アナタを待っている僕がいるんだ2(Levi)



 相変わらずヒロは分厚いパーカーを着てコンビニにやって来る。今日はレジに立っていた俺に手を振りかごを持つ。いつも通り食品を手に取り、気付けばかごはいっぱになっていた。今日も何万円もする買い物だろう。そして彼女はレジにかごを乗せる。
「リヴァイさん、五十四番カートンで」
「今日は煙草も買うんだな」
「うん。結構吸っちゃうから。リヴァイさんも?」
「……他人に話す内容じゃねえな」
「えーつれないなあ。まあいいや。お会計お願いします」
 無言でレジ打ちをしていると、ヒロは携帯を眺めている。そろり、と腕を見ようとするも、袖口が詰まっているものだったので、傷があるかどうかは分からなかった。
「おいヒロ」
「え、はい?」
「お前、過食嘔吐してるだろ」
 その言葉で彼女は携帯から目を離し、俺をジッと見つめる。少し泣きそうな顔をし、マスクを上まであげ「……察しいいなあ」とぼそりと口に出す。
「わたし、ビョーキだから。しょうがないの。もう何年もやってるから治らないし」
「病気……?」
「そそ。さっきのリヴァイさんの言葉借りるけど、他人に話す内容じゃないから」
 にこりと目元に笑顔を浮かべる。袋に商品を入れていると、ヒロも一緒に手伝ってくれた。長細くて綺麗な指だ、と思って見てると手の甲にいくつかの傷があるのに気付いた。ヒロは俺が見ているのに気付いていないようだ。
「はい、今日もありがとうございました」
「……ああ」
「……わたしのビョーキ、治したかったら家来る?」
「は?」
「あはは、なんでも。じゃあね」
 ヒロは起用にレジ袋を持ち、帰って行った。今日も食品棚は空っぽだ。後から来た客は困るだろうな。だが、客に一々構ってられない。ヒロのように万越えする客が来ない限り。

 無事夜勤が終わり、朝番のアルバイトに挨拶をし帰る。だが、今日は寄る場所がある。ヒロの家だ。何号室に住んでるか聞いてないが、以前居酒屋へ行くときに、ドアの前に立っていた場所へ行けば、彼女の部屋だろう。過食嘔吐をしていても、全て吐いているため腹は減る、とハンジに前聞いた。そのため、コンビニで軽い朝食を二人分買い、彼女の家へ向かう。
 二○三号室。確かここがヒロの部屋だったはずだ。インターフォンを鳴らすも返答無し。何度か押すとバタバタと奥から音がする。寝ていたのか。ゆっくり開かれたドア。半袖を着ていたヒロが目をこすりながら「だれ……」と俺に目線を合わせる。
「……リヴァイさん……?」
「ああ。あがるぞ」
「え、ちょっと待って。状況が追いつかない」
 そんなヒロの言葉を無視し、部屋に入ると何も無い殺風景な部屋に、山積みにされているゴミが俺を出迎えた。ヒロは「待ってってば」と慌てて服を着ている。そこで振り返ると髪はボサボサで露出している部分には赤い線。ハンジの言っていた通りだ。彼女は自傷行為をしている。
「お前の病気を治しに来た」
「はあ?あの言葉本気で受け取ったの?!リヴァイさん変わってるね」
「お前に言われたくねえな」
「あーはいはい。ゴミはちゃんと捨てるからそんな目で見ないで」
「綺麗にしてるんだな」
「うーん、まあ。友達居ないから暇なときは掃除してる」
「そうか」
 部屋をぐるりと見渡すと、戸棚にたくさんの薬が置いてある。全て瓶状の物だ。そこを見られたくなかったのか「適当に座っといて」とカーテンを閉める。俺も言葉しか聞いたことがないが、オーバードーズをしているのだろうか。実際にしている奴に出会ったことがないため、勝手に結びつけるのはやめておこう。ただ『病気』と言っていたため、その薬なのか。俺はハンジと違って、そういう知識もなければ知ろうとも思わない。
「で、何で来たんだっけ」
「……単刀直入に言う」
「うん」
「お前のことが気になる」
「……はっ、病気のわたしに同情?もう散々されたから要らないよ。ありがた迷惑」
「確かに同情もあるかもしれないが、お前のことがもっと知りたい」
「ただのコンビニ店員と客の関係で?」
 ヒロは櫛で髪をとかし、片耳に髪をかける。そこにはたくさんピアスが空いており、これも自傷行為の一つなのだろうか、と考える。
 確かに彼女の言うとおり、俺とヒロの関係は「店員と客」の関係だ。だが、俺はこいつのことをもっと知りたい。俺を頼って欲しい。治せるものだったら、病気だって治してやりたい。こんな感情を抱くのは初めてだ。ヒロが特例だと思うが、こんな女をほっとける男がいるのか。少なくとも俺は救ってやりたい。
「……じゃあさ、リヴァイさん。条件一つ」
「何だ?」
「わたしのカレシになって」
「……何でだ」
「カレシじゃなきゃ、わたしが嫌だから。あんまり知らないじゃん?お互いのこと」
「まあそうだな」
「過食嘔吐止めたかったら、コンビニのとき注意するとかさー、色々方法はあると思うよ?」
「……分かった。乗った」
「じゃ、わたしとリヴァイさん。今日からカップルね?オッケー?」
「ああ」
 彼女は席を立ち「なんか飲むー?」と聞いてきたため「紅茶でいい」と返すと気分良く鼻歌を歌っている。その間に彼女がこの家でどんな生活をしているか覗き見る。席を立とうとすると、カタン、と何かが落ちた音がした。何が落ちたか手に取ると、ピンク色の刃が鋭利のカミソリだった。これで彼女は自分を傷付けているのだろうか。そっと元の場所に戻し、寝室に入る。寝室も至ってシンプルで、女らしさは一切無い。それが彼女の性格なのだろう。だが、布団や枕や枕元には赤黒く染みた血痕がある。いつも腕を切るときは、ここで切っているのか。そんな疑問もぶつけられない。まだ、俺達はカップルになったばかりだから。
「はい紅茶」
「ああ。……味が濃いな」
「そうー?これからは自分で煎れてね」
「何でだ」
「だってリヴァイさん拘り強そうじゃん?それにほら、わたし達付き合ってるんだから」
「……はあ、仕方ねえ」
 ニコニコとしているヒロは年相応で可愛らしい。だが、まだ腕を見せる関係ではないようだ。俺が寝室に勝手に入ってる間に、いつものパーカーを着ている。単刀直入に聞いてもいいと思うが、彼女の嫌がることはしたくない。今度は俺の家にでも呼ぼうか。そんなことを考えながら、再び紅茶に口を付ける。


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