流星群

04星座を辿って    

 ヒロと帰るのは初めてだった。こいつはいつも電車かタクシーを使って出勤している。家の方向を聞くと、どうやら俺の家の方角だった。
「お邪魔します」
 助手席にヒロを乗せ運転する。事務所から家までは結構距離がある。わざわざ「一緒に帰ってくれ」と言うほどのため、何か話があるのか。お互いに無言のまま車を走らせる。
「プロデューサーさんは、どうしてこの仕事に就いたんですか?」
 やっと口を開いたかと思えば、俺への質問。プロデューサーになる理由なんて特別なものがあるものではない。
「昔やってた仕事が割に合わなかったんだ。そんな中エルヴィンが俺に声を掛けてきた」
「それでプロデューサーになったんですね。社長とは昔とのお知り合いで?」
「まあそんなところだな」
 俺の話を頷いて聞いている。俺はヒロの志望動機は知っている。確かに、アイドルからするとプロデューサーの存在は大きい。別にプロデューサーにならなくてもよかった。その判断をしたのは俺だ。しかし、俺だって思うことはある。どんな怠けた奴でも、トップアイドルにさせたい。これは所謂『夢』なのかもしれない。
「わたし、今度ペトラさんと共同公演するじゃないですか」
「ああ。……それが不安で今日帰りを誘ったのか?」
「それはちょっとだけあります。でも、わたし思ってるんです」
「何をだ」
 質問をするもすぐに返事は返ってこない。赤信号で停まる車。車内は先ほどと同じよう、無言の空気が流れる。
「リヴァイプロデューサーさん、わたし越えますよ」
「越える?ペトラをか?」
「はい。わたしまだデビューしたばっかりだし、ペトラさんみたいに知名度もあるわけじゃないですけど」  膝の上で握りこぶしを作り、視線は真っ直ぐガラスへ向かっていた。
 ヒロには大きな夢がある。それは昔見た『キラキラなステージ』。今でも十分見られているはずだが、ヒロは俺が思っている以上に強い意志を抱いているようだった。
「そんな話聞いたら、俺にも十分な負担が掛かるな」
「それはプロデューサーさんの仕事ですよ」
 視線は俺に向けられ、にこやかに笑う。ちょうど青信号に変わり、車を再び走らせる。さっきまで無言の空気はなくなり、ヒロが最近練習している歌を鼻歌で歌っている。
「新曲、どんな歌だ?」
「歌詞まだ貰ってないですか?この曲、星の歌なんです」
「星……?」
「わたしにピッタリじゃないですか?星空ってキラキラしてるし。そんな星空を眺められるように、今一生懸命頑張ってます」
 確かにヒロには合う曲だ。だが、この曲はまだ今公表しないほうがいい。ヒロがもっと上に立ち、トップアイドルになった頃に歌ったら、また違う思いが浮かび上がってくるだろう。
 ヒロの済んでいるマンションへ無地送り届け「お疲れ様でした」とお辞儀をし、エントランスへ入っていくことを確認し、自分の家に向かった。
 その日以降からまた慌ただしい日々になった。俺が出来ることは、ヒロの体調面のサポート、営業先への連絡、ライブ会場への許可。自分も忙しいが、ヒロもとても大変なようで、レッスンが終わる頃にはいつもヘロヘロとした表情をしていた。
「今日もお疲れだったな。ジュースの差し入れ入ってんぞ」
「嬉しい。いただきまーす」
 着替えを終え、ソファで飲み物に口付けスケジュール表を見ていた。「そろそろだなあ」と小声で聞こえたため、何についてか聞くと共同公演のことだった。
「トレーナー褒めてたぞ。共同公演のためにいつも以上にレッスンに集中してるってな」
「あはは、やっぱプロデューサーさんには伝えてるんですね。あ、それより聞きたいことがあるんですけど」
「何だ?」
「新曲、違う方で出演するんですね。わたし、いつも練習してた方だと思ってました」
「……まあ、事情があってな。今やってるその曲は完璧なんだろうな」
「はい!もっと良くしていきますよ」
 ゴミ箱にジュースの空き缶を捨て、再びソファへ座る。するとDVDレコーダーを触り、テレビの電源を付ける。そのDVDは気付けばヒロがいつも見ているものだった。そのステージに立ち、歌って踊る他のアイドルを見ている。表情は変わらず、何も言わず、ただ、真っ直ぐと。MCに入ったようで、MCの間だけ携帯を見ている。その後、曲が始まると同じ視線をテレビへ向ける。
「よく見てるな、そいつの公演」
 ヒロに声を掛けるといつも振り向くが、これを見ている最中はMC中以外一切目を離さない。
「この人に理由があるんです。わたし、もっと頑張らなきゃ」
「理由?」
 問い詰めても口を開く様子はなかったため、その話題の件は諦めパソコンを閉じる。
「オイ、もう閉めるぞ」
「あっ、はい。今日も一日お疲れ様でした!」
 テレビの電源を切り、身支度を調えヒロは事務所を出て行く。自分も帰る支度をし、事務所の扉の前に立つ。
「あの女とヒロに何の関係があるんだろうな」
 誰にも聞こえない独り言。鍵を閉め、駐車場へ向かおうとすると確かにちらほらと星がちりばめられていた。


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