いつも隣りに1(Jean)



「ジャンくん、起きて」
「んー……」
 ゆさゆさと揺さぶられしょうがなく目を開ける。すると視界を占領するのはヒロの顔。にんまりと笑顔でオレを見つめ、起きてとグイグイオレの腕を引っ張る。
 彼女、ヒロは血の繋がっていない兄妹だ。彼女の母親は、彼女を産んで若くに亡くしてしまった。その後彼女の父親とオレの母親と再婚。ヒロは人懐っこい性格で、すぐにオレの仲も深まった。
 そんな世界一可愛い妹、ヒロ。この16年間悪い虫がつかないよう日頃から見張ってきた。外に出るときは必ず手を繋ぐのはルール。また、ヒロには我慢しないことを伝え、行きたい店には遠慮せず入れと。だが、そんな言い伝えをしていたが、彼女は真っ直ぐで、明るい元気な性格に成長していった。そんなヒロが愛おしい。誰にも渡さない。ヒロはオレの傍でずっと笑っていればいいのだ。
 そんなことを考えながら朝の準備をする。今日はヒロの入学式だ。体育館での校長の話は、在学生も聞かなければならない。それは面倒だが、可愛いヒロのため。重い腰をあげる。
「ねえジャンくん。制服おかしくない?」
 制服に身を包んだヒロはとてもとても可愛い。「似合ってる。可愛いぞ」と言うと頬に手を当て少し照れている様子だった。急いで飯を食べ、自分も制服に身を包む。すると部屋に入ってきた彼女は「やっと同じ制服だー」と喜んでいる様子だった。
「可愛いこと言うじゃねえか」
「だってやっとジャンくんと同じ学校に入れるんだよ?嬉しいの!」
「お前は本当に可愛いな」
「えへへ。ジャンくんもかっこいいよ」
 鞄に荷物を詰め、一緒に外に出る。太陽はギラギラ光っており、ヒロの入学を受け入れてくれているようだった。
「はいジャンくん。手、」
「ああ」
 差し出された手に指を絡めると笑顔で頷くヒロ。ぶんぶんと腕を振り「楽しみだなあ」とまだ子供らしいところも可愛い。可愛くない点などないが、オレと同じ制服を着ているヒロは学園の中で1番可愛いだろう。もちろん、そんな可愛いヒロに悪い虫がつかないよう、1年の教室を見るのもオレの仕事だ。しかし敵は1年生だけではない。こんなにも可愛いヒロが入学するのだから、同学年や先輩にも目につけられるだろう。同学年には事前に言ってあるが、先輩にはまだ彼女が入学することは言っていない。目を付けられる前に言っておけばよかったと心の中で後悔するが、既に遅し。常にヒロの教室を見張っていれば、声を掛けられることはないだろう。そう思い、ヒロの指に力を込め、学校へ向かう。
「着いた!わたしのクラス3組だって」
「分かった。入学式終わったら様子見に行くからな」
「じゃあバイバイ」と手を振り去って行くヒロ。その後ろ姿をぼうっと見ていると、マルコから「おはようジャン」と声を掛けられる。
「おお、はよ」
「今日は可愛い妹ちゃんの入学式だってな」
「そう。世界一可愛いヒロの晴れ舞台だ」
「晴れ舞台って……言い過ぎだろ」
「分かってるよなマルコ」
「はいはい。妹ちゃんには話し掛けないよ」
「流石マルコだな」
 マルコと肩を並べ教室に向かう。腐れ縁でもあるマルコとは2年生でもクラスは一緒だった。下駄箱へ行き、履き慣れた靴へ足を通す。
 教室へ行くと既に登校していた奴等で教室内は騒がしい。クラス内は1年のときと殆ど変わっておらず、担任がハンジ先生に変わったくらいだった。
「ジャン今日早いじゃねえか」
「可愛い妹の入学式なんだよ。それを見届けなきゃオレの1日は始まらねえ」
「妹?お前妹なんていたんだな」
「うるせえよ」
 ぎゃあぎゃあとオレの周りに集まってきた奴らを適当に遇い、ヒロが体育館へ入るところをしっかりと見届ける。するとハンジ先生が教室に入ってきて「じゃあ入学式が始まるから準備してねー!」と声掛けを行っている。それを合図に皆廊下に出て行くが「面倒だな」とざわめきが聞こえる。確かに面倒なことではあるが、愛しいヒロのためだ。ここは兄としてその姿を見なければならない。

 入学式は無事に終わった。在学生は体育館から出て行く入学生を、拍手で見送らなければならない。適当に拍手を送っていたが、ヒロが見えた瞬間後光が差した。小さな声で「ヒロ!」と呼ぶと気付いたようで「ジャンくん」と笑顔で手を振ってくれた。そんな姿も可愛く見とれてしまった。そんな頭の中ではヒロを占めていると、いつの間にか入学式が終わっていた。2年生は椅子の片付けをしなければならず、笑顔のヒロを頭の中に想像しながら、片付けに取り掛かった。

 入学式を終え、ヒロの教室へ迎えに行くとオレに気付いたようで、前の席と話していた女子に手を振りオレの元にやってくる。
「ジャンくん、お疲れさま」
「お前もな。さ、帰るぞ」
「うん。あ、あの子にまたねって言ってくる」
 先ほど挨拶してた筈なのに律儀に挨拶をするヒロも愛おしくて仕方が無い。「お待たせ」と笑うヒロの頭を撫でると笑顔で「恥ずかしいよ」と見つめる。
 玄関口に立って携帯を見ていると「ジャンくん?」とオレを待っていたようで小走りでこちらに向かってくる。
「悪い、ライン返してた」
「いいよ、大丈夫。わたしも女の子とライン交換したよ」
「男はしてないよな?」
「うん。ちゃんと言いつけ守りました」
 笑顔で話すヒロはこの世で一番可愛い。この笑顔を守っていくには、常にオレが傍に居なければならない。年齢差はあるが、休み時間など一緒に過ごす時間を増やしていけばいい。ヒロの隣はオレでなければならない。


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