流星群

01リズミカルな空気

 俺の仕事はプロデューサー。事務所に送られてくるアイドルの卵をトップアイドルへ導く仕事をしている。だが、そう簡単にはいかない。面接に来た女は数人見てきたが、生半可な気持ちの奴、興味本位で履歴書を送ってくる奴。色々な人間を見てきた。ここ最近は、履歴書が送られてくることも少なくなってきた。
「……ヒロ・サブナック」
 昨日送られてきただろう履歴書。正直言って今までで1番向いている女だ。顔も悪くなければ、志望動機もしっかりしている。実際に会ってみないと分からないが、履歴書に書いてある番号に電話を掛ける。
「もしもし。アヴェ事務所ですが」
『はい!先日履歴書を送らせて頂いたヒロ・サブナックと申します』
「直接お話したいのですが、本日は事務所へ来られますか?」
『大丈夫です。一時間ほどで着くと思
います』
「ではお待ちしております」
 電話を切り、思ったことはやはりアタリであった。声のトーン、声量。歌を歌うにはバッチリだ。これで体力があれば、文句なしのアイドルになるだろう。
 ヒロとの電話を切って約1時間程経った。すると、インターフォンが鳴ったため、カメラで確認すると、履歴書に貼ってあった女の顔が映っていた。
「お待ちしてました」
「ありがとうございます」
 会議室へ移動し、名刺を渡す。「リヴァイプロデューサーさんですね」と俺の名前を確認している。
「早速だが、志望動機を聞こうか」
「はい。わたし昔子役としてステージに何度も立ったことがあったんです。学生生活を卒業してからは、一般企業に就職したんですが、やっぱりあのキラキラとした輝いたステージが忘れられなくて、仕事を辞めこちらへ応募しました」
「昔芸能経験があるのか。それでアイドルになりたいと」
 俺の疑問に大きく頷くヒロ。きちんとした動機。これだけで十分なくらいな立派な姿勢だ。
「よし、合格だ。これからはアヴェプロダクションでみっちり働いてもらうぞ」
「ありがとうございます!」
 笑顔で手を組むヒロ。その瞳はサイリウムで光るステージのような輝きを放っていた。
 社長室へ向かい、ドアを開ける。社長のエルヴィンは書類を見ていたが、ヒロの存在に気付いたようで「合格者か?」
と笑顔で俺とヒロを見つめる。
「今まで出会ったこともない良い役者だ。ヒロ、こいつは社長のエルヴィンだ」
「ヒロと言うのか。長い付き合いになるだろう。これからよろしく」
 ヒロの前に立ち手を差し出すエルヴィン。その手を握り返し「こちらこそよろしくお願います!」と真っ直ぐな瞳で返事をした。

 まだデビューしたてのアイドル。営業やレッスンの両立はきちんと出来ている。営業ではきちんと会社を売るようしつこく伝える。ヒロは営業先の人間にも気に入られ、CMの出演が決まった。
「プロデューサーさん!CM演出決まりましたね!」
 帰りの車でヒロは嬉しそうに話す。こいつ自身の頑張りもあるが、俺もヒロが売れるよう色々な場所へ電話を掛けたり、俺から営業先へ行ったりした。どちらの努力も無駄にはならず、しっかりと成績を残している。
「そう言えば、わたしはずっとソロ活動ですか?」
 運転している俺に尋ねてくる。今のところ、履歴書が送られてくることもなく、ヒロ単体で仕事をしている。ここの会社の方針は、1人に力を入れトップアイドルへプロデュースしていくことだ。ヒロが売れたらユニットで売っていくのもアリだ。しかし、今のところその予定はない。それを言うと「わたしトップアイドルになれますかね?」と初めて弱音を吐いた。
「お前の夢はキラキラ輝いたステージを見ることだろ?そう簡単に弱音を吐かれると、こっちもやる気が出ねえ」
「あ、違うんです。確かにプロデューサーさんの言うとおりなんですけど、トップとなると相当頑張らなきゃいけないですよね」
「まあ、そうなるな」
 車は事務所へ着き、車庫に入れる。ヒロには先に事務所へ戻ってもらい、今日行った営業先へ電話を掛ける。営業先の人間との仲を深めるのは俺の仕事だ。きちんとお礼を言い、俺も事務所へ向かった。
 部屋に入ると、DVDを見ているヒロが居た。何のDVDを見ているのか覗くと、ヒロと同世代くらいの女が歌っているコンサートDVDだった。
「リヴァイプロデューサーさん。わたし、こうなります。沢山の人に笑顔を届けたい」
「良い心がけだな」
 ソファへ鞄を置き、営業先の資料へ目を通す。するとヒロが口を開く。
「昔、子役をやっていたって言ってましたが、こんなキラキラしてなかったんです。踊って歌って。わたしの姿を見て皆に笑顔になってもらいたいです。……リヴァイプロデューサーさん。わたしをトップアイドルにして下さい」
 ヒロの視線は俺に向かっていた。こいつとは長い付き合いになっていくだろう。資料を置き、ヒロの目の前に立つ。 「俺がプロデュースしてるんだ。必ずトップアイドルへ導いてやる」
「夢で終わらせないで下さいね?このステージを見るまでは、わたし絶対諦めませんから!」
 ヒロは笑顔でテレビを指す。「これから忙しくなるからな」と言うと「どんとこいですよ!」と再び笑って見せた。


 
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