今日もまた眠りにつく(Jean)



 私の好きな人はいつも違う人を見つめている。私には少しも目線をくれない。稀に話すことがあっても、好意を抱いている女性の話ばかり。時に自慢話もあるが、恋愛話を聞くよりも、そちらを聞いているほうが心が楽になる。
「エレン以外興味ねえのが腹立つんだよな」
「うん、そうだね」
 彼は私の隣に座り、必死に訓練している男のことに腹を立てている。その男性の相手が貴方の好きな人だから余計だろう。ぼうっと見つめる彼の横顔はとても整っており、いつ見ても胸が締め付けられる。横目で盗み見しているため、彼は私の視線には気付かない。きっと気付いていても、それを口に出すことはないだろう。だって、貴方は私のことをただの同期としか思っていないから。
 こうしてただの愚痴を聞くのだって、私からしたら最高の一時だ。周りの人間は、彼の話を進んで聞く人はいない。その為、彼が何か自慢や不満があるときは私の元へ来てくれる。
「そう言えば今日の訓練だったけどよ」
「うん?何かあった?」
「お前、立体機動使いこなすの早いな。まあオレには敵わないけどな」
「ジャンにそう言ってもらえると嬉しいな」
 彼の視線は私に移動した。私を見つめ、口角を上げ笑っている。あまり視線を合わせすぎると、表情に出てしまうため私から視線を逸らす。彼はどうとも思っていないので、視線が絡まらなくても、何も言わない。
 本当は今よりもっと仲良くなりたい。もっと彼のことを知りたい。聞きたいことだって沢山ある。けど、もうあと半年もしたら、彼とは一緒に居られなくなる。彼は憲兵団志望しており、同期も全員彼が憲兵団に入ると知っている。こんな3年という短い期間で、彼に恋をし、必死にアプローチしても、実らない恋だってあるのだ。世界はこんな甘くない。訓練兵になり、違う意味でこの厳しさを知った。
 深入りしたらきっと嫌がる。色々考えると何も聞けなくなってしまう。でも、あと数ヶ月彼と一緒に居たい。ずっと一緒に居ることは不可能だからこそ、彼に対する思いが募っていく。
「ヒロ」
「あ、なに?」
「お前も憲兵団に来ればいいのにな。そしたらオレと一緒に居られるぞ」
「……それも一つの手だね」
 何気ない一言だと思う。きっと、この発言は彼からの軽いジョークだろう。彼は私の気持ちを知らない。知っていたら、こんな発言なんてしないだろう。私のアプローチは、彼には一切届かなかった。周りで、私が彼に抱いている感情を知ってる人も中にはいるだろう。だからと言って協力してもらおうとも思っていない。この気持ちは、自分の胸の中に閉まって、好意の言葉も誰にも聞かれないまま終わるだろう。
「ジャンは成績優秀だから、無事憲兵団に入れるね」
「当たり前だろ?オレを誰だと思ってんだ」
 先ほどより笑みを深め、少年のような笑顔で再度私と視線を合わせる。その顔を見たら、気持ちが溢れ出そうになる。
 私の願いは巨人を倒すこと。そしてもう1つ。彼の恋人になりたい。彼と出会ってから、頭の中は彼のことばかり考えている。彼以外に欲しいものはない。2人で出掛けて、今のようにお互い笑い合う生活を送りたい。そんな叶わない恋心を抱きながら、彼と話す。厚かましい願いかもしれないが、私は彼の恋人になりたい。決して派手な恋じゃなくていい。ただ、彼と一緒に過ごす時間が増えて欲しい。色んな表情が見たい。欲深いかもしれないが、時が経つ度にどんどんと惹かれていく。魅力的な彼が悪いのだ。
「ヒロ、次の訓練の相手頼むわ」
「分かった。全力でやらせてもらうね!」
「そこは適当に手抜いてくれよ」
 彼が私の名前を呼ぶだけで心は跳ねる。ぐしゃぐしゃになった気持ちを飲み込み、彼の後を着いていく。
「この時間が続けばいいのに」
 私のそんな虚しい願いは叶わない。彼にも届かず、この恋は終わりそうだ。


BGM:阿部真央/貴方の恋人になりたいのです
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