この道を辿ればすぐ(Levi)



「先生、」
「なんだお前、また来たのか」
「だって先生の顔見たくて」
「ついさっき見たばっかだろうが」
 私は担任でもあり、保健体育教員のリヴァイ先生に行為を抱いている。
 好きになったのは、一年生の夏。補習を受けていた私に、丁寧に教えてくれた。先生は保健体育担当ではないのか、と頭にはてなマークが浮かんだが、噂通り『全教科教えられる最強の先生』であった。
「オイヒロ、お前は先生を泣かすのが趣味なのか?」
「……え?リヴァイ先生、泣くの?」
「俺のことじゃねえ。あと敬語を使え」
 口は悪いが、私が理解するまで何度も何度も、しっかりと教えてくれるリヴァイ先生。シャツからチラリと見えるのは、鍛えられた腕。サラリと靡く髪。補習はものの数日ではあったが、その数日は私がリヴァイ先生を好きになる大切な時間であった。

 新学期に入り、担当のハンジ先生にそのことを告白すると「あはは!ヒロってば物好きだね!」と大笑いされてしまった。 けれど、私は知っている。リヴァイ先生は無愛想で口も悪いが、女子生徒からは人気があることを。男子生徒からの信頼も厚いことも。ハンジ先生はケラケラと笑うが、私は本気で恋に落ちてしまった。
「ヒロはさあ、まだ若いからリヴァイのことがかっこよく見えるだけだよ」
「そんなことない!リヴァイ先生以外魅力的な人いないですよ!」
「はー、この子ってば本気だねえ。ま、知ってると思うけどリヴァイは堅物だから、そう簡単にヒロの気持ちには応えてくれないよ?それでもいいの?」
「……いい。卒業して、それでリヴァイ先生以外見えてないこと伝える」
「いやー!ほんと若いねえ!先生、ヒロの若さが痛いよ」
 その後もハンジ先生に相談したり、リヴァイ先生と廊下ですれ違うたび、話題を無理矢理出し、私との時間を作った。最初は「うるせえ」とあしらわれたが、回数を増やしていくと、話題にも乗ってくれ少しずつ変化は現れた。
 しかし、ハンジ先生からの雑務などで、リヴァイ先生との時間を設けられなくなった。どうしても、なんとしてでも顔が見たい、声を聞きたかったが、用もないのに職員室に入るのも、と踏み込むことが出来なかった。リヴァイ先生も忙しいようで、廊下で見かける姿も少なくなった。リヴァイ先生のことを好きになることは間違っていたのか、などマイナス思考になりつつあるときに、リヴァイ先生が私の教室に入ってきた。
「あ、リヴァイ先生……!」
「ヒロ。お前最近忙しいのか?」
「え?なんで?」
「……廊下でお前の顔が見えねえからな。どうせハンジの雑務に手伝わされんだろ」
「はい……。でも、どうして?」
「…………」
 私が質問すると、少し目線をそらしてしまう。「先生、私と話したかったんですか?」心臓は痛かったが、そう捉えていいだろう。すると、リヴァイ先生は重い口を開けた。
「お前のくだらねえ話を聞かねえと、どうも1日が遅く感じる。……俺との雑談は、ハンジの雑務以下か?」
「ち、違います!」
「なら話は早いな」
 そう言い、リヴァイ先生は教室を後にした。ハンジ先生に用事じゃなかったのか。私との時間を、大切にしてくれていたのか。先ほど言われたことが、ずっと頭の中でぐるぐると回っている。友達に「ヒロ顔真っ赤だよ」と笑われようがどうだっていい。リヴァイ先生が私との時間を大切にしてくれていたのだから。
 その日以降、ハンジ先生には悪いが雑務係を外されてもらい、放課後にはリヴァイ先生が待っている教室に向かう。
「リヴァイ先生!来たよ!」
「声がでけえ、もう少し小さく話せねえのか」
「だって、だってね、」
「ああ、もういい。それで?」
「……?」
「俺と話しに来たんだろ?」
「……うん、そう。リヴァイ先生と話しに来たの」
「敬語が使えねえ内は駄目だな」
「うそっ、ちゃんと使います!」
「ハッ、どうだかな」
 その表情は初めて見る顔だった。いつも無愛想な先生が、少しだけ笑ったように見えたのだ。

 月日は流れ、私は無事進級でき卒業生。高校生活最後の1年。どうせ担任は今年もハンジ先生だろう、と思っていると入ってきたのはリヴァイ先生だった。私がリヴァイ先生のことを好きだと知っている子からは「よかったね!」とコソコソとお祝いの言葉を掛けてくれた。その瞬間、先生と目が合った気がして顔が熱くなった。
 そして今に至る。教室では他の生徒が邪魔をするし、私が話掛けると昔のようにあしらわれてしまう。結局この3年間、リヴァイ先生とのお話タイムは空き教室だけであった。
「ヒロ、毎日ここに来てるが友達はいねえのか?」
「います。けど先生と話すことの方が大切」
「ほとんど毎日教室で顔合わすだろ」
「先生だって私のこと待ってますよね?」
「うぬぼれんな」
 軽く頬を抓られ「いたい」と訴えるが、その手は離されないまま。この3年間、私はずっとリヴァイ先生に授けていた。先生にも表情の変化が少しずつだが現れていた。他の生徒にはそんな優しい目はしない。ボディタッチもしてる姿も見たことない。うぬぼれたくもなる。
「もう卒業だな」
「はい。あっという間だったなー、3年間」
「好きな奴とか出来なかったのか?」
「……います。けど、振り向いてもらえないんです」
「……そうか」
 リヴァイ先生はそれ以上は追求してこなかった。先生のことだろう、きっと私の気持ちにも気付いている。だけど先生という立場。生徒に手を出したら駄目なことはしっかり分かっているだろう。だから私も先生にはまだ、気持ちを伝えない。もう数ヶ月の辛抱だ。気持ちを受け取ってくれるかは分からないけれど、伝えることは出来る。
「ヒロ」
「はい?先生どうしたんですか?」
「待たなくていい」
「……どういうこと?」
「よく3年間我慢したな。お前だけに言うが、来年異動する。卒業したらお前との関係も終わる」
「え……異動?なんかあったんですか?」
「そういうわけじゃねえ。だからヒロよ、俺はお前の気持ちを今知りたい」
「私の、気持ち……」
「それとも俺の勘違いか?それだったら今の話は忘れてくれ」
 いつもより多くの言葉を並べるリヴァイ先生。今伝えなければ、先生は離れてしまう。先生が言ってることは理解できるが、うまく口に出せない。3年間抱いていた思い。先生も知りたがっている。
「……どうやら勘違いだったようだな。悪かった」
「っ、待って!」
 教室を後にしようとする先生を後ろから抱きしめる。男性にしては小柄だが、しっかりとしている体。心臓がバクバクと鳴って痛い。だけど、今言わなければ。勘違いで終わらせたくない。私には、この人かいない。
「私、先生、リヴァイ先生のことが好き。ずっと好きだった。気持ちは変わらない。先生の勘違いでもない。……だから、離れていかないで……!」
「……ようやくか」
 お腹の前に組んでいた手をほどかれ、対面する。自分の酷い表情がリヴァイ先生の目に映る。咄嗟に目を逸らすと顎をつかまれ、しっかりと目が合う。
「生徒にこんな気持ち抱くのはクソだと思っていたが、ヒロとの時間が大切で必要だとしてた。……俺でいいのか?」
「先生じゃなきゃ駄目。リヴァイ先生じゃなきゃ意味がない」
「……俺も愛されたもんだな」
 頭を撫でられ、ふんわりと抱きしめられる。夢を見ている気持ちだったが、先生の心臓の音が本当のことだと教えてくれる。実感すると涙が溢れ、声も出てしまう。
「ヒロ、もう我慢しなくていい。お前は卒業し、俺は異動してしまうが、今より自由の時間は作れる。……俺はヒロのこと離す気ねえが、それでもいいか?」
「うん、うん。いい。それでいい、リヴァイ先生、大好き」
 気持ちを伝えたら、抱えていたものがなくなったようか楽になった気がする。リヴァイ先生の顔を見ると、今まで以上に優しい目をしていた。
「早く大人になれ。今度は俺が我慢しなきゃいけねえからな」
 リヴァイ先生はそう言い、頬にキスを落とした。


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