十二月






クリスマスだし、独り身同士集まって合コンっぽいことしねぇ?
学生だし、金ないし、学校の近くのファミレスとかでいいじゃん。あんま気合い入ったことすんのとか逆にキモいし。
俺、女友達に他校のフリーの可愛い子集めてくれるように頼んどくからさ。

「…みたいなシチュエーションに三百円」
「誰に賭けてんだ」

そこはクリスマス真っ盛りのファミリーレストランだった。
いつもの四人はその賑やかな店内の一角を、もう何時間にも渡って占拠していた。

何時間もダラダラしていれば自然と会話が無くなってくる。
あまりに暇なため、舟渡などは「あのお客さんたちはどんな関係なのか推理してみましょうゲーム」という至極どうでもいい企画を始めてしまっている。

ちなみに先程の長々とした言葉は斜め前に座る八人の男女のグループについての舟渡なりの考察である。
当然、正解発表などはないので特に意味のない空想にすぎないが。

そこまで暇ならば帰ればいいものを。店員的にはこう思うかもしれないが、無駄な時間の消費を彼等なりに楽しんでいるのだから仕方がない。

ドンドン入れ替わる客を好き勝手観察し、好き勝手関係性を決めつける遊びに熱中している舟渡。
「あれはきっと生き別れた親子に違いないよ! 醸す空気がよそよそしいのに、どこか懐かしいものだからね!」だとか一人で盛り上がる様は見ていて正直面倒くさい。

「あ、じゃあ向こうの好青年っぽい人とおじさん二人の組み合わせはどんな関係なんですか?」
「越川、勝手に言ってるだけなんだから真面目に取り合わないの」

ドリンクバーで注いだ三杯目のコーラを飲みながら、呉は深い溜め息をついた。
なんで、こんなところにいるんだろうか。時間の無駄遣いにも程がある。

純粋の塊である越川は、舟渡の虚偽世界にワクワクとした眼差しを向けている。まるで舟渡の言うことが正しいのだと信じているようだ。
同木は呆れ顔でそんな越川を窘めている。

「って、半笑いやめてくれる?」
「笑える光景だからな、無理だ」

何となく三人の遣り取りを眺めていると、いつの間にか顔が緩んでいたらしい。
気味の悪いものでも見たかのような顔の同木に、珍しく口端を軽く上げて呉が皮肉げに笑う。

「なにぃー? くれちょんったら上から目線ー?」
「意味もなく突っかかるな、暇だからって」

ガバッと呉に向き直ると、舟渡は語尾を伸ばしながらちょっかいを出す。

「自分は彼女だって作ろうとすれば作れたし、男ばっかのメリクリ会の中でも優位だって自信?」
「……それはお前だろ」

先程の皮肉げな顔はすっかり崩れ、呉はおもいっきりダルそうな顔をする。
学年一、いや学校一のイケメン(性格はともかく)と名高い舟渡に言われても嫌味にしか聞こえない。

「そ、そうですよね……女の子と遊んだ方が呉くんたちは楽しかったですよね……ごめんなさい」
「うわ、泣かした。呉最低。切腹して、償って」
「くれちょんの馬鹿!」
「舟渡、お前は黙れ。あと同木、酷すぎんだろテメェ」

舟渡と呉の微妙な言葉のキャッチボールに何を思ったのか、越川が露骨に悲しそうな顔をする。
それに便乗する同木や舟渡がニヤニヤと意地の悪い顔をしている。

「……越川、そんな目で見んな……」
「ご、ごめんなさい…!」

子犬のような目を向けられると居心地が悪い。
気まずげに髪の毛を触って呉は何とか泣き出しそうな越川を宥める言葉を考えた。

「あー、別にお前らと居て不満とかねぇし」
「女の子じゃないけど、構わないんですか?」
「だから構わないって言ってるだろ」

ぱぁああ、と越川の顔が輝く。同時に呉の顔がうっすら赤く染まる。
純粋で裏表のない越川に捻くれたところのある呉は弱かった。

「くれちょんったら、タラシなんだから!」
「潰すぞ」
「……エッちゃんにだけ優しくない?」
「潰すぞ」
「馬鹿! 嫌い! でも大好き!」
「ひねり潰すぞ」
「……俺にだけ冷たくない?」

きぃ、と叫んだ舟渡を綺麗に無視して呉は四杯目のお代わりをすべく立ち上がった。






「ここだって他人から見たら相当変な集団なんだろうね」
「え?何でですか?」
「…さぁ?」


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