星空をなぞる(Levi)



 星空を見ると思い出したくない記憶が頭を過る。あれはもう2年前のことだ。当時付き合っていた女がいた。そいつは立体機動で空を飛ぶのが好きだった。「羽が生えたみたいに自由に飛び回れるのが好きなの」と口癖のように言っていた。俺はそんな気持ちは抱いたことはなかったため、面白い表現をする奴だと思っていた。軽々と飛ぶ姿。空を飛ぶ彼女は常に笑顔だった。

「リヴァイは無駄な動きがないよね。空を飛ぶのって気持ちいいんだよ」
 巨人を討伐し、俺の隣で笑ってそう話す。辺りを見渡し、伸びをするヒロ。空へ手を掲げ、太陽の光を浴びる。
「ガスは限られてんだ。お前は無駄に動きすぎだ」
「まあまあ。いいじゃん、爽快感が得られるんだし」
 周辺の巨人は全て討伐した。ヒロは木に座り撤退命令を待っている。その横に立ち、ブレードの残量を確認する。それを見たヒロは「ねえ、今晩空いてる?」と聞いてくる。
「あ?何だ急に」
「リヴァイさ、星空って見たことある?」
 夜は基本立体機動を使うことはない。書類の整理などもある。呑気に空を見ている余裕などない。外の景色を見るのは部屋に帰り、カーテンを閉めるときぐらいだ。
「特に用事はねえな」
「じゃあさ、今晩わたしに付き合って」
 ヒロは先ほどと同じ笑顔で俺を見つめ立ち上がる。撤退命令が出る前にアンカーを木に刺し、空を飛ぶヒロ。「楽しみにしててね!」大きな声で手を振る。その後撤退命令が出、俺も続くように拠点へ戻る。
 日が落ち、空の色は暗い。部屋で書類を整理していると、控えめにノックが鳴る。
「リヴァイ、わたし」
「入れ」
 入ってきたヒロは立体機動装置を装備していた。
「なんでそんなもん付けてんだ」
「いいの。リヴァイも付けて」
「何故だ」
「見せたいものがあるの。言ったでしょ?」
 ヒロは「早く!」と急かす。用事がないと言ったのは俺自身だが、そんな遠くへ行くのか。無理矢理椅子から立たされ、立体機動を目の前に持ってくる。
「……今回だけだぞ」
 装備するとヒロは手を繋ぎ、外まで連れて行かれる。景色を見ると、星空が広がっていた。
「綺麗でしょ?でもね、もっと綺麗に見られるところがあるの」
 握っていた手を緩められ、普段行かない場所へ飛んでいくヒロ。見失わないよう着いていくと、目的地に着いたようでその場で立ち止まる。そこには何も邪魔なものはなく、水面に星が映っていた。
「ここね、わたしが1番好きな場所なの。星が特に綺麗に見れる場所」
「こんなところがあったんだな」
 芝生に座り、星を眺めるヒロ。その横顔は星に照らされ、とても綺麗だった。同じように星空を見る。ゆっくりと空を眺めることなど、ここ最近はなかった。ヒロの横に座ると肩に頭を預けてくる。
「わたしね、ここ見つけたとき絶対リヴァイに見せたいと思ってたの。大好きな人と大好きな空が見られる日なんてこないと思ってた。でも、今日やっと叶った」
「……いいな、悪くない」
「気に入ってくれると思った。ね、あれって星座かなあ?」
 ヒロは繋がっている星を指し、指でなぞる。「星座なんて分かんないけどね」と笑い俺の顔を覗く。ゆっくりと瞼が下りたため唇にキスを落とす。照れた顔で真っ直ぐと見つめられる。
「こんな世界だけど、この先何年もこの景色をリヴァイと見ていきたい」
「そうだな。空を飛ぶのも悪くねえな」
 再び空を見つめるヒロ。繋がっている星を握りしるように、笑顔で口を開く。
「ずっとリヴァイと一緒にいれますように」
 まるで流れ星に願っているようだった。空いている手を握りしめ、ヒロと同じ景色を眺めた。

 その後もヒロは変わらず空を飛んでいた。班長になり、味方のサポートもしていた。しかし、それが俺の悪夢の始まりであった。怪我をした班員を非難させようとしていたとき、突然巨人が現れた。ヒロは班員を優先し、立体機動で動いたが運悪くヒロが捕まってしまった。
「ヒロ!!!」
 急いで助けに行こうとしたが、目の前に現れた巨人が邪魔をする。そいつらを無視しようとしたが、ヒロは弱々しい笑顔で俺を見つめた。そして「ごめんね、」と涙を流し喰われた。その言葉が最後に聞いたヒロの声だった。


 あの日から2年が経った。未だにヒロの最後の顔が夢に出てくる。ずっと避けてきた、あいつの大好きだった場所。そこへ行くとヒロが隣で笑って星空を見ている姿が浮かんでくる。
「お前も見てるか?今日はあの晩と同じように綺麗だ。……こんな夜は空を飛びてえな」 
 空を飛び、星空が好きだったヒロ。もう二度とあの横顔は見られない。空を見上げると、以前ヒロがなぞっていた星が輝いていた。


BGM:米津玄師/orion
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