一月






「ヤンキーって学校行事に参加しないものじゃない?」
「別にヤンキーのつもりねぇから」
「え、嘘。ヤンキーじゃなかったの? じゃあ不良?」
「だからそんなもん目指してねぇ、しつこいなお前」

呉は歩いていた。いや、登っていた。そこは険しい……というほどでもなかったが、とりあえず山だった。

現在進行形で真冬の山を登っているのは、アウトドア趣味だからというわけではない。むしろ貧弱なる現代っ子らしく、寒い日は屋内で過ごすべきだと考えているくらいだ。
しかし、学生と言うのは時として無力である。意にそぐわなくても退けないときもあるのだ。

「つーかサボったら成績つかねぇとか脅されてるんだから来るしかないだろ」
「本当に学校って卑怯なやり方するよね。馬鹿でしょ寒い疲れた帰りたい」
「……その割にはよく動く口だな」
「うるさいよ」

文句タラタラに山を登る呉と同木が通う高校には、「真冬の山登り大会」と名付けられた生徒一同に不評極まりないイベントある。そしてそれが今日行われているというわけだ。

ちなみに不評のわりにほぼ全員参加なのは、不参加だと体育の成績を問答無用でガクッと下げられ、後日補習という名のハーフマラソンを走らされるはめになるからである。よって呉のような不真面目な生徒や運動が大嫌いな同木のような生徒も参加するしかない大イベントなのである。

「あ。あれ越川じゃない?」
「あいつらのクラスのがかなり先に出発してんのに……まぁ体力なさそうか、あいつ」

寒さと疲労に悪態をついていた同木は数メートル先に見知った背中を見つけた。
別に急ぐわけでもなく歩いていくと普通に追いつけてしまった。

「大丈夫かお前……って何だ、それ?」
「呉くん!」
呉が何やらオロオロしている越川に声をかけると、山道に座り込む地蔵のような物体が視界に入った。

「それが……舟渡くんが急に動かなくなってしまいまして…」

へな、と困り顔を見せる越川。その言葉に改めてうずくまる物体に目をやる。あまりに面倒くさそうなのでそのまま軽やかにスルーしたい気持ちもあったが、眉を八の字にして途方に暮れている越川を置いていくのはさすがに良心が咎める。

「立て」

とりあえず枯れ葉の上にしゃがみ込む地蔵……ではなく舟渡の肩に膝をいれる。いたって普通の膝蹴りである。

「ちょ、くれちょん! 酷い痛い寒いもうやだ帰りたい!」
「……さっき似たようなネタ聞いたばっかだから笑えねぇー」
「ね、ネタ…? 何言ってんの……て痛いいたた!」

呉は無表情のまま、やっと顔をあげた舟渡の首根っこを掴みあげて強引に立ち上がらせる。猫の子のようにされるがままの舟渡。
あまり優しさは見ないが、先ほどの膝蹴りがかなり手加減してあったのでそれなりには優しいはずである。半泣きの舟渡に伝わっているかどうかは微妙なところだが。

「で、越川はお荷物と化した舟渡を律儀に待ってあげてたの?」
「あ、はい」
「駄目だよ甘やかしたら、つけあがるだけだから」
「で、でも……」
「でも、じゃない」
「ご、ごめんなさい……!」
「早く元いたところに捨ててきなよ」
「え、え、でも……!」

まるでペットを飼う飼わないで揉めている親子のような会話をする同木と越川。
その後ろで舟渡は「むきー」と妙な鳴き声を放って、扱いの悪さに対して異議を申し立てている。しかしあっさり全員に無視されてしまっているが。

「……お前たち、あんまり問題を起こさないでくれよ」
「富岡先生?」
「何やってすんか?」

当人たちは何も気にしていなかったが、長らく騒いでいる間に後発だった生徒たちに追い抜かれており、いつの間にか最後尾付近になっていた。

生徒のアクシデントに備えて最後尾を見張り役として歩いてきた富岡は、団子状に固まった四人を前に露骨に顔を歪める。

「お前たちが最後尾なんだからはやく行け。俺もいつまでたっても帰れん」
「ご、ごめんなさい……」
「トミー先生、エッちゃんを泣かすのはよくないと思いまーす!」
「え、俺が悪いのか……ってトミーってなんだ。富岡先生だろう、富岡先生」
「くれちょん疲れたーおんぶしてー」
「黙れ、捻り殺す」
「ひでぇ!」
「っておい! 先生を無視するな!」

富岡はうなだれた。こんなに手間のかかる生徒は他にいない。
叫び声が真冬の寒々しい野山にこだまし、虚しさが募った。

「じゃあ仕方ないからどうきゅんでもいいや、おんぶ!」
「馬鹿じゃない? 自分が何歳か分かってる?」
「ぼ、僕でよければ運びますよ! 体調が良くないなんて大変ですから」
「やめとけ、それお前が潰れんぞ。つーか元気だろ、こいつ」

再び居ないように扱われた富岡はもうどうにでもなれと諦めた。
仲が良いのか悪いのか、騒がしい四人組。間違いなく問題児だが、高校生らしい無邪気な表情をしているではないか。

でもまぁ兎に角、日が沈むまでには帰りたいものだ。






隠れたアウトドア派の越川は山登りも得意でした


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