「そんなこと言ってもさあ、もうたちすぎて立てないし歩けないんだよ。君も男ならわかるだろ? それとも先に一度抜いてくれる? そしたら移動できるかも」
 そんな条件を正臣がのむはずがないと思ったが、彼は意外にもすんなりソファをおりて臨也の足の間に膝をついた。
「え、正臣君?」
「口でします。これなら文句ないでしょう。約束は守ってもらいますよ」
 まさか彼がそんなことを。困惑する臨也をよそに、正臣は淡々と手を動かしている。ジーンズのベルトを外して、前をくつろげる。
「もうちょっと深く座ってください。あと足」
「足?」
「開いて」
「うわあ……」
 まさか彼にそんなことを言われる日がくるとは思わなかった。言われたとおりにすると、正臣は下着の中から取り出した性器に指を絡めた。もうずいぶん反応してしまっている。触れられたとたんに先走りがあふれた。正臣はそれを見て眉をひそめ、ためらいがちに唇を寄せた。
「ふっ……」
 声が出そうになり、臨也は手のひらで口をふさいだ。少し視線を下げると正臣の唇が張り詰めた陰茎を含む様が見えた。ぎこちない動きでゆっくりとくわえ、探るように舌を這わせる。
「っは……まさか、君がこんなことしてくれるなんてね……」
 無理をして笑みを浮かべながら正臣の頭に指を滑らせる。正臣は一瞬だけ臨也を見上げたが、険しい顔つきのままさらに深く陰茎をくわえ込んだ。
「ぅっ、やばい、なんかすぐ出ちゃいそっ……」
 せっかく正臣にフェラをしてもらっているというのに、すぐに終わらせてしまったのではもったいない。
「ていうか正臣君、まさかとは思うけど誰かにしてあげたことあるわけじゃないよね? このぎこちなさからして初めてだとは思うけどさ……」
 気を散らすために話しかけると、正臣はうっとうしそうな顔をして、いったん性器から唇を離した。
「初めてに決まってるじゃないですか」
 そうにらみつけてくる正臣の唇に臨也の先走りが付着してぬめっている。
「だよねえ。そのわりにすんなりくわえてくれちゃって」
「あんたがどうにかしろっつったんだろ」
 正臣は根元からしごきながら先端をなめまわした。
「っあ、そ、うだけどさっ……こんな、波江もいるのに、俺に奉仕するのは恥ずかしくないのっ……?」
 亀頭を刺激する舌の動きが止まった。正臣の頬はうっすらと高潮し、瞳もかすかに潤んでいる。
「へえ、やっぱり恥ずかしいんだ。それとも、波江さんに見られてると思うと興奮する?」
「ちょっと、なんなんすかさっきから。べらべらしゃべってる暇があったらさっさといってください」
「そんなもったいないことできるわけ、っ」
 指の腹で先端をしつこくこすられると同時に軽く引っかかれた。
「ぁ、それやばっ、あんま強くしないでっ……」
「そんなわがままをきくと思いますか?」
 正臣は苛立ちを隠そうともせず、張り出した部分を刺激しながら舌先で尿道をえぐった。すでに開いてねばつく液体をあふれさせるそこを、正臣は舌の表面で丁寧になぶって、反応をうかがうように見上げてきた。熱っぽい瞳にはやはり涙が浮かんでいる。平静を装っていても、第三者の存在を意識しないわけはないのだろう。そんな中、つたないながらも懸命に肉棒をなめしゃぶる正臣に、臨也はだんだんせつなくなってきた。小さな頭の揺れに合わせて、限界まで張り詰めた陰茎が正臣の唇に出し入れされる。快感が背筋を駆け上がって、臨也は身震いした。
「っ、も、出すよ。飲んでくれる?」
 一瞬動きを止めた正臣の頭をつかんで固定し、のどの奥に性器を押し付ける。
「んぐっ、ぅ……」
 正臣は思いきり顔をゆがめてとうとう涙をこぼした。
「ごめん、すぐ終わるから、ちょっと我慢して……っ」
 吐き気を催して痙攣するのどの締め付けが気持ちいい。
「ぅあ……くっ……」
 しびれるような快感に、臨也は歯を食いしばった。射精は長く、数回にわたって吐き出された精液はすべて正臣の口の中に放たれた。彼が泣きながらそれを飲み込むのを見届けてから、臨也は彼の頭から手を離した。
「ふ、はっ……さいあく……」
 なえた性器から口を離した正臣は吐き捨てるように言った。
「ははっ。ありがと。気持ちよかったよ」
 臨也は彼の口の周りについた汚れをぬぐってやった。
「もういいから、さっさと移動してください」
 正臣は立ち上がった。やはり恥ずかしいのか、必死に波江のほうを見ないようにしている。
 そんなことしなくても、彼女はまったく気にしてないよ。
 臨也は思いながら服の乱れを簡単に直してソファを立った。正臣を促して事務所を出る。その直前、波江を振り返ったが、彼女は臨也に気づいた様子もなく、黙々と仕事をしていた。
 臨也は苦笑して事務所の扉を閉めた。

20101006
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