流星群

03美しい空     

 あのステージから数日、大きな変化が現れた。今までCM出演などにしか出ていなかったが、あれが影響でテレビ番組に呼ばれたり、雑誌の撮影などで忙しい日々を送っていた。MCが苦手なヒロには、エルヴィンが対応し、その他を俺が担当していた。ヒロの表情はあまり変わらず、常に笑顔で「お仕事がいっぱいあるのって楽しいですね!」と刺激になっているようだった。また、ライブ公演も少しずつ入ってきており、その度にヒロは「もっと大きなステージに入りたいです!」と意気込んでいた。
 そんなバタバタとした日々を送っていたある日、ヒロが「新曲ってないんですか?」とボイトレ後にトレーナーに聞いていた。
「ヒロちゃんの歌声なら、新しい楽曲提供してもいいかもね」
「ほんとですか!?嬉しい!たくさんの歌、歌いたかったんです!」
 その会話は俺も聞いていた。確かに同じ曲ばかりやっていると、常連には退屈になってしまうだろう。それは良い案だ。早速楽曲提供している会社へ連絡する。
 その日から数日後、すぐに提供曲が送られてきた。ボイストレーナーへ渡し、ヒロをレッスン場へ連れて行く。その間、俺は営業先への連絡、今後のライブの日程を確認する。
「……ん?」
 ライブの日程をパソコンで確認していると、あるソロ演出者との共演ライブの予定が入っていた。内容を確認するためにクリックすると、相手は大手でステージも大きな箱でやることが多い奴だった。名前を見ると、プロデューサーなら大抵誰でも知っている名前だった。
「ペトラか」
 相手は大手企業のソロ演出者。何故ヒロと共演を?不思議に思い、相手プロダクションにメールを送る。すぐ返事が返ってき『ペトラと共演することでヒロさんはもっと伸びるでしょう。是非共演をお願いします』とのこと。確かにソロ以外で舞台に立つのはいい刺激になるだろう。共演すると返事を送り、ヒロがレッスンを終えるまで残りの仕事を片付ける。
「お疲れ様です!」
 レッスン着のままヒロは入ってきた。昼間の共演の話をすると、大きく目を見開き口を開ける。ヒロもペトラのことは知っていたようで、少し青ざめた顔で「……何かの冗談ですか?」と小声で話す。
「冗談じゃねえよ。相手から誘ってきたんだ。普段ソロで活動してる分、ペトラと共演するのは良いことだ。良い部分を盗めるかもしれねえしな」
「わたしがペトラさんと……」
 提供曲の紙を握りしめ、頭を抱えるヒロ。余計なことをしたかもしれないが、ヒロが伸びるのは確かだろう。顔を上げるよう促すと、あまり良い表情はしていなかった。
「足引っ張らないかが心配です……」
「そんな心配してたのか。相手は慣れてるんだ。お前が少し躓いたとしてもフォローしてくれるだろ」
「うう……緊張するなあ」
 ヒロにペトラとの共演日を伝えると、携帯のアプリで日程を入れている。
「よし!これからもーっと頑張りますよ!」
 自分の頬を軽く叩き、気持ちを入れ替えたようだ。「じゃあ、着替えてきますね」と一度事務所を後にする。今後のスケジュールを印刷し、パソコンの電源を落とす。すると、ヒロと入れ替わるように、エルヴィンが事務所に入ってきた。
「どうした」
「さっきヒロが浮かない顔をしていたからな。何か厳しい言葉でも言ったのかと思ってな」
「言ってねえ。……もう少し器がでかくなってもらわねえとな」
「まあヒロのペースでやっていけばいいだろう。リヴァイ、取引先との連絡は取ったか?」
「ああ。もう全て済んでる」
「ならいい。偶には私にも投げてくれていいんだぞ」
「間に合ってる」
 エルヴィンと話しているとヒロが入ってき「社長!お疲れ様です!」と元気よく挨拶をする。 「ああ、お疲れ。今度のライブ楽しみにしてるからな」
ヒロの頭をポン、と叩き部屋を出て行く。「社長も知ってるんですねえ」とヒロはエルヴィンが居た場所をぼーっと眺めていた。
「ヒロ、今後のスケジュールだ」
「はい。わー、すごい」
「すごい?」
「数ヶ月前なんて営業一本あればいい方だったのに、今じゃこんなにお仕事もらえて。それがすごいなあって」
「それはお前の実力だ」
 スケジュール表で口元を隠すが、笑っている表情を浮かべている。「わたしだけじゃないですよ、プロデューサーさんの力もあってです」とお辞儀をする。
「プロデューサーさん」
「なんだ」
「今日、一緒に帰りません?」
 ヒロは車で通勤していないため、一緒に帰るとなると俺の車になる。特に断る理由もなかったため、承諾した。
「今日はプロデューサーさんと話したい気分なので」
 ヒロの顔を見ると、いつもと変わらない笑顔だった。しかし、どこか寂しげな表情にもみえたが、それには突っ込まず2人で事務所を出た。


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