3 お花見ラプソディー






「お花見! お花見!」
「……散ってるけどな」

昼休み、四人は中庭にいた。
あまり整備されていない野生感のある芝生の上にレジャーシートを敷き、飲食物を並べた様子は舟渡が言うとおりまさに花見である。

「見事なまでに葉桜ですねー」
「これ花見なの?」
「ちげぇだろ」

それもまぁ花を見ていれば、の話だが。
世間一般的に花が散ってしまい青々とした芽を出ている桜を見上げる行為を花見とは言わないだろう。

「だってぇ気がついたら散ってたんだもーん」
「じゃあ何で花見するとか言い出したの?」
「したかったから!」

シートに胡座をかいた舟渡がキラキラした目で言い放った。純度百パーセントの子どもの目だった。

「……もう飯食おうぜ」
「だね」
「で、でもピクニック気分で楽しいですよね!」

げんなりした顔の呉と同木が割り箸やら紙皿に手を伸ばす。
持参したいつもより格段に大きなお弁当箱の蓋に手を伸ばす越川だけは満更でもなさそうだが。

「あ、サンドイッチなんだ」
「主食係りって言われただけだったから悩んだんですけど……あ、こっちにおにぎりもありますよ」
「昆布ある?」
「ありますよ! あとツナマヨと梅があります。サンドイッチはハムとチーズと、こっちが卵です」

甲斐甲斐しく説明しながら同木に家で準備してきたと思しきおしぼりを手渡す越川。まるで彼氏彼女のような光景を前に呉が遠い目をした。

「あ、くれちょんがおかず係りだったよね?」
「お前、夜中に意味不明な電話かけてんじゃねーよ……おかげで寝不足だ」
「でも結局作ってきてくれたんだねー! さてくれちょんの腕前やいかに!」

どん、と越川持参の弁当箱の隣に置かれたタッパーの中身は呉のお手製である。
昨日の夜中、就寝する寸前に舟渡から電話で要請を受け、断る前に切られた呉は律義にも「おかず」を作ってきたのだった。

「明日お花見するから! くれちょんはおかず係りだから手作りしてきてね!」といきなり言われて準備してくる呉も呉である。

「呉が料理……?」
「嫌なら食うな」
「食べます! 楽しみですね!」
「エッちゃん、早く開けようよー!」

同じく「デザート係り」を任せられた同木の怪訝そうな声はさておき、越川と舟渡は鼻歌でも歌いださん勢いで完全に浮かれており、不機嫌な呉をものともせずタッパーに手を手をかけた。

ぱかっ

「おぉおお!! マジでくれちょんが作ったのこれ!?」
「……なんか文句あんのか?」
「うわぁ! 呉くん料理上手なんですね!」

半透明のタッパーの中にはピーマンの肉詰めやら卵焼きやらカボチャの煮付けやらが綺麗に並べられていた。
彩りはいいが、「女子の手作りお弁当☆」というような可愛らしいものではなく、「オカンの弁当」といった硬派なラインナップである。

「……椎茸は入ってないよね?」
「……入れてねーよ」
「本当に?」
「…ちょっとだけしか」
「入ってるんだ」

一瞬、気まずそうな顔をした呉。スーッと流れるように視線を明後日の方向に向けるが、同木の観察眼の前ではあまりにバレバレの嘘だった。
キュッと恨みがましく睨む同木に呉が困り顔で付け加える。

「刻んでつくねに入れてある……けど、味なんかしねーよ」
「やだくれちょんったら、お子様の好き嫌いを治すためにそんな工夫を!?」
「優しいですね!」
「……いや、そんなことして欲しいとか頼んでないからね。呉が勝手に……っていうか舟渡、今お子様って言った?」

大人げない自覚があったのか、同木が若干気恥ずかしそうにモゴモゴと反論するが、既に誰も聞いていなかった。
三人は食事タイムに入っていた。既にお腹の我慢がきかなかったらしい。

「同木くん、このつくねすごいですよ! 全然椎茸の味しないんです!」
「卵焼きは塩? 砂糖?」
「いや、ダシ」

葉桜の下、並べられた和洋折衷感溢れる料理の数々。ニコニコしながら待つ舟渡のために甲斐甲斐しくおかずをとりわける越川と、「お前は旦那か」と呆れ顔で舟渡の頭に手刀を落とす呉。
同木はぽかぁんとその光景を見ていたが、やがて小さく笑った。

そして箸で勢いよく椎茸入りのつくねを突き刺し、口に放り込んだ。
確かに、椎茸の味というものは意識されなかった。

「あ、どうきゅんたらお箸マナーがなってないよ」
「お子様だから」
「あれ、怒ったの?」
「全然」

ふん、と不機嫌丸出しで鼻を鳴らした同木は二つ目にも箸を伸ばしたのだった。






ちなみに舟渡は「連絡係り」でした


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