シズちゃんと喧嘩したら白いカーディガンが黒くなった。次の日、同じ過ちを繰り返すまいと黒いカーディガンを着て行ったら今度は白くなった。ほこりやらシズちゃんのでかい靴の跡やらが目立つ。最悪だ。それでも革靴で踏みつけられた俺はちょっとだけ興奮してしまった。
「変態ノミ蟲が」
 吐き捨てるように言ったシズちゃんが俺の頭を踏みつける。屋上のコンクリートと頭がこすれて痛い。痛いはずなのに俺はなぜか痛みではなく切なさで瞳を潤ませた。
「ふぁっ……シズちゃん、シズちゃん……」
 涙を浮かべて名前を呼ぶと、シズちゃんはうっとうしそうに見下ろしてきた。あ、その顔かっこいい。好き。
「なに泣いてんだよ」
「だってなんか頭熱くって」
「てめえマジで変態だったんだな」
 シズちゃんはうんざりした様子で足をどかした。俺はゆっくりと上体を起こすとシズちゃんのスラックスをつかんだ。
「ああ?」
「ね、俺もうがまんできないよ」
 ペントハウスの裏側の壁に背中をつけたシズちゃんの前に膝をついて、ジッパーに手をかける。
「おい、臨也」
 制止にしてはぬるい声で呼ばれたが、無視して下着の上からまだ何の反応も示していない性器に唇を押し付ける。
「ん、シズちゃん……」
 布地の上から軽く刺激しながら丁寧にシズちゃんのを取り出す。屋上の、ちょっと冷たい空気に冷やされた手で触れるとシズちゃんはびくっとした。なんだかかわいい反応だ。一方俺はその温かさにうっとりしてしまう。これからこれがもっと熱くなって卑猥に形を変えていくのだと思うと腰のあたりが甘くしびれた。
 両手でシズちゃんの肉棒を丁寧にこすり、先端を口に含む。亀頭の割れ目に舌を這わせると、だんだん硬くなってきた。同時にシズちゃんの手が俺の頭に触れる。大きな手でこうして触れられるのが俺は好きだ。地肌をかすめる指先に瞳を細めながら、シズちゃんの性器を限界までくわえこんで唇で扱く。さすがに全部は口に入らないので、余った部分は手を使って刺激した。同時に根元の袋も優しく転がす。
「っ、おい、なんなんだよ、いきなり」
 シズちゃんは特にやめさせようとはしないが、いまだ俺の行動が理解できていないようだった。いや、というよりも納得がいかない? 頭おかしくなったとか思われたかな。そんなの昔からか。俺はシズちゃんの性器から口を離した。
「らって、がまんできないんだよ。言っただろ?」
 シズちゃんの性器はすでにそこそこ大きくなっていて、俺の唾液以外のもので濡れている。先端の口が開いたり閉じたりしながら粘液を分泌する様はとてつもなくいやらしくて、また目の奥が熱くなった。
「飲ませてよ、シズちゃん」
 先走りですらこぼすまいと亀頭のぬめりをぬぐうように舐めまわす。そこからまた深くくわえていって出し入れさせると、シズちゃんの体が強張っていることに気付いた。目線だけを上げて見ると、きつく眉を寄せた色っぽい顔があった。俺と目が合うとシズちゃんはいらだたしげに舌を打った。
「見てんじゃねえ、よ」
 上ずったその声にさえ興奮した。しゃぶられているのは俺じゃなくてシズちゃんなのに、自分の股間が膨らんでいるのがわかる。
「ん、ふっ……」
 そろそろいきそうなのか、俺の頭を押さえる手の力が強くなった。離すな、とばかりに固定され、硬いもので喉の奥を突かれる。
「ぐっ、んぅ……っ」
 吐き気を催してきつく目を閉じると涙があふれた。シズちゃんは俺の頭をつかんだまま数回腰を動かして、そのまま俺の中に射精した。どろっとした生臭い体液は喉に絡んで、飲み下すとき少しむせた。それでもこれがシズちゃんの味なんだと思うとスラックスを押し上げる性器にさらに血が集まったようだった。
「ふっ、はあ……気持ちよかった?」
「変態が。人のちんこしゃぶりながら勃起してんじゃねえよ」
 衣服の乱れを直したシズちゃんは長い脚をすっと持ち上げると俺の股間を踏みつけた。
「っあ、シズちゃっ……」
 硬い革靴の裏側がスラックスごしに俺の性器を踏みにじる。
「てめえ踏まれて感じてんのかよ。変態な上にマゾとか最悪だな。救いようがねえ」
 ぐりぐりといつも彼に踏み消される煙草のように俺の股間のふくらみが踏みしだかれる。痛いはずなのに、なぜか俺の頭は熱いままで、涙も止まらなかった。
「ふあぁっ……シズちゃん、気持ちいっ……」
 一応加減された強さで、シズちゃんは俺の股間で足踏みする。ぎゅ、ぎゅっと一定のリズムで力を入れられるとその度に下半身がしびれて、それが全身に広がってゆく。
「あっ、ぅあ」
 もはや完全にたちあがってしまった性器の先端に下着がこすれて痛いようなむずがゆいような刺激が与えられる。みっともなく息を乱して、俺はシズちゃんのスラックスをつかんだ。すると硬い靴の裏側が狙い澄ましたように亀頭部分ばかりをこすりあげた。
「ひぅっ、あ、あっ、それっ、や!」
 敏感になった柔らかいそこに濡れた布地が絡みつくのがたまらない。あまりの刺激に腰が引けてしまう。
「逃げてんじゃねえよ」
 シズちゃんは舌打ちをすると、いきなりデコピンをかましてきた。
「いったあ!」
 普通なら考えられないくらいの威力がある攻撃に、俺は仰向けに倒れこんでしまった。熱をもって痛む額を押さえていると、シズちゃんが俺の足首をつかんだ。
「えっ?」
 意図がわからずに見上げると、シズちゃんはにやりとして、再び俺の股間に足を置いた。
「な、あ、ああっ」
 押し付けられた靴を揺さぶられ、その下でたちあがった俺の性器が激しく摩擦される。
「ひっ、シズちゃ、ちょ、いたっ、痛いよっ」
 さすがに刺激が強すぎて俺は頭の後ろを屋上のコンクリートにこすりつけて泣いた。
「ああ? 痛いとかって、言うわりに全然萎えてねえじゃねえか」
 しっかりと俺の足首をつかんだまま、シズちゃんは靴のかかと部分で陰嚢のあたりを柔らかく踏みつけた。
「あああっ! あ、あーっ……」
 白昼の学校の屋上だということも忘れて、俺は悲鳴のような声を上げて射精してしまった。
「ふ、うっ……」
 涙が止まらなくて目元を両手で覆うと、シズちゃんが力の抜けた俺の足を放り出した。
 下着の中で射精してしまったため、脚の間がどろどろして気持ち悪い。トイレに行ってなんとかしなければと思うのに、動くのがめんどうだった。
 呼吸が落ち着いて、視界をふさいでいた両手をどけると、よく晴れた秋の空が飛び込んできた。薄い色の空には雲ひとつなく、まぶしさに瞳を細めるとまた涙がこぼれた。それが外気に触れてどんどん冷たくなってゆく。
 涙をぬぐって頭を動かすと、ペントハウスに背中を預けて座り込み、煙草をくわえたシズちゃんが見えた。傍らには飲みかけの缶コーヒーが置いてある。砂糖もミルクも入っているやつだ。俺はシズちゃんに汚された黒いカーディガンの上から腹をさすった。
「ねえ、シズちゃん、おなかすいた」
 思えば今日は朝から何も食べていない。昼休みはシズちゃんと騒いでいて食事をする暇なんてなかった。ちなみに今は午後一の授業中だ。きっと購買も開いていない。
 物欲しげな顔をしていたであろう俺に、シズちゃんはあきれたような顔で言った。
「てめえ、動物みてえな奴だな」
 とりあえず、俺はシズちゃんの飲みかけの甘ったるいコーヒーをもらうことにした。あ、これシズちゃんのカーディガンみたいな色してるね!

20101101
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