壊してしまうのは簡単よ(Levi)



 ペトラが兵長に褒められた、との話を聞いた。最初は私にとっても嬉しい報告だった。それが時間を過ごすごとに回数が増えていく。そんな報告を聞くたびに心の中から黒い気持ちがどんどんと増していく。私とペトラは友達であり同期でありいいライバルだった。他の班に勤めている私は兵長と話すことなど殆どない。だが、そんな相手に恋をしている私。この私の気持ちは間違っているのだろうか。

「ヒロー!聞いてよ」
「おはようペトラ」
 朝食を終え、壁外調査についての資料を作っている私に声を掛けるペトラ。その顔はとても嬉しそうだった。確かに兵長が人を褒めることは少ないことだろう。そんな中班員であり、褒められるペトラはかなり良い成績を取っているのだろう。その事実は変わりない。ペトラの成績が良いのは私も知っている。そこは仲間として評価出来るところだ。
「兵長から言われるなんていいね」
「ヒロも頑張ってるじゃん!兵長もそこは知ってるよ」
「どうかなあ」
 資料に文字を書きながらペトラと話す。ジクジクと胸の中に嫌な気持ちが浮かび上がってくる。そんな気持ちは要らないものだ。なのに何故、こんな気持ちが出てしまうのか。それは私が兵長のことを好きだからだろう。ペトラと話しているのは楽しいはずなのに。どうしてこんなにも憎ましい気持ちを抱いてしまうのだろう。
「じゃあ、私掃除してくるね」
「うん。いってらっしゃい」
 後ろ姿のペトラを見つめ、一息吐く。リヴァイ班の皆さんは掃除もしっかりとした仕事だ。椅子に背を預け、大きく伸びをする。いつか私にも声を掛けてくれるのだろうか。そんないつかを夢見て、資料作りを終わらせる。

 104期生の新人が何人も入ってきた。今年は調査兵に入る人数も多く、名前と顔を覚えるのがやっとだ。そんな中、巨人化出来るエレンがリヴァイ班に所属することに。人間が巨人化出来るだなんて、それは歴史上あったことなのだろうか。よく分からないままだったが、何となくエレンを意識しながら仕事に入った。

 女型の巨人が現れ、その正体は何か分からなかったが、目的はエレンのことは確実だった。エレンはリヴァイ班に居る。ペトラは大丈夫なのだろうか。まだ巨人化するのにコントロールが出来ないエレンを助けられているのか。撤退命令が出るまで、私達は巨人が登れない木の上に立ち待っている。どうにかして、ペトラの様子を見に行きたかったが、上司のナナバさんも「命令を待つように」と言っていたので、心配の気持ちのまま命令を待っていた。

 ペトラは女型の巨人に殺された。壁外から帰ってくる間、馬に乗りながらずっと涙を流していた。同僚で笑顔が可愛く、でも頼りになるペトラが、あっけなく亡くなってしまったのだ。
「オイ、ヒロ」
「……兵長」
 腫れた目を擦り、馬から降りた私に声を掛けたのは兵長だった。兵長は誰かの翼のワッペンを手に持っており、私と対面する。すると手を引かれ、そのワッペンを握らされる。
「兵長……これは?」
「ペトラのだ。お前の分も頑張ってくれた証だ」
「……」
 兵長が渡してくれたワッペンを握りしめると、ペトラの顔が浮かんでくる。するとすっかり止まったと思った涙がまた溢れ出てきた。兵長はそんな私を見て、頭をそっと撫でてくれる。
「……ペトラの分まで、生きてくれ」
「っはい、」
 座り込んでしまった私の背中を摩ってくれる兵長。涙は止まらず、嗚咽まで出てしまった。だが、そんな私のずっと傍に居てくれる。
 ペトラは亡くなってしまった。それは変わりのない事実だ。どんなに悲しんでも、彼女が戻ってくることはない。
「あなたの分まで、私が兵長のことを支えるから」
 ペトラの空いた部屋の中で静かに呟く。この声は誰にも届かない。ペトラの分と私の分。彼を支える人はこの世に私しか居ないだろう。

 彼女の浮ついた話が聞けなくなった。これから私がする番になるのだろう。歪んだ形かもしれない。だが、この世で兵長を愛せる人間は私だけなのだろうから。


BGM:すこっぷP/ドミノ倒シ
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