「心配すんな。ちょっと変態だけど、うまいから、あいつ」
 何のフォローにもなっていないことを言って、静雄は正臣を見上げて笑った。その控えめな笑顔に顔が熱くなる。
「紀田君だめだよ騙されちゃ。ちょっとかっこかわいいからって油断するとひどい目にあうよ。真の変態はシズちゃんだから」
 臨也はまるで見てきたように言う。
「うるせえ。黙れ」
 正臣越しに臨也に言葉を投げながら、静雄が口付けてくる。寄せられた端正な顔のところどころにぬぐいきれなかった精液が付着しているのを見とめて、正臣は目をつぶった。大きな手のひらで頭を固定され、唇を割って舌が進入してくる。時折、口内の弱い場所をくすぐられ、指の先まで快感にしびれた。キスに夢中になっていると、いつの間にか離れていた臨也の手が再び尻に触れた。
「シズちゃん、ローション借りるよ」
 何か、冷たくてぬるついたものが尻の狭間に塗りつけられる。かと思うと穴に指を沈められた。ゆっくり入ってくるとはいえ、異物感があって気持ちが悪い。
「ぅ……んっ……」
 眉を寄せていると、静雄が唇を離した。
「大丈夫だ。力抜いて、こっちに集中してろ」
 再び唇が重ねられる。同時に指先で乳首をこすられた。しつこいぐらいに先端をいじられ、だんだんと膝に力が入らなくなっていく。
「っは、あ……ん、っ」
 臨也の指は粘膜をこすりながら慎重に進められ、不意に腸壁の一か所を押し上げた。
「なっ、あっ、そこ、なんでっ」
 今まで経験したことのない感覚に襲われて、正臣は反射的に臨也の指を締め付けた。
「気持ちいい? ここ」
 粘膜の一部分をゆっくりとさすられる。指の腹で優しく触れられると背筋が震えた。
「ひっ、わ、かんなっ……」
 目の前にいる静雄の肩に顔をうずめて、正臣はその感覚に耐えた。
「おい、あんまりやると……」
 なだめるように正臣の背中をなでながら、静雄が臨也に話しかける。
「またいっちゃうって? 大丈夫だよ。シズちゃんと違って慣れてないんだから、初めてでここだけでいったりしないよ。ていうか無理だろうね」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ。ていうかシズちゃん自分のときのこと覚えてないの?」
「さあな。てめえがひーひー言ってたときのことは覚えてるけどよ」
 正臣は思わず想像してしまった。それを見透かしたように、臨也が笑う。
「紀田君のエッチ。今やらしいこと考えただろ」
「か、考えてなっ……」
「嘘つきにはお仕置きが必要かなあ」
 指が二本に増やされ、先ほどと同じ場所を押される。かと思うと少し力を込めてこすられた。
「あああっ! あっ、そこ、や、やめっ……ひっ」
「ほんとかわいいな。シズちゃん、まだいかせちゃだめだよ」
「かわいそうだろ」
「俺のことは平気で放置するくせによく言うよ」
 臨也の二本の指が同じところを押しつぶしたりつまんだりする。その度に込み上げる感覚が何なのか、正臣は最初よくわからなかった。しかし、しつこく同じ場所をいじられ、なおかつ静雄に、気持ちいいよな、などと囁かれれば、これが快感なのだと自覚するのにそう時間はかからなかった。
「ぅ、ふっ……くっ……」
 さらにもう一本、指を増やされて、少し乱暴にかき回される。熱くてたまらない粘膜をこすられると、性器の先端からだらだらと先走りがあふれるのがわかった。
「あー……すげーな。ぬるぬるだ」
 あきれたような感心したような声で言った静雄が亀頭に触れ、カウパーを塗りこめるようになでまわされる。
「さ、さわっ、たらっ」
「シズちゃん、だめだって」
「これっぽっちでいけるかよ」
 静雄の言うとおりだった。体はこれ以上ないくらいに高ぶって、いつ射精してもおかしくない状態だというのに、タイミングがつかめない。いや、与えられる刺激をそこに結び付けることができない。臨也の指に押されている場所は確かに気持ちがいい。しかし、正臣にとっては不慣れな快感で、まるで射精の寸前で止められているようなもどかしさに涙がにじんだ。性器の先端を指先でなでつける静雄の指も、敏感な部分だけをしつこくいじられてもつらいだけだった。達することができない代わりに、張りつめた正臣の陰茎はとめどなく先走りをこぼした。
「ひっ、も、いやだっ……」
 出してしまいたくて全身が震える。静雄の首に腕を回すと、やはり優しく背中をなでられた。
「ほんっと、シズちゃんって俺以外には甘いよねえ」
 臨也の指が引き抜かれ、そのまま体を反転させられる。
「いきたい?」
 涙をぬぐわれながら問われ、正臣は頷いた。
 臨也はそれを一笑する。
「ちゃんと口で言ってくんない?」
 再度まとめて挿入された指が、また粘膜の一か所をこする。
「ふぁっ……も、いかせて、くださっ……」
 今なら恥ずかしさで死ねる気がした。正臣は全身を巡る快感と熱を持て余して泣いた。
「紀田、泣くな。ちゃんといかせてやるから」
 静雄に頭をなでられ、もう一方の手で性器を緩く扱かれた。
「あっ、あ……っ」
「やっぱり甘いよ、シズちゃんは」
 どこか不服そうに言いながら、臨也は正臣の中に入れた指を激しく動かした。
「ぁあっ、いざやさ、それ、やだっ」
「いきたいんでしょ? 同時にいじったらすごい気持ちいいよ」
 内側を強く押されたりこすられたりしつつ、静雄の手にもややきつめに亀頭を摩擦される。
「うぁっ、ああっ……」
 二度目の射精にも関わらず、快感は先ほどの比ではなかった。普段のセックスや、自慰で得られるものとは異なる、尾を引く心地よさに、正臣は歯を食いしばって耐えた。
「お疲れ。癖になりそうなくらい気持ちよかっただろ?」
「死にたい……」
「そんな大げさな。こんなことでいちいち死んでたら命がいくつあっても足りないよ」
「ふざけんな! さんざん人で遊んでくれやがって! そんなに楽しいか!」
「まあ、楽しくなかったら遊んだりしないし。ね、シズちゃん」
「あ? そうだな」
 手のひらに吐き出された正臣の精液をティッシュでぬぐいながら生返事をする静雄にいらだって、正臣は手早く服の乱れを直すと、テーブルの上の食べかけのハンバーガーに手を伸ばした。
「あー! 後でチンして食べようと思ってたのに!」
 叫ぶ臨也に背を向けて、正臣はクォーターパウンダーをかじった。ポテトも残っていたので何本かまとめて口に入れる。冷めたファーストフードはびっくりするくらいまずかった。

20100809
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