いは一年にも満たないが、吉田は底抜けに明るいわりに案外交遊範囲は狭いことを晴巳は感じとっていた。知り合いは多くても友人はそう多くないタイプかもしれないとも思っている。

ともかく、敵は思っている以上に手強いのである。

「口実って…」
「いきなり二人で会おうなんて言えば引くかもしれませんから、とりあえずは皆さんのところに遊びに来てもらいたいところですね」

晴巳が善意で他人の事情に顔を突っ込むのは珍しいことなのだが、ありがたみの分からない沢地は気のないリアクションである。

「沢地さん。今時想ってるだけで十分なんて乙女的思想、誰も期待してないんですよ」
「……手厳しいですね、晴巳さん」
「積極性を大切にしましょう」

世の中にはほぼ初対面の人間に告白できる人種もいるんだぞ、と晴巳は心の中で付け加える。しかしそれを「見習え」とは到底言えないので口にはしないが。

「でも晴巳さん……」
「なんですか?」

うっかり色々なことを思い出して、複雑な顔をしている晴巳に気付かない沢地は苦笑して言った。

「俺は別に……会津さんと晴巳さんみたいになりたいわけじゃないですよ?」

そして眉をヘタリと下げ、主人を待つ寂しげな犬のような瞳で晴巳を見る。

「……じゃあ作戦終了でいいですか?」

何か、一真とこういうところ似てるんだよな……このヘタレ加減と思い込んだら一直線なとことか。
晴巳はある男の顔を思い浮かべながら、もどかしい気持ちで沢地を見返した。

「と、友達になりたいんですけど……無理、ですかね?」
「………じゃあ作戦Fで行きましょう」

目を泳がせる沢地に、晴巳は無我の境地で頷いた。






似てるのは一真じゃなくて、俺か

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