正臣と臨也は更衣室に隣接するシャワールームの個室にそれぞれ入った。五つほど並んだ個室の奥から正臣、その隣に臨也である。個室といっても、目隠しは扉ではなくカーテンだった。
「紀田君」
 頭からシャワーを浴びていると不意に名前を呼ばれた。
「なんですか?」
「シャンプー持ってない?」
 何を言い出すんだ、と思わなくもなかったが、プールに入ると塩素で髪がごわごわになる、と以前クラスの女の子が言っていたのを思い出し、臨也ならそういうのを気にしてもおかしくはないなあと正臣は納得した。
「石鹸なら」
「んーそれでいいや。ちょっと貸して」
「投げますか?」
「いや、取りに行くよ」
 隣からシャワーの音が聞こえなくなった。正臣はカーテンを開けて、個室から出てきた臨也に小さな容器に入った石鹸を差し出した。
「ありがとう」
 臨也は微笑んで、正臣から石鹸を受け取る代わりに個室に踏み込んできた。
「えっ」
 彼がすばやくカーテンを閉めてそこを元の個室にするのを、正臣は驚いて見ていた。次の瞬間、臨也のあのきれいな顔が眼前に迫り、正臣は彼の名を呼ぼうと開きかけた唇を、彼の唇によってふさがれた。
「んっ! ん、ぅ」
 背中を壁に押し付けられ、両手も捕らえられた。正臣は目を見開いたが、目の前にある臨也のまぶたはそっと伏せられている。すぐに唇の隙間から彼の舌が入り込んできて、正臣はさらに目を見張るとともに顔を赤くした。臨也の舌が正臣のそれと触れ合って絡めとられる。そのまま口内の粘膜をなめられたり、舌先でくすぐられたりして、正臣はキスにこたえたわけでもないのに息を乱した。
「い、臨也さ、なんなんすかっ……」
 ようやく唇を離されると唾液が糸を引いて、正臣はますます顔に熱を上らせた。
「真っ赤になってるよ」
 再び軽く唇を触れ合わせられ、同時に足の間に割り込まされた臨也の太ももが水着越しに正臣の性器を刺激した。
「ちょっ、臨也さっ」
 押し付けられた臨也のむき出しの足が股間をこすり上げ、正臣は動揺した。
「ま、待ってくださ、ちょ、なんでっ」
 水着越しとはいえ執拗に摩擦されれば反応してしまう。しだいに頭をもたげ始めたそれが前を押し上げているのがわかった。
「なんで? じゃあ君はなんでたってるの?」
 臨也が笑い、正臣の片手を解放する代わりに水着の中に手を差し入れた。
「なっ」
「熱いね」
 彼の白い手は器用に正臣の反応しつつある性器を取り出した。そのまま指が絡められ、強弱をつけてしごかれる。
「ちょっ、まっ、だめ、って」
 先ほどまで温かかったはずのシャワーがずいぶん冷たく感じられる。正臣はそれが自分の体温が上がっているせいだと気づいた。
「んんっ、ぅ……」
 片手で口をふさいで声を抑える。その様子を見た臨也は少し笑って、正臣の水着を引き下ろすと尻をつかんだ。
「なっ、なにっ」
 正臣が思わず声を上げたのにもまるで気にした様子はなく、尻の狭間に指を突き立て、穴にねじ込もうとしてくる。
「なっ、い、臨也さっ、何してんすか!」
「何って、ここまでしてわからないわけじゃないだろ?」
 わからないわけではなかったが、信じたくなかった。混乱と羞恥で頭がおかしくなりそうだ。
「あ、石鹸借りるよ。あとちょっと後ろ向いて」
 ずっと握り締めていた石鹸を臨也に奪われて、同時に体を反転させられる。壁と向き合った正臣はすぐに石鹸でぬるついた臨也の指が体内に差し込まれる感覚に身をこわばらせた。
「紀田君だめだよ、力抜いて」
 入り込んだ臨也の指が気持ち悪くて、正臣は壁に額をこすりつけた。
「う……くっ……」
 ゆっくりと指を出し入れされ、その抜かれるときの感覚に、快感に似たようなものを拾いつつも、依然として下半身の違和感はぬぐえない。そのうち臨也の指は二本になり、狭い入り口を広げるような動きをしたかと思うと、そろえた指の腹に腸壁の一部分をこすられた。
「っあ、あ、そこっ……」
 それがどういう場所なのか、正臣はよくわからなかった。臨也の指先によってもたらされる知らない感覚はしかし、じんわりと股間を熱くさせた。
「気持ちいいんだ、ここ」
 その指摘がたまらなく恥ずかしくて、正臣はきつく目をつぶった。しかし、臨也の言うところの快感から逃れることはできず、ますます指先に力を込められてそこをこすられ、膝が震えた。
「いざやさ、ぁっ、も、やめっ……んっ」
「ああ、もういきそうだね」
 後ろをいじっているのとは反対の手で再び性器をしごかれる。完全に立ち上がってしまったそれの先端の敏感な粘膜をこすられ、同時に体内に埋め込まれた指で一箇所をやわらかくもまれる。
「ぁあっ、あっ」
 正臣はこらえきれずに臨也の手の中に射精してしまった。彼は手のひらで受け止めた精液を正臣の肛門に塗りつけて、三本目の指を挿入した。
「うっ」
 圧迫感に声を出すと、耳に噛み付かれた。
「いたっ」
 すぐに臨也の舌がそこに這わされ、寸前までの痛みとは別の感覚にさいなまれる。
 一体何をしているのだろう。あの折原臨也と、シャワー室で。いまだ現実が信じられない正臣だったが、体内で動き回っていた三本の指が引き抜かれ、そこに臨也の性器が押し付けられた瞬間、そのありえない状況が逆に現実を意識させた。

20100821
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