あたしはゆうれい(Levi)



 あたしは幽霊。貴方に見えない。貴方とあたしの関係は恋仲だった。あたしが壁外調査の時にヘマをし、巨人に見事食べられてしまった。あたしの死に方は無残なものだった。見つかった死体を貴方が見て、酷く暗い顔をしていたのを知っている。
 あたしは死んで即意識が戻った。生きてるのか、と思い貴方に触れようとした。けれど、手は通り抜けるだけ。ああ、あたしは幽霊なんだな、とそれで思った。あたしはずっと貴方の傍に居たが、あたしのことは見えていない。声を掛けても返事がない。幽霊なんて存在しないと思っていた。なのに、そんな幽霊になってしまったのだ。
 あたしが酷い死に方をしてから、貴方の様子がおかしかった。いつもなら、ピカピカにする部屋も、少しだけ埃っぽかった。班員に話し掛けず、1人で引きこもることも多くなった。そんな貴方は見たくなかった。あたしが生きてて、付き合って居たときの貴方に戻って欲しかった。だけど、あたしはもうこの世には居ない。何を言っても届かない。そんな元気のない貴方を抱きしめながら、あたしは何度も涙を流した。
 どうしても生き返りたい。貴方の傍に居て支えたい。実際に支えられていたのはあたしだったが、今貴方を支えられる人は居ない。だから、あたしが生き返って貴方を支えなければならない。何度も何度も願った。でも、そんな願いは虚しくなるだけだった。
 
 今日はどうやら次の壁外調査についての打ち合わせのようだ。貴方の後ろについて、部屋まで向かう。すれ違う人間は貴方に挨拶をするが、貴方はただ一言「ああ」と言うだけだった。表情も変えず、視線は真っ直ぐ向けられていた。歩みを速め、貴方の前に立ち、声を掛けてもやはり届かない。そんな意味の無い行動を何度も行っている。どうしても、貴方にあたしを見つけて欲しいから。

「……と言ったところだ。いいか?リヴァイ」
「ああ。問題ない」
「まだ彼女のことを引きずっているのか?」
「ハッ、ヒロはもう関係ねえよ。まあ、煩い奴が1人居なくなっただけだ」
「……そうか」
 その言葉は貴方の本心じゃないことは、あたしは知っている。貴方はいつも夜、あたしの名前を呼びながら思い出話を空に向かって話している。あたしの名前が出る度に、あなたが苦しそうな顔をするのも知っている。他の人は分からない些細な変化も、あたしにだったら分かる。それほどあたし達は愛し合っていた。他の人は貴方の全てを知らないけれど、あたしは知っている。好きな紅茶の銘柄、お気に入りの掃除道具、班員や後輩に対する優しさ。言ったらキリがないほど。貴方もあたしの全てを知っている。あなたと過ごしていた時間は本当に幸せだった。でももう、一緒に過ごせない。どうしてヘマをしてしまったのだろう。あそこで失敗してなかったら、重傷を負っていたかもしれないが、息はあったはずだ。でもあたしはドジだから、貴方のように機敏に動けない。そんな理由を付けたいわけじゃない。だけど、失敗してしまったのは間違いない事実だ。
 貴方は自分を責める。貴方はなにも悪いことはしてない。あたしが全部悪い。だからもうこれ以上自分を責めないで。大きな声で彼の動きを止めたい。でもそんなことも出来ない。何故あたしは生きていないのだろう。幽霊として生きてても、貴方に見えなければ意味が無い。
「ヒロ。今日はよく月が見える」
(あ、本当ですね。凄い綺麗)
「お前は外を見るのが好きだったよな。俺にはあまり分からないが」
(あたしが好きだったのは、兵長と一緒に見られるのが好きだったんです)
「……助けられなくてすまない」
(謝らないで。兵長は悪くありません。あたしが全部悪いんです。だから、謝らないで下さい)
「こんな気持ちになったのは久し振りだな。兵団の人間が死んでも、こんな気持ちにはならなかった。心がぽっかりと開く、とはこういうことを指すのかもな」
(兵長……)
「お前が生きてくれればよかった。ヒロだけは生きていてほしかった。……俺が悪かった。ヒロ、もう一度お前の笑顔が見たい」
(あたし、ここにいます。ずっと兵長の隣にいます。どうして1番見て欲しい人に見てもらえないの?)
「……ヒロ、愛してる。俺が愛した女はお前だけだ。今後も、ヒロ以外を愛すことはない」
(兵長、あたしも貴方のことを愛してます)
 いつも貴方は窓から景色を眺め、あたしに向かって話してくれる。返事をしているのに、届かない悔しさはどこにぶつければいいのか。毎晩貴方と話す度に涙が止まらない。貴方の「愛してる」の言葉であたしの体に血を巡らせて欲しい。そうすれば、あたしも貴方もまた幸せになれる。貴方は自分のことを傷付けない。簡単そうに思えるが、死んだ人間を生き返らせる方法などない。
 死にたくなかった。でも他の人も死んで欲しくなかった。あたしの判断は悪かったのか分からない。何人かの命より、1人の命がなくなるほうが被害は少ないだろう。間違って無くても、こうして彼は自分を責めてしまっている。
「ヒロ。幽霊って信じるか?クソメガネが話していてな。偶々耳に入ったんだ」
(ハンジさんが?あたし、幽霊として生きてますよ)
「もしお前が幽霊としてここにいるなら、ずっと俺を見守っていてくれ」
(分かりました。ずっとずっと、貴方の傍にいます)
「……なんてな。俺も少しおかしくなっちまったかもしれねえ。お前があんまりにもバカみてえなこと話してたからな」
(兵長、おかしくないですよ。だってあたし、今ここに居るんですから)
「愛してるヒロ。天に居るお前が幸せであることを願う」
 貴方はそう言いシャワールームへ向かって行った。貴方が立っていた場所に行き、外の風景を眺め涙を流す。あたしも兵長のことを愛してる。こんな歪な形だけど、彼に愛を届けたい。
 あたしは幽霊。貴方に見えない。だけど、貴方を守ることが出来る。傍で見守ることも出来る。貴方が最後を迎えるまで、一生ずっと居られる。

 貴方のことが好き。ばかみたいに。貴方を越す人間はこの世にいない。もう死んでしまったが、この先愛す人間は貴方、兵長だけ。


BGM:米津玄師/あたしはゆうれい
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