流星群

02譲り受けるモノ    

 ヒロがアヴェプロダクションに入ってから数日経った。最初はおぼついていたが、要領が掴めてきたようで、初めの戸惑いなどは目立たなくなった。そんな日々が続いたある日、所謂ライバルプロダクションに、ライブには出ないのかと話を持ち出された。いつライブがあってもいいように、ダンスレッスンやボイトレは行っていた。しかし、ヒロはあれだけ『あのステージ』と言う割には、ライブがしたいとは言ってこない。
 ダンスレッスンが終わり、着替えて事務所に入ってきたヒロに昼間疑問に思っていたことを聞いてみた。
「お前、ライブには出たくねえのか?」
「出たいですよもちろん!ですけど、わたしその位置に立ててますかね……」
 営業で地方に出ることは多くなった。ヒロの顔を見たことある人間も中にはいるだろう。
「……次のライブ、お前を出す」
「えっ、いいんですか?!」
「そのためにレッスンしてるんだろうが」
 ヒロは頬に手を当て下を向いている。表情が感じ取れなかったため、声を掛けると涙目になっていた。
「おい、どうした、」
「う、嬉しくて……。プロデューサーさん、本当に出れるんですね?」
「ああ。箱は小せえが、お前の顔は売れてる。人も入るだろう」
「やっと、叶えられるんだ……。一歩前進ですね?」
 涙を流しながら笑うヒロ。スケジュール表を渡し、次の公演の日時などを確認させた。「輝くかなあ」とスケジュール表を見つめる。

 遂にやってきたヒロのソロ公演。衣装もこの日のために揃えた。その衣装が気に召したようで、鏡の前でクルクルと回る。時間ギリギリまで練習をしていたいと言ったため、控え室へ連れて行く。
「プロデューサーさんは裏方で見てるんですよね?」
「そうだ。とちるなよ」
「だから今練習してるんですよー!」
 軽い声出しに、ストレッチをするヒロ。時計を見ると、もうそろそろ始まる時間だったため、一緒に裏方に行く。
「……緊張してるか?」
「ものすごく。でも、楽しく全力でぶつかってきます!」
 MCが入り、それが終わればヒロの出番だ。するとヒロは「リヴァイプロデューサーさん、手握って下さい」と手を差し出す。
「あ?なんでだ」
「緊張を渡すんです。プロデューサーさんも緊張しながら見てて下さいね?」
 ヒロの言うとおり手を出すと、軽く繋がれる指。「よし!行きます!」と手を離し、舞台へ向かっていった。

 初めてにしては上出来だと思った。ダンスのキレや、歌声にもブレはなかった。しかし、MCが苦手なようで、そこだけは観客も少しだけ静かになっていた。だが、それを除けば満点に近い。舞台袖からステージを見ていたが、ヒロの求めていたサイリウムもちらほらと見えた。
「今日はありがとうございました!初めてで凄い緊張しましたが、とっても楽しかったです!またキラキラなステージを見せて下さいねー!!」
 締めの言葉で大きく揺れる箱。笑顔でステージを下り、俺の元へやってくる。激しいダンスだったため、顔は少し火照っており、汗もかいていた。
「上出来だったぞ。あと風邪引くから早く着替えろ」
「はい、ありがとうございます。でも、もう少しこのままじゃ駄目ですかね」
「……余韻に浸りたいのも分かるが、今日は初めてだったんだ。これで体調崩したら次のライブなどに支障が出る」
「あはは、そうですね。……ねえ、プロデューサーさん」
「どうした」
「今日、すごい楽しかったんです。素敵なステージが見られました。これもリヴァイプロデューサーさんのお陰です。ありがとうございます!」
 ヒロは笑って着替えに向かった。そんなヒロの笑顔を見たら、俺もこれ以上頑張らなければならない。あのDVDのようなもっと大きく輝いたステージを見せてやりたい。

 無事着替えが終わったようで、控え室から顔を出してきた。汗のせいか、化粧もよれていた。それを指摘すると「プロデューサーさん、乙女心が分かってませんよ!」と両手で顔を隠した。
「無事終わってよかったな。飯でも食いに行くか」
「わたし焼き肉食べたいですー!いいですよね?」
「初舞台アフターってか?まあ、別に構わねえ」
「やったー!」とヒロは走って車まで向かう。何事も最初が肝心だ。ヒロは今日のステージをどう感じたのか。これが刺激になり、今後の仕事に影響が出ると俺にとってもヒロにとってもいいことだ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -