流星群

05一流のアイドル    

 ついにやってきたペトラとの共同公演。ライブの日が近付くにつれ、ペトラとの合同練習も増えた。それが今日、結果として表れる。
 ペトラと色違いの衣装に身をまとい、控え室準備をしているヒロ。先にペトラが俺に気付き近付いてくる。
「リヴァイプロデューサー、今回はありがとうございます!」
 ペトラはいつ見ても優しい笑顔をしている。その笑顔でどれだけヒロが救われたか。「俺はなんもしてねえ」と言うもペトラの口からは感謝の言葉しか出てこなかった。その傍ら、未だにいい表情をしていないヒロが椅子に座って待機している。ヒロに視線を向けたのに気付いたのか「ヒロちゃん、レッスンの時はいつも笑顔だったのに、会場へ入るにつれ笑顔が消えたんですよ」と少し心配そうな表情でヒロを見つめる。
「オイ、ヒロ」
「っ、リヴァイプロデューサーさん、」
「なんつー顔してんだ。お前は今からステージに立って景色を見るんだろ」
「はい……」
 俺の言葉への返事も、きちんと返してこない。ペトラはヒロを元気づけようと声を掛けるも、ずっと浮かない表情のまま。
「ヒロ。お前は言ったよな、ペトラを越えると。そんな調子じゃ今日はペトラの手柄だな。……今のお前には期待できない」
 そう言うと控え室がより静かになった。ペトラやスタッフが慌てる中、ヒロは顔を上げ、俺を見つめた。ヒロの瞳には俺が映っている。
「今その瞳に移すのは俺じゃねえだろ。なあ、ヒロよ」
 その言葉で、大きく目を開くヒロ。椅子から立ち上がり、ペトラの手を握る。ペトラは心配した表情でヒロを見つめるが、そんなペトラと正反対の顔を向ける。
「ペトラさん、申し訳ないですけど、今日のライブはわたしがメインでいきますからね!」
 その言葉を聞き、ペトラもやる気満々の様子で手を握り返す。「負けませんよー!」と繋いでた手を上に挙げ、空いている手で頬を軽く叩き、準備万端の様子だ。
「お前らの結果はきちんと裏方で見てるからな」
「はい!」
 ペトラが先に控え室から出て行く。ヒロも続くよう扉を開けると「今はあなたに1番見てもらいたい」と笑って小声で言う。その返事は、ヒロに伝えることは出来ず、控え室の扉は閉まった。

 ペトラとヒロの共同公演。ペトラはいつも通り完璧にこなし、ヒロも練習の甲斐あってか、今まで見てきた中で1番の出来だった。そして、MC。ヒロが最も苦手の部分だ。だが今回は、ペトラが居るお陰で上手くキャッチアンドレスポンスが出来ていた。
「今回初めての共同公演でした。それもとても人気のペトラさんとです!今日のライブ、どうでしたかー?!」
 マイク越しに観客に感想を聞くヒロ。歓声は大きく、箱も揺れた。ヒロはそれが相当嬉しかったようで、笑顔で観客席へマイクを向ける。
「お別れが寂しいですが、次の曲で最後になります!では、スタート!」
 ペトラが曲振りを行い、演奏が流れる。先ほどまで大きな声を出していた観客は静かに、2人の姿を見ている。真っ暗になったステージ。客席はペンライトで灯っている。曲に合わされて振られるペンライト。それは、ヒロが見たかった光景に近いものなのか。
「星空みてえだな」
 キラキラ光るペンライトと他に大きな光を放つペンライトがの2色がペトラとヒロを包んだ。2人は終始笑顔でライブをし、それを無事終わらせた。
 締めの言葉をヒロが行い、挨拶をし舞台袖へ下りてくる2人。ペトラは自分の担当プロデューサーへ挨拶に向かい、ヒロは俺の元に来た。ライブ後、ヒロの疲れてる笑顔を見るのが、実は少し好きだ。ライブで全力を出し、力尽きた顔は俺にしか見せない。本人は疲れ切ってないと言うが、実際体は疲れてるだろう。そんなたわいない会話が好きになったのだ。
 今日もその顔で俺を見つめ、感想を求めている。ペトラへ視線を向けると、悲しい表情をするものだから、可愛らしいところもあるもんだ。
「良かったぞ。お前はお前らしく必死に頑張ってた」
「よかった!わたし、足引っ張ってなかったですか?」
「それはペトラに聞いた方がいい。……今日も汗だくだな」
 普段、と言うより絶対に汗のかいた人間の髪の毛を触ることはないが、ヒロのだけは特別だった。前髪をかき分けると、スタッフが置いていたタオルで顔をそっと拭くヒロ。
「今日のペンライトはどうだった」
「流石ペトラさんですね。ウルトラペンライトなんて初めて見ましたよ!すっごい発光するやつです。いつかわたしもそれを振ってもらいたいです!」
「ペンライトにも種類があるんだな」
「はい。でも今日も凄い綺麗でした。……きっとペトラさんが居なくても光は灯ってたと思います」
 ペトラの姿を見ながらヒロは笑顔で話す。確かに今日は今までの中で1番だった。それを伝えると更に喜び、ペトラの元へ走って行く。2人は笑いながら話し、着替えるために控え室へ入っていった。

「お疲れ様です」
 先に控え室から出てきたのはペトラだった。「ヒロちゃん、まだ着替えてますよ」と笑って控え室の扉を指す。
「ペトラから見てどうだった。今日の公演は」
「楽しかったですよ!私のいい刺激になりました。ヒロちゃんもそう思ってくれてるといいんですけど」
「あいつはお前を褒めてたぞ」
「嬉しいです。でも、今日のヒロちゃん、今まで沢山の練習して今日が1番の出来だったと思います。あんなに笑顔で輝いてるアイドルは珍しいですよ?」
 ペトラの中で今日のヒロの行動は最高点だったようで、感想をペラペラと喋る。すると、ペトラのプロデューサーが来たため、そこでお別れとなった。
「また次、是非共演させて下さいね」
 ペトラはお辞儀をし、プロデューサーと話しながら舞台を後にした。その数分後、ヒロが遅れて出てきた。
「遅かったな」
「すみません。いつもリヴァイプロデューサーさんに化粧が崩れてるって笑われるのでお直ししてきたんです」
「……今度からはするなよ」
「え?なんでですか?」
 理由は言わず、出口へ行こうとすると「待って下さいよー!」と走りながら追いかけてくるヒロ。隣に並び、顔を見るとふてくされた顔をしていたため頭を撫でる。
「ペトラが褒めてたぞ。今日が1番良かったってな」
「えー!嬉しい!へへ、その言葉で今後ももっと頑張って活躍しますよー!」
 ガッツポーズをし、にやけた顔で俺のことを見つめる。ペトラの言っていた通り、ヒロにとってもいい刺激になったようだ。
 ライブ後必ず行く焼肉屋へ向かう。ライブが終わった後に車の中で聞く、ヒロの感想を聞くこともおまけに。興奮が冷めない内に聞き、旨い食べ物を食う。そこまでが俺達のルールのようなものになっている。会計を済まし、今日もヒロを最寄り駅か家まで送っていこうか迷っていると「リヴァイプロデューサーさん、話したいことまだまだあるんですけど、いいですか?」とヒロが尋ねてくる。
「まあ明日はオフだしな、少しだけだぞ」
「はい!まだ、離れたくなくって」
 店の外で照らされるヒロは、ライブ会場で照らされてる表情とは違うものだった。ヒロがこんなにもステージやDVDを見ている理由を教えてくれるのかもしれない。ヒロを乗せ、エンジンを掛け家とは反対方向へ走っていく。


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