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  第漆話


*side佐疫


初めて彼を見た時の衝撃は、今でも覚えている。
女の子みたいに、細くて小さなその身体で何人もの獄卒を相手にしていたのに、顔色一つ変えず全てを地に伏せたその姿に、俺は心打たれた。
その時に霊力弾というものの存在を知ったのだけれど、残念ながら俺には扱えるような代物じゃなかった。

だから、せめて彼のようになりたいと思って、俺はその日から銃を持った。


「俺にとって殺部は、憧れのようなものなんだ。あの日見た彼の姿はとっても綺麗で、いつまでも忘れられない」


俺が隣に座る斬島にそう語れば、彼はそれを馬鹿にすることもなく真剣に聞いてくれる。
俺の親友はいつもそうだ。どんな事でも、真剣に向き合って、真面目で、だけどちょっとだけ頑固だし天然。
でも、そんな斬島と親友になれて本当によかったと思っている。


「いつか、彼と肩を並べられるぐらい銃の腕が上がったら……。殺部に真正面から俺を見てもらいたいって、思ってた」
「?もうそれは叶っただろう」
「う……あれはその……俺かなりテンパってたから……。恰好悪いところを見せちゃったなぁ……」


先程の出来事を思い出し、俺は赤面する。
だって、思わず「好き」と言ってしまった。
本当はもっと気の利いたこととか、話したいことは沢山あったのに、口を衝いて出たのはその言葉だった。

でも彼はそれを真剣に聞いてくれた。
たった一言だったけどしっかりと俺の目を見て応えてくれた。
今はただそれが嬉しくて仕方がない。


「今度の買い物、楽しみだね」
「あぁ、どんなものがいいか事前に調べておこう」
「殺風景な部屋だったもんね。本棚とか、そういうのも置いてたらいいかも」


俺達は箸を進めながら、今後彼の部屋をどう模様替えするかを話し合う。
あぁ、本当に楽しみだ。



あんなに遠くに存在していた殺部が、今ではこんなにも近くに居る。
もう彼の背中を追いかけていた頃の俺ではない。
俺は強くなった。
だから……。

できるならば、貴方の背中を俺に預けてほしい。



 

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