友達以上、恋人未満。(Jean)



 わたしには友達が居ない。と言うよりかなり数が少ない。片手で足りる程度だ。深く狭くの考えのわたしはこれでいいのだ。
 と強がってみたが、実際には友達がもっと欲しい。自分の休みの日に友達を誘っても、大抵断れることが多い。その分埋め合わせをしてくれる子もいるが、基本的に埋め合わせもない。所謂『お一人様』も苦手だ。気になった雑貨屋などはすぐ入っていけるが、服屋など店員に声を掛けられる場所はとてもじゃないが、自ら足を運ぶことはない。もちろん食事だって1人で食べることは出来ない。どうしても周りの視線が気になってしまう。絶対にわたしには興味がないと分かっていても『寂しい人間』と思われたくないのだ。

「お前考えすぎだろ」
「ジャンは友達多いからいいじゃん!」
「はあ……お前オレが居なかったらもっと友達いねえもんな」
「まあ、確かにジャンに紹介してもらった子もいるけどさあ」
「いるけど何?」
 わたしの唯一の男性の友達、ジャンと一緒に飲み屋に居る。こういった賑やかな場所は大好きだ。ただ、1人では来れないが、友達と一緒ならとても楽しい。お酒も美味しければ、ご飯も美味しい。このお店はジャンが教えてくれた。
「なんか、波長が合わないというか」
「ヒロがもっと柔軟になればいいんだよ」
「そう簡単に言うけどさあ、苦手なんだって」
「何が?」
「話掛けるのが!」
 お酒の力を借りているため、いつも以上に大きな声が出る。彼はそんなわたしを見ては、変な奴と表情を浮かべている。ジョッキに半分ほど入っていたお酒を一気にのみ、タッチパネルで次に呑むお酒を選んでいるとジャンが口を開く。
「好きな奴とかいねえの?」
「ん?うん。いない」
「ふうん……」
「ジャンは彼女いるの?」
「いねえよ」
「へえ、意外」
 ジャンはかなりの自信家だ。この性格が苦手な人もいるかもしれない。わたし個人的には、自慢話などたくさん話してくれる人が好きなため、特に気にはしていない。だが彼は人気はある。常に誰かに囲まれているし、その中でもリーダー的な存在だと思う。彼が楽しそうに話していると、わたしも楽しいし充実してると思える。ジャンはわたしにとってかけがえのない存在だ。
「ジャンが誘ってくれるのいつも嬉しいの」
「何で?友達いねえから?」
「そう。埋め合わせしてくれるのもジャンだけだし」
「本当にいねえんだな。ボッチじゃん」
「もう知ってるよ〜だからこうやってお酒飲みながらお話出来るの楽しくてしょうがないの!」
「そ。ならいいわ」
 ジャンはご飯を食べながら笑みを浮かべた。その表情を見られるのも優越感で浸れる。彼にとってはただの友達枠かもしれないが、わたしにとっては親友の枠までいっている。ジャンが紹介してくれた子はたくさん居た。女の子も男の子も両方だ。だが、連絡先を交換してそれで終了。何を話せばいいのか分からないのだ。顔を見ず話せるチャットアプリでも話が出来ないわたしは相当な人見知りなのだろう。言い方を変えればコミュ障。そんな自分を変えたい気持ちも一杯だが、どうやって治せばいいかが分からない。
 届いたお酒を飲み、ジッとジャンを見つめる。彼は携帯を触りながら、きっと誰かに返事をしているのだろう。お酒を片手に食事をしていると、今度は彼がわたしのことを見つめる。
「どうしたの?」
「友達が欲しいんだろ、ヒロは」
「うん、そう。出来れば女の子がいいけど、仲良くしてくれる子だったら誰でもいい」
「じゃあもうオレをアテにするなよ」
「えー?なんで?」
「……ヒロって酒飲んだら記憶飛ばすよな」
「うん。殆ど覚えてない」
 ジャンは深呼吸をし、再びわたしの瞳を見る。ジャンの瞳には顔が火照っているわたしがしっかりと映っている。ジャンが真面目な顔をしているのは久しぶりに見る。いつか、見たことがあったが、どの場面で見たかは忘れてしまった。
「ずっとオレのそばに居ろよ、ヒロ」
「……?」
「だから、オレを彼氏にしろって話だよ」
「えーっと、」
「そしたらいつも楽しければ、友達も増えるってこと」
「なるほど〜ジャンは賢いねえ」
 そう言うとジャンは大きく溜息を吐く。何かおかしなことを言っただろうか。「ジャン?」と声を掛けると「お前には敵わねえな」と苦笑いするジャン。
 お店を出て、いつも通りジャンとのツーショットを撮り、インスタのストーリーに載せる。次の日の朝、撮った写真を見ると、ジャンは優しい顔をしており、ピッタリとわたしにくっついていた。


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