真っ赤なルージュ(Jean)



 今わたし達は遊園地に来ている。その前は大きなプールで遊んでいた。そのまま帰ろうか、とジャンに提案したところ「どうせなら遊ぼうぜ」とのことで、ついでに遊園地へ行こう、となった。
「プールで涼んだけど、アトラクションもいいね」
「ヒロは絶叫系いけんのか?」
「んー、モノによる」
 恋人のジャンと手を繋ぎ、遊園地へ入る。色々なアトラクションを見ると、皆楽しそうに声をあげていた。思い切り声を出すのは楽しいだろう。わたしもワクワクとした気持ちで、ジャンの手を引く。
「おい、はしゃいでるのヒロじゃねえか」
「ジャンが提案したのに怠そうにしてるからー」
「ま、プールとはまた違う楽しみがあるからな」
 コインロッカーに荷物を詰め、携帯やらを小さなバックへ入れる。ジャンはパンツのポケットに財布と携帯だけ詰め込み、わたしを待っている。
「お待たせ」
「ん。じゃあアレいくか」
 手を繋ぎ直し、ジャンが指差した方は小さなジェットコースター。あれぐらいならわたしも余裕だろう。日が落ちるのが遅いとは言え、時間も時間だ。たくさんのアトラクションに乗りたい気持ちから、ジャンの手を無意識に引っ張ってしまう。
 いざ乗る、となると少し緊張してしまう。彼の隣に座り、安全ベルトを装着し、ちゃんと外れないよう確認する。先ほどまでのワクワク感はなくなり、恐怖心から体が硬直してしまった。そんなわたしの姿を見てジャンは「大丈夫だって」と笑いを見せてくれる。

「寿命が縮んだ……」
「大袈裟だな。オレの手引っ張っといて」
「あんな怖いと思わなかったもん!」
「はいはい。んじゃあ次も行くぞ」
 ジャンはわたしの頭に手を乗せ、撫でてくれたが、まだ心臓がバクバク言っている。落ち着きを取り戻そうとゆっくり歩いていると、彼も歩みを遅めてくれた。繋いだ手に力を込めると笑われてしまった。ジャンは絶叫系は得意らしい。指指す方は全て、わたしの寿命が縮むようなものばっかだった。
 その後はジャンの提案するものに乗り、プールとの疲れでへとへとになってしまったわたしの腰を抱き、自動販売機を探す。
「ほら、疲れただろ」
「あ、ありがとう……」
 彼はスポーツドリンクを買い、渡してくれた。それを何口か飲むと、近くのベンチまで誘導される。
「ちょっと休憩するか」
「……疲れた」
「でも楽しいだろ?」
「まあね」
「夜は花火やるみたいだぞ、見るか?」
「え!見たい!」
「言うと思った」
 ジャンは携帯を見ながら笑顔で話す。すると画面をこちらに見せ「ほらよ」と公式サイトを開いてくれた。
「大きな花火だね」
「ああ。と、その前にオレ行きたいところあんだよな」
「どこどこ?」
「お化け屋敷」
 彼はニヤリと笑い、わたしの手からスポーツドリンクを取った。わたしはお化け屋敷が大の苦手だ。それは前ジャンに話した気がする。嫌だ、と顔で訴えても彼の表情は変わらず。この顔をしている彼には逆らえない。
「よし行くぞヒロ」
「やだー!怖いの嫌いー!」
「子供みてえなこと言うなよ。オラ、立て」
 ベンチから動こうとしないわたしを、彼は思いきり腕を引っ張り無理矢理立たせる。嫌だ嫌だ、と何度訴えても彼はどんどんお化け屋敷まで足を向ける。わざと体重をかけ、生きたくないアピールをすると、ジャンは溜息を吐き近付いてくる。
「え、」
 痺れを切らしたのか、彼はわたしのことを横抱きにする。こんなお姫さま抱っこのような形は誰も取っていないため、恥ずかしさから「やめて……」と言うと「じゃあ歩けよ」とゆっくり降ろしてくれた。
「流石に抱っこはしすぎ!」
「こうもしねえとヒロは動かねえからな。お、もう少しで着くぞ」
「……はあ」
 再び繋がれた手。その手に力を込め、腹を括る。もうお化け屋敷からは逃げられない。その後の花火を楽しみに、と考えながらスタッフさんに挨拶され、入場する。
「ねえ、やっぱ怖いよ……」
「じゃあ腕組むか。手より安心だろ?」
「うん、まあ……」
 差し出された腕に自分の腕を組む。室内の為、冷房はガンガンに効いている。それも怖さの要因になっている。きょろきょろと、周りを見ながらジャンに置いて行かれないよう歩いていると、思い切り大きな声で叫ぶお化けにビックリして悲鳴をあげてしまった。
「これで怖いのか?」
「うう……死んじゃう……」
「大丈夫だっての。死なねえようキスでもするか?」
「……うん」
 冗談っぽく話した彼はわたしの返事に驚いた様子だった。暗くて顔は見られないが、きっと拍子抜けした顔をしているだろう。すると、ゆっくりと近付いてくる顔。それに甘えるようにキスをする。
「怖くなくなったか?」
「……また怖くなったらキスしてもらう」
「はっ、そんくらい言える余裕はあるんだな」
 結局ゴールまで長い道のりだった。だが、キスをしたのはあの1回だけ。わたしが悲鳴をあげる度にジャンは笑っていた。全く悪趣味だ。出口に出てホッとしていると、不意に口付けをされる。
「……なんで今!?」
「いや、可愛かったから」
 ジャンは滅多に人を褒めない。なので、今わたしの表情を褒めた彼は、少し顔を赤らめていた。そんな彼のことが愛おしく、わたしも背伸びをし、頬にキスを落とす。
 しばらく経った後、花火大会が開催された。出店で物を買い、ジャンと肩を並べて座り、綺麗な景色を見つめる。横に座った彼の顔を見ると、とても格好良く、思わずそちらに見蕩れてしまった。熱い視線を送ったからか、ジャンも気付き、何度目かのキス。彼と過ごす夏は、まだ始まったばかり。


BGM:一条シン&十王院カケル/VI VA VACANCES!
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