磨けば光るダイアモンド(Levi)



 休みの日は、心のリフレッシュをしようと言い出したヒロ。数年前からこの約束は守られている。休みの日はゆっくり起きたっていい。どちらかが早く起きた方が寝ている相手を起こす。そんなルールも気付けば出来ていた。
 今日は俺の方が早く起きた。隣でまだ寝息を立てているヒロの頭を撫で、ベッドから降りる。その際、彼女が何かを発言したが、すぐに寝息を立てた。
 顔を洗い、身支度を済ませ、目を通していない書類に触れる。今後の壁外調査についてズラリと文字が綴ってある。何枚もあるが、今日は流し見程度に終わらせる。その後、サインが必要な書類全てにサインをする。
 部屋の方からは物音がしない。ヒロは未だ夢の海の中だろう。偶には出掛けず、このまま部屋で過ごすのもアリだろう。ただ、暇そうにしていると休みの日と関係無しに仕事を投げられてしまう。もし、出掛けず過ごすとなると、部屋からは出られない。
 彼女を起こそうと、寝室へ行くと縮こまった姿がそこにはあった。昨日は早く寝たはずだが、いつもより起きる時間が遅い。
「よくそんな寝れるな」
 俺の小言は部屋の中に沈んでいった。ヒロは一向に起きる気配はなし。これだけ気持ちよさそうに寝ていると、流石に起こすのも可哀想になってくる。仕方ないと思い、再び書斎へ戻り紅茶を注ぐ。この紅茶の茶葉を選んでくれたのは彼女だ。試飲し、俺にも「飲んだ方がいいよ!」と笑顔で勧めてきた。口当たりはサッパリで、味の強調も強くなく落ち着いた風味が鼻から抜けた。そのまま流れるように買い、今でもきちんと保管し大切に飲んでいる。
 今まで自分で選んでいた方がいいと思っていたが、ヒロはとてもセンスがある。買い物に対し無頓着の俺に対し、彼女はテキパキと進んで買い物をしていく。そんな姿を見るのも好きだ。時に俺の意見も求めてくる。困ったような笑顔で「どっちがいいかな」と尋ねてくる表情は、誰よりも可愛いものだ。その為、買い物に行く際は必ず2人で出掛け、意見を尊重し合い、充実した1日を送るようにしている。
 だが、今日はいつもと違う。起こさなかったら、それはそれで文句を言われるのを想像できるが、いつも硬い表情をしている彼女が、こんなにも安らかに眠っていると、誰でも声を掛けづらくなるものだ。紅茶を一口飲み、半端にしていた書類整理を始める。

 時が経つのはあっという間だ。昼前に起き、もう日は沈みかけている。彼女がどれだけ寝るのか、いつ自分で起きてくるか待っていたのだが、まさかここまで熟睡だとは思わなかった。机の上を片付け、もう一度ヒロの元へ行く。
「まだ寝てんのか?……凄いな」
 昼間見たときと変わらない格好で、寝息をすう、と立てている。もうこんな時間だ。出掛けるにも流石に時間が悪い。こんな時間まで寝ていると、きっと夜寝れずに朝を迎えるだろう。
「オイ、ヒロ。起きろ」
「ん〜……?リヴァイ……?」
「もう夕方だぞ」
「え〜うそ、そんな寝てた?」
「ああ。ぐっすりだったぞ」
「はは、疲れたのかなあ〜」
 寝起きのヒロは必ずこの口調だ。普段はハキハキ喋っているが、寝起きのときだけは、ふわふわとしたのんびりな口調で話す。ヒロはベッドから体を起こし、大きく伸びをする。その後にんまりと笑い「おはよう。遅くなっちゃったけど」と挨拶をする。
「おはようのキスは歯磨いてからだぞ」
「えへ、分かってる」
 布団から離れ、一目散に洗面台へ向かっていく。お互い寝相は悪くないが、皺になったシーツをピン、と伸ばし枕と布団も整える。急いで準備したのか、まだ寝癖がある状態で俺の元へ来るヒロ。手を引かれ、彼女と対面する。目を閉じ、キスを待っている表情がとても愛おしく、少し長めにキスをする。満足したのか、再び笑顔を浮かべ前から抱き付いてくる。
「ごめんね。今日出掛けられなかった」
「気にすんな。外になんていつでも出られる」
「でも」
「偶にはいいだろ。ずっと寝てる日があっても。これも休みの日にしか出来ねえぞ」
「……リヴァイがそう言うなら、いっか」
「ああ。ヒロの行きたい場所は、また次に行くぞ」
「うん!ありがとう。リヴァイ大好き」
 俺の前では少し子供っぽくなるヒロ。この若さで班長を務めていると、甘える相手は少ないだろう。そんな中で俺と交際しているとなると、相手は俺しかいないはずだ。
「……俺以外が居たら絶対に許さねえけどな」
「んー?何の話?」
「いや、こっちの話だ」
「変なリヴァイ」
 くすくすと笑う彼女は年相応の表情だ。髪の毛を撫で、そこにキスを口付けると「そこじゃないよ?」とヒロから頬へのキスを落とされる。
 彼女は十分若いが、それ以上前の若いヒロを知っている。昔のように肩を並べ、彼女の行きたいところへ連れて行くのが俺の役割だ。人間、誰しも歳を取るが、彼女と居ると昔抱いていた気持ちも思い出せる。それほど、俺にとってヒロが必要で、大切な存在だ。
「そう言えば」
「ん?」
「俺が起きたときに、お前寝言発してたぞ」
「うそー!恥ずかし!」
 その一言で彼女の顔はみるみると紅く色付く。「どんな夢見てたんだ?」と聞くと、眉を下げ笑顔で「リヴァイの夢」と小さく話すヒロ。きっと楽しい夢だったのだろう。彼女が笑顔を浮かべる時は、絶対にいいことがあったときだけだ。
「夢にまで出たのか」
「うん。時々出てくるよ」
「何でだろうな?」
「……その言い方分かってるくせに!リヴァイが好きだから」
 頬を染め、笑みを深くするヒロの顔を見れただけで十分だ。今日1日、特に何も起きず終わると思っていたが、やはりヒロの存在は大きい。
  その後食事を済ませ、明日の支度をする。隣に居るのがヒロだったらこの先も生きていける。彼女に愛を注ぎ、今日を締めた。


BGM:桐生一馬/本日はダイアモンド
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