踊りのステップ(Levi)



 片思いの相手がいる。相手は皆から尊敬されており、わたしには目もくれないだろう。だが、そんなことどうでもいい。わたしが好きなだけでいいのだ。誰かが言っていた「片思いが1番楽しい」との言葉を思い出す。両思いの方が絶対に楽しいし、毎日が充実しているだろうが、この片思いの時期も楽しいのだ。
 そんな想いを抱きながら早2年。わたしも調査兵としてやっと認められる実力をつけた。時には壁外調査の指示を任されたりなど、日々忙しい。そんな忙しい中、恋をしているわたしはお気楽者なのかもしれない。だが、恋心は止まらない。相手にバレないよう、そっと恋をするのも仕事の内だ。
 最初、彼と話したときは無愛想で口の悪い人間だ、と思っていた。だが、一緒に仕事をしていく内に惹かれていった、という形だ。いつの間にか、彼の手のひらで転がされているような気分ではあるが、魅力を隠しているのも悪いと思う。彼に恋をしている人はきっと多い。『人類最強』の名を持つ彼は、実はとっても人気がある。わたしが知っている内でも同期は何人か恋をしている。だが、わたしだって彼に対する愛情は止まらない。一緒に仕事もすれば、救援要請で彼を助けに行ったこともある。そのときの彼の顔は忘れない。一生わたしのこの胸の中にしまってある。

「ヒロ〜」
「ハンジさん?」
 ある朝、ハンジさんに声を掛けられた。こんなにも気温が低いというのに、相手はカッターシャツで頭を掻きながらわたしに声を掛ける。何かあったのか聞くとにんまりと笑い、わたしの手を握る。
「手伝って欲しいことがあるんだけど」
「はい!いいですよ。何でしょうか?」
「さっすがヒロ!物分かりいいねえ。だから皆ヒロのことが好きなんだね〜なるほど」
「はぁ……」
 ハンジさんは頷きながらわたしをジッと見つめる。そのまま深い笑みを浮かべ「さ!こっちに来て」と手を引かれる。書類の整理だろうか。それか、モブリットさんが困らせるような研究でもしているのか。何が起こるか分からないまま、ハンジさんの部屋に入る。

「テメエ、どういうことだ」
「いやいやいや!ヒロが良いって言うからさ!ね!」
「わたしもそんな話聞いてないですよ!」
 
 あの後ハンジさんはわたしを椅子に座らせ、ある液体を目の前に置いた。その時点で、悪い予感がしたが、了承してしまった分、飲まなければならない、と思い一気に飲み干す。飲んだ直後はなんとも思わなかったが、ジワジワと時間が経つに連れ、体が熱くなり、ジャケットも要らないほどだ。ジャケットを脱ぎ、ワイシャツのボタンを1つ開け、疑問をハンジさんにぶつける。
「何ですか、これ。美味しくはありませんが、すごい体熱くなります」
「ふむ、じゃあ成功かなー?」
「何がですか?」
「ヒロってリヴァイ好きでしょ?だからそれのお手伝い」
 ウインクをするハンジさんとは裏腹に、わたしはきっととんでもない顔をしているだろう。何故兵長が好きなのがバレているのか。ハンジさんに伝わってると言うことは、殆どの人が知っているだろう。冷や汗と共に、薬の効果か汗が噴き出る。
「……一応聞きますが、媚薬とかでは……?」
「うーん。そこまでじゃないよ。ヒロはいっつも控えめだからね。リヴァイにアプローチ出来るようにしただけ」
「……ありがた迷惑ですよー!」
 ぎゃあぎゃあと騒いでいるわたし達に気付いたのか、扉を大きく開けられる。開けられるというより、蹴られたのほうが正しい。その扉を開けたのは兵長であり、わたしとハンジさんを何度か見つめ、わたしの調子がおかしいことに気付いてくれ、ハンジさんを詰め寄せている、という光景だ。
「ヒロ、何を飲まされた」
「分かんないです。媚薬ではないらしいですけど」
「媚薬……?オイクソメガネ、優秀な班員に変なことしてるとはいい度胸だな、オイ」
「違う違うって!ただ、ヒロはいっつも自分の意思を強く出さないから、それを出せるよう手伝っただけ!」
「それでも十分迷惑だろうが」
「まあまあ、効果は少しだけだから。それじゃあ、リヴァイ。ヒロをよろしくね」
「はあ?」
「私これから研究しに行かなきゃいけないからさ!ふふ、待っててねー!」
 ハンジさんは言いたいことだけ言い、ジャケットを持ち部屋から出て行ってしまった。この空間はわたしと兵長の2人きり。薬の効果もあるだろうが、心臓がバクバクと煩いぐらいになっている。変な汗もかき始め、顎から滴る汗を拭っていると兵長が隣に座る。
「今どんな気分だ」
「えっと、元気です。ちょっと体が熱いくらいで」
「それが冷めるまでここに居ろ」
「はい」
 兵長は仕事はないのだろうか。窓から外を眺めながら考えていると「……お前が変な目にあったから一緒に居るんだ」と言葉を発する。
「え!?兵長、わたしの心の中読めるんですか?!」
「は?今お前口に出してたぞ」
「……」
 なるほど。この薬は自分の思っている気持ちが、声に出てしまうのか。兵長も頷き「そのようだな」と返事を返してくれる。
 こんな状況はまずい。わたしは兵長のことが好き。ただ片思いだ。こんな形で、しかも自分の口からではない方法で彼に伝わってしまう。知ってて口に出さないのか、それともこの気持ちは声に出ていないのか。悶々と考えていると、肩と肩がぶつかる。その拍子で彼の顔を見ると、とても優しい顔をしていた。
「……兵長?どうしたんですか?」
「クソメガネが考えることなど、どうでもいいと思っていたが、これはいいもんだな」
「え?どういうことですか?」
「ここじゃお前の気持ちが全部聞こえねえからな。今度は包み隠さず声に出してもらうからな」
 それだけ話し、彼は部屋から出て行った。兵長の表情、先ほどの言葉。時期に冷めた体と共に考えていると、とんでもないことに気付いてしまった。
「兵長に好きって気付かれた!」
 今度は声を大にして頭を抱える。偶々通り掛かったモブリットさんには心配されたが、それどころではない。もし本当に伝わったとしたら、今すぐにでもこの冷静な気持ちのまま伝えたい。優秀な班員と言われたことも嬉しかった。全ての気持ちを伝えるため、ジャケットを羽織り、急いで兵長の元まで走って行った。


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