アナタを待っている僕がいるんだ1(Levi)



 こんなクソ暑い中、分厚いパーカーを着た女が毎日店に訪れる。財布と携帯だけ持ち、行く場所は迷いもせず食品コーナー。かごを持ち、何を選ぶでもなく、ラーメンからパスタ、サンドイッチにおにぎり。ぽいぽいと入れる姿は見てて、あまり良いものではない。山盛りになったかごをレジに持ってくるその女。
「お会計お願いします」
「……」
 無言でかごを受け取り、ひたすらバーコードを読み取る。これが毎日だから面倒くさい。最初の方こそ、面白い奴だと思っていたが、俺の働いている時間に毎回来るから厄介だ。もちろん俺が休みの日にも来ているだろう。だが、他のアルバイトはこの女の話をしている姿を見たこと無い。
「……お会計一万八千五百六十円です」
「うわ、今日買いすぎたかな。まあいいや。二万円からで」
 この台詞も何度聞いたことか。本当に多いときは二万円越すときもある。いくつも袋を器用に持ち「ありがとうございました」と笑顔で去って行く女。休憩に入るか、と思い煙草を持ち、外に出るとその女が居た。どうやら喫煙者だったようだ。袋は足の上に置き、地べたに着かないようにしている。
「あれっ、店員さんも?」
「……ああ」
「確かに、吸いそうなイメージ。イメージ通りだった」
 煙を噴かしながら笑うこの女。名前は知らないが、俺の中では『パーカー女』と勝手に呼んでいる。いつも黒の分厚いパーカーを着ているのだ。そんなパーカー女は俺の胸元を見て「リヴァイさんって言うんだね」と再び煙草に口を付ける。
「気安く名前呼ぶな」
「えーいいじゃん。わたしヒロ。よろしくね、リヴァイさん」
 煙を吐いたヒロは吸い殻に煙草を捨て、袋を持ち「じゃあね」と黒いマスクを上げ去って行った。
「……ヒロ、か」
 お互い名前を知ったことで、これからの関係は変わることはないだろう。いつの間にか 灰になってしまった煙草を捨て、再び勤務に戻る。

「お疲れ様です!」
「ああ。朝からうるせえぞ、エレン」
「リヴァイさん今日も隈ヤバいッすね、寝てないんすか?」
「少し仮眠は取ったが、またあの女が来てな」
「あー、例のパーカー女」
「そのせいで棚は空っぽだ。エレン、頑張れよ」
「うわー、最悪……」
 そんなエレンの背中を押してやり、帰路に着く。夏の朝日は目に染みる。いつも以上に目を細め、アパートまで気持ち急ぎ足で向かう。
 携帯を見ながら歩いているとあっという間だった。すると、ゴミ捨て場に見覚えのある姿がある。今日は燃える日のゴミ出しだったのか。家にあるゴミを出さなければならない。すぐに家に戻り、昨日まとめておいた袋をゴミ捨て場まで持って行く。俺が戻っている最中にその女は消えてると思ったが、まだ大きな袋を捨てていた。その横に行くと「おはようございます」とチラリと俺の方向を見る。その女はヒロだった。
「あれ!リヴァイさんじゃないですか」
「……家も近いんだな」
「わたしこのアパートに住んでます」
 ヒロが指した方向は俺のアパートと反対方向だった。ここのゴミ捨て場は、アパート住宅で一緒になっている。そのため、彼女と出会ったのだろう。だが、今までずっとコンビニでしか出会ってなかったのに、こんな偶然があるのか。
「お前はゴミ捨ていつも何時にしてる?」
「適当です。ゴミ一杯になったら捨てに行っての繰り返し」
「そうか……」
 彼女のゴミ捨ては終わったようで、パンパンと手を払っている。「じゃあ、またいつか」と笑顔で自部屋に戻っていくヒロを見送り、ゴミ捨てを終わらせた。

 今日の仕事は休みだ。いつもだったら夜まで寝ているが、エルヴィンに飲みに行かないか、と誘われていた。いつもより早めに起き、シャワーを浴びる。最近は本格的に暑くなってきた。軽くポロシャツにスキニーを履いて、靴に足を通す。ドアを開けると、むわりと暑い空気がまとう。階段を降りていると「リヴァイさん!」とあまり聞き慣れない声が足を止める。
「……ヒロか」
「はい。これからお出かけですか?」
「ああ。お前も来るか?」
 まさかこんな台詞を言ってしまうとは思わなかった。彼女は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり「大丈夫」と手を振る。ヒロの服はいつも着ているパーカーではなく、半袖を着ていた。夜は確かに温度は下がるが、それでもあの長袖は暑いだろう。コンビニに来る際も、その半袖を着ればだろう、と思ったが口には出さず「そうか」と彼女から目を離す。
 何故ヒロは外に出掛ける際は長袖を着ている?コンビニでは何故食べ物ばかり大量に買っていく?彼女に対する疑問はたくさんだ。久し振りの気晴らしの飲み会。だが、頭の中はヒロで占められる。

 エルヴィンが予約した店に入り、席に案内される。先に来ていたハンジはもう出来上がってる様子だ。エルヴィンも「待ってたぞ」と隣に座れ、と席をぽんぽんと叩く。
「お飲み物お伺いしますー」
「とりあえず生で」
「かしこまりました。生一本!」
 ここの居酒屋は賑わっており、あまり好きな空気ではない。煙草に火を付け、エルヴィンの近況を聞く。エルヴィンは親の会社を継いで、社長をしている。俺もその話には誘われ、働いていた期間もあったが、どうも合わず、今はのんびりフリーターをしている。彼女も居ない独り暮らしの生活は、フリーターでも十分だ。
「ねえ〜リヴァイは最近面白い話無いの?」
 既にベロベロに酔ったハンジに話を振られる。それと同時に酒が運ばれてきたため、半分ほど飲み、何かあったか考えていると、ヒロの顔が浮かび上がってきた。
「……夜勤中大量の買い物をする女が居る」
「えー!何それ!可愛い?」
「顔はそんな見てねえ。……だが、あんなに食べるのに細い……」
「ほ〜?食べ物ばっか買っていくんだ」
「ああ」
「……過食嘔吐してるかもねえ」
「は?」
 ハンジの顔を見ると、頬は火照っており口は弧を描いている。ハンジはこういった話には強い。以前モブリットが所謂『メンヘラ』女と付き合っている際も、相談に乗っていた。仕事とは別で、そういった精神科について調べるのが、昔から好きな奴だ。独自で調べているのかと思ったが、知り合いにそういった部門に強い奴が居るようだ。
「なあクソメガネ」
「なによ、聞きたいことがあるんだったらその態度はどうなの〜?」
「うるせえ。じゃあ長袖を着てる理由は分かるか?」
「え、その子長袖着てるの?こんなクソ暑い中」
「ああ」
「自傷行為じゃない?リストカット、アームカット……」
「……なるほどな」
 最初に頼んだ酒は汗をかいている。ぬるくなったビールを口にするが、味がしない。
 ハンジの言うとおり、自傷行為をし、過食嘔吐をしているのならば、疑問も解ける。今度仕事のときに、ヒロに聞いてみよう。頭の中は、彼女のことしか考えられなくなってしまった。


BGM:syudou/カレシのジュード
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