アナタを待っている僕がいるんだ3(Levi)



 その後もヒロはコンビニに訪れた。俺の名前を呼んで「どのくらい食べようかな」と相談してくる。お前の場合は食べることは目的じゃないだろう。溜息をつき、レジから離れ、ヒロの元へ行く。
「今回はゼリーだけにしとけ」
「えー!やだよ!ゼリーじゃ爽快感が……」
「うるせえ。大体止めろって言い出したのはお前だろうが」
「そうだけどさあ……。あ、新しいラーメンあるじゃん。これ全部買う」
「……ヒロよ、俺達は付き合っているんだぞ。彼氏の言うことは聞けねえのか?」
「だってずっとしてることを急に止めろって言われても出来なく無い?だから徐々に減らしてくの」
「……そうか」
 結局かごには、山ほどのラーメンを積まれ、おにぎりとパンも一緒に入っていた。今回は煙草はいいようだ。全部レジに通し、一緒に袋詰めをする。手の甲の傷は、まだ治ってない。
「今日ももりもり食べるねー、おやすみ」
「オイ、ちょっと待て」
 立ち去ろうとしていた彼女を呼び止めると、不思議そうな顔をし、再びレジ前まで戻ってくる。
「なに?吐くなって?」
「それもそうだが、今日は俺の家に来い」
 ポケットから鍵を出すと「ええ?」と困惑した顔で見つめる。半ば強引に渡すと腹を括ったのか、溜息を吐きながら「何号室?」と尋ねる。
「三○四だ。汚すなよ」
「……でも吐くから。それだけは譲らないから」
「あんま調子乗るなよ。俺達の関係は何だった、ヒロ」
「……カップル」
「そうだ。彼氏の言うことは聞け」
「……はあ……。まあ、頑張ってみるよ」
 ヒロの表情は暗くなってしまったが、これで過食嘔吐を止められるなら、彼女にとっても良いことだろう。彼女は嫌そうな顔をして店を出て行った。今日の夜は品出しもある。ヒロが空けた棚に無の感情でひたすら詰めていく。彼女はちゃんと俺の家に来ているのか。吐いてないか。色々心配だが、朝まで家に戻れない。昨日ヒロの家に行った際に連絡先を交換したが、携帯を弄る暇もあまりない。客の居ない時間に連絡を送ってみたが、返信なし。倒れてないだろか。今日ほど早く帰りたいと思ったことはない。

「お疲れ様です、店長」
「ああ。今日はアルミン一人だけか?」
「あとからミカサが来ます」
「そうか。頑張れよ」
「ありがとうございます!」
 今日も念のため、二人分の朝食を買い、帰路に着く。家のドアの前に立ち、鍵を回すと既に開いていた。もしかしてヒロが来ているのか?玄関の土間を見ると、赤のクロックスが脱ぎ捨てられていた。これはヒロの物だろう。鍵も掛けず全く不用心な女だ。靴を並べ、リビングに入ると椅子に項垂れながら寝てるヒロ。その横にはラーメンやらのゴミが綺麗にまとめられていた。
 声を掛けると「……リヴァイさん……?」と眠そうな顔で俺と目線を合わせる。机から体を離し大きく伸びをするヒロ。一つ大きな欠伸をし、ゴミに目をやる。
「全部食べた」
「吐いたか?」
「ううん。だからすごい気持ち悪い」
「……そうか」
 俺との約束は守ってくれたようだ。きっと彼女は今吐き出したい欲で一杯だろう。「……トイレ少しだけだったら使っていいぞ」と言うと、怠そうに体を引きずりながら、トイレへ直行するヒロ。まとめられたゴミは、ゴミ箱に捨て、手洗いうがいをしていると、嗚咽がトイレから聞こえる。心配になり、ドアをノックすると「だ、だいじょう、ぶ」と余裕が無い声が返ってきた。
 暫くトイレ前で待っていると、鍵の開く音がし、血色が無いヒロがフラフラと立ち上がり、それを支えてやる。
「オイ、今すぐうがいしてこい」
「うん……ありがとうリヴァイさん」
 洗面台まで連れて行き、うがいをするヒロ。その姿を見届け、風呂の湯を溜める。割とシャワーで済ますことが多いが、今日は風呂に入りたい気分だ。ついでにヒロも誘おうと、彼女の元に行くと「胃液めっちゃ吐いちゃった」と苦笑いするヒロ。
「ヒロよ、一緒に風呂に入るぞ」
「うん……うん!?」
「俺達は付き合っているんだろ?じゃあ一緒に風呂に入るのも普通だろう」
「ええ……?」
 再びヒロは困惑した顔をする。うーんと唸り「でも付き合うの条件に出したのわたしだしな……」とぼそぼそと口に出している。もう一度彼女の名前を呼ぶと「ああ〜、もう!分かった!入ればいいんでしょ!」と逆ギレをされた。
「俺達はカップルだからな?」
「……今はその言葉も笑顔も嫌い」
 ヒロは俺のことをキッと睨むと、俺の手を引き、脱衣所まで歩く。脱衣所のドアを開けた途端、こちらに振り返り悲しそうな顔をする。
「ねえリヴァイさん、今からわたしの体に変なことがあっても何も言わない?」
「ああ。色んな女を見てきたからな。今更何があっても驚きはしねえ」
「色んな女をとっかえひっかえしてたの〜!?やば……」
「そう言う意味じゃねえ。色んな変人を見てきたんだ。ヒロは俺にとっては普通だ」
「……普通?わたしが?」
「大丈夫だ、ヒロ」
 その言葉を言うと大きな瞳から一滴の涙が流れる。抱きしめてやると、子供のように泣くヒロ。暫くの間背中を摩ってやると「ありがと、もう大丈夫」と笑顔を浮かべる。ここ最近で分かったことだが、ヒロの表情はコロコロと変わる。それも可愛らしいことだ。
 それと同時に風呂が沸いた音がする。その場で服を脱ぐと「……すっごいカラダしてんだね」と先ほどとは打って変わった表情で見つめる。
「お前も脱げ」
「やだ〜、誘い方が強引。ちゃんと入るからリヴァイさん先入ってて?」
 そうヒロに言われ、背中を押されそのまま風呂場に入る。先にシャワーで頭と体を洗い、湯船に浸かる。一息吐き、彼女を待つ。だが、十分しても入ってこない。
「オイヒロ、早くしろ」
「あ、待って。もう入るから」
 その言葉の後、ゆっくりとドアを開けられ「お邪魔します〜」と腕を隠すように入ってくる彼女。彼女も先に頭を洗い「トリートメントどこ?」と言われたため、渡してやり、その間顔を洗い全てを流し、体を洗っている。盗み見するのも良くないと思うが、彼女の体は酷く痩せている。あんなに食べる癖に、この痩せようだ。それだけ過食嘔吐を続けている証拠だろう。
「はい、湯船入るよー、リヴァイさんもっと奥行って」
「……ああ」
 彼女はまだ腕を隠している。肩に腕を置き引っ張るように、こちらに体を触れ合わせる。最初は驚いた様子だったが、すぐに笑顔で振り返り「リヴァイさんも男だねえ」と、パシャリと肩にお湯を掛ける。
「ヒロよ、頑なに腕を見せないのは何でだ?」
「見られたら引かれちゃうから」
「そんなことしねえ。言っただろ?俺達は付き合っていてお前のことが知りたい、と」
「……そう言われちゃったら見せるしかないね。はい、どうぞ」
 ヒロはそう言い、両腕を前に出す。最近出来た傷もいくつかあった。縫った後もあり、どれだけ深く切ったらそうなるのか、と不思議でしょうがない。
「リヴァイさんだけだよー、ヒロちゃんの腕見られるの」
「彼氏の特権か」
「ん、まあそんな感じ」
「……これも止められるといいな」
「……頑張るよ、リヴァイさんの彼女なんだから」
 ヒロは再びこちらを振り返り、笑顔を浮かべる。優しく頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。
 ヒロのことがもっと知りたい。俺で出来るなら病気だって治してやりたい。全部、俺色に染め上げたい。最初はただの興味本位だったが、ヒロと付き合ってく内にこんな感情を抱くようになった。変わったのは俺なのか。変わっているのはヒロなのか。そんなの今更どうだっていい。ヒロを愛せるのは、きっとこの世で俺だけだ。


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