ふたりトクベツになろうよ(Levi)



 朝、書類の提出をしようとしていたら、真っ青な顔をしていたハンジさんと会った。ヘロヘロな状態で分厚い本を持っている。
「ハンジさん、また徹夜ですか?」
「ヒロおはよー……エルヴィンからたくさん課題が出されてね」
「それはお気の毒に……」
 フラフラとしているハンジさんに声を掛け目的へ移動しようとすると「あ!ヒロに頼みたいことがあるの」と駆け寄ってくる。
「どうしました?」
「この本を本棚に返しといてほしいの」
 それはハンジさんが持っていた本だった。それくらいの手伝いならいいと思い、本を受け取る。「じゃ、よろしくね」とハンジさんは歩いて行った。
 無事書類提出をし、ハンジさんに頼まれていた本の返却へ向かう。扉を開けると埃っぽい空気が私を包む。どこの棚に入っているか調べてみると、かなり高い位置に同じ種類の本があった。
「どうしよう」
 背が高いわけでもなく、この部屋には私しかいない。奥にある脚立を引っ張り出し、本を元にあった場所に戻そうとすると「おい」と声を掛けられた。その声に驚いてしまい、脚立から足が滑る。
「あ、」
 言葉を言い終わる前に、私が持っていた本とその周辺の本が体に落ちてきた。どっさりとした分厚い本だったため、体へのダメージは大きい。また、脚立から落ちた際に足を挫いたようでズキズキとした痛みが走る。
「オイヒロ大丈夫か」
「いったぁ〜……兵長、どうしたんですか?」
 声を掛けた相手は兵長だった。本の下敷きになった私を引っ張り出してくれ、立って感謝を伝えようとするが、挫いた足のせいで上手く立てない。それを見かけた兵長は、肩を貸してくれた。
「なんでこんな所にいるんだ?」
「ハンジさんに頼まれて……まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが」
「ちょっと待ってろ」
 ゆっくり床に座らせてくれ、散乱した本棚を整理していく兵長。「すみません」と改めて謝罪すると「気にするな」と整頓し終わったようで、頭を撫でてくれる。
「そんな足じゃ何も出来ねえだろ」
「仰るとおりです……」
「……仕方ねえ。こうなったのも俺の責任だ。足が治るまで俺と一緒に行動しろ」
「はい……はい!?」
 まさかそんな案が出てくるとは思わず大きな声を出してしまった。「うるせえ」と兵長は私を睨むが、この案に驚かない人はいないだろう。
「あの、いいんですか?」
「何か不都合でもあんのか?俺と一緒なのが嫌なのか」
 横目で私を見る兵長。一緒にいるのも勿論緊張するが、兵長の班の人などはどんな反応するのだろうか。
「グダグダ言っててもしょうがねえだろ。もう決まったことだから腹くくれ」
「はい……」
 そろりと立ち上がろうとすると、足がふらついてしまう。すると、兵長は再び肩を貸してくれ、扉を開ける。
「俺の部屋に行く。掃除はしなくていい」
「ですけど書類など整理しなければいけませんよね?」
「それは手伝ってもらうか」
 私のペースで歩いてくれる兵長。実のところ、私は兵長に惚れている。あんなに冷静で、華麗な姿。極度の潔癖性だが、それだって受け入れられる。そんな兵長と一緒に過ごすだなんて夢のまた夢である。これは何かの間違い?と頬を軽く叩いてみると、少しだけ痛みがあったため、これは現実であることを証明する。
 兵長の部屋に着き、ソファに座らされる。「挫いた部分見せてみろ」と言われたため、ブーツを脱ぎ、ズボンを軽く上げる。自分でも確認したみたが、赤く腫れており少し傷があった。
「傷があるな……。消毒するから待ってろ」
 兵長は奥に行き、すぐに消毒液とガーゼを持ってきてくれた。コットンに消毒液を染みこませ、傷に当てる。思ったより大きな痛みが走ったが、消毒しないと余計に悪化してしまうため、声を出さないよう我慢する。その上にガーゼを貼り、包帯を巻いてくれる。
「少し大袈裟に見えるが、これだったら早く治るだろ」
「ありがとうございます」
「俺はエルヴィンの所に行ってくるが、お前は動くなよ」
「分かりました」
 そのまま兵長は団長の元へ向かっていった。部屋には私1人。何かするわけではないが、ちょっとだけ好奇心と緊張感が溢れてくる。
 部屋には必要なものしかない。最低限のもので済まされている。彼の性格そのものを表しているようだった。足は自由が利けないため、目で部屋を見物する。
「私とは大違い。さすが兵長だなー」
ソファで大きく伸びをする。何も出来ないとこんなにも暇なのか。ハンジさんが持っていた本でも持ってくればよかった。
「……そういえば兵長なんで私に声掛けてきたんだろ」
 あの書庫は基本使われていない。兵長が使っている姿も見たことない。何故よりによって私が居たときに声を掛けてきたのだろう。考えてみるも答えは見つからない。後で兵長が帰ってきたときに聞いてみよう。ソファに寄りかかり、目を閉じた。

 目を開けると書類に向かっている兵長と窓から夕暮れが見えた。少し寝てしまったようだ。兵長は私に気付いたようで「足はどうだ」と聞いてくる。
「あんまり変わんないです。少しだけ痛みはなくなりました」
「ならまだ俺が必要だな」
「はい……ありがとうございます」
 兵長は立ち上がり、私の目の前に立つ。この表情で見下ろされるのはかなりの威圧感だ。
「ヒロ、何故俺がお前の世話をしていると思う?」
「えっと、兵長が声を掛けてきてその拍子で転んでしまったからですかね」
 兵長もソファに座り、足を組む。口を開く様子はなく「兵長?」と顔を覗くと突然キスをされる。
「!え、い、今……」
「その通りだ。しかしそんな簡単な理由で俺は部屋にも上げなければキスもしない」
 何が起こったか理解できない。頭が真っ白だ。兵長は私との距離を縮める。
「ヒロ、俺はお前に惚れている。……お前はどうだ」
「あ、わ、私も……」
「だろうな」
 兵長は私の返事を分かっていたいようで、肩を抱き寄せる。耳元で「ずっと俺のことを見つめていたよな」と全て見透かされていたようで顔に熱が上げってくる。
「な、なんでそんなこと分かるんですか?」
「視線が合いすぎだ。俺もヒロのことをずっと見つめていたようだな」
 確かに歩いてる時やすれ違う時には兵長の顔を見ていた。でも、まさか兵長までも私のことを見つめていただなんて。
「これって、夢ですか?」
「夢じゃねえ。ヒロ好きだ」
 その言葉を言われた瞬間涙が出てきた。彼なら絶対にあり得ないはずなのに、袖口で涙を拭いてくれる。兵長と向き合うと、今まで見たことない優しい表情をしていた。
「ヒロがどれほど俺のことが好きかは分からねえが、お前の好きなところは数個は言えるぞ」
「兵長、そんなに私のことが好きなんですか?」
「ああ。初めてお前を見たときからだ。所謂一目惚れだな」
 兵長もこちらを見てくれ、瞳には私の顔が映っている。涙目で情けない表情の自分が。
「ハンジには感謝だな。怪我が治るまでお前と居られる」
「怪我が治ったらもうここに来ちゃ駄目ですか?」
「いや、いい。お前だけだからな」
 前髪を掻き上げられおでこにキスをされる。それが嬉しく控えめに抱きつくと強く抱きしめ返してくれた。
「兵長、聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ」
「なんであの時書庫に来られたんですか?」
 すぐ返事が来ず、頭を傾げると「クソメガネが言ってたんだよ。ヒロがいるからチャンスだよ!なんてほざきやがって……」
「なら、私が脚立から落ちたのは偶然ではなく……?」
「それは偶然だ。わざとならもっと大袈裟にやる」
 昼間疑問に思っていたことは解決した。しかし、兵長と私が恋愛関係になったら、きっと馴れそめや色々なことを聞かれそうだ。
「ハンジさんに茶化されそうですね」
「そんなん無視しとけ」
 兵長は大きなため息をつき、私の耳元へキスをする。
「トキメキは兵長とです」
「はっ、そうか」
 顔を持ち上げられ、もう一度唇にキスをする。私からも頬にキスをすると、兵長は唇を指さし「今度からはここにしろよ」と少し微笑んだ。


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