clap story | ナノ



  第伍話


私は今わけの分からないままに斬島に特務室の館内を案内されている。
何故斬島や肋角さんが私の名字を知っているのかとか、斬島にお前をもっと知りたい……トゥンクみたいなことを言われたりと、兎に角色々と分からないことだらけなのだ。
此処はどうだ、とか一か所一か所きちんと説明をしてくれる斬島には悪いが、今は何も頭に入って来ない。

もしかして、私を同名の誰かと間違えている……?

いや、そんな訳ないだろう。だって本編に「綾部」という名前の獄卒は一度も出て来ていないからだ。
そんなことを悶々と考え込んでいると、どうやら今日から私の部屋となる場所に着いたようで、一つの扉の前で斬島が立ち止まる。


「此処が今日から殺部の部屋だ。家具やそのほかのものも既に運んである」
『あぁ。此処まで案内をしてくれて有難う』
「いや、俺の方こそ我儘を言ってすまなかった。今から部屋の片づけをするのだろう?着替えてきたら手伝うぞ」


マジでか。
呆然と斬島を見つめていれば、ガチャリと右隣の扉が開く。


「あ、斬島帰って来てたんだね!……と、君は……」
「佐疫、彼が肋角さんが言っていた殺部だ」
「彼があの殺部!?」


何故か目を丸くして私を見つめる佐疫に、とりあえずぺこりと頭を下げておく。
うわぁ……目の前にあの地獄のエンジェルがいる……。
まじまじと佐疫を心のメモリーに焼き付けていれば、彼は突然かっと目を見開くや否や、光の速さで私の両手を握るとぶんぶんと激しく上下させた。


「おおおお、俺佐疫って言います!えっと、えっと、だだだだだ、大好きです!!」
『……そうか、有難う』


なんか告白されたんだが、どういうことだってばよ。
あまりの衝撃にお礼を言う事しかできない。あれだ、自分よりもテンパっている人を見ると冷静になれるという現象だ。あと、佐疫が衝撃発言した辺りから何故か斬島の口角が反比例のグラフかってぐらい下がってしまっている。

そこで私はハッとある可能性が脳裏をかすめた。
もしかして、斬島は親友である佐疫が私ばかりを構うから嫉妬をして……!?な、なんてぷまい関係……!?!?この関係が分かっただけで私、白飯三杯はイケる……!


『……すまないが、そろそろ部屋を片付けなければ……』
「え、あ、じゃ、じゃあ俺も手伝うよ!」


ちょっとこの世界イージーモード過ぎない??大丈夫??上げて突き落とす感じじゃない??
とりあえず、一旦落ち着こうと私は支給された自室の扉を開けた。
そして中を見てほんの少し驚く。中は落ち着いた雰囲気の部屋で、家具はベッドとクローゼットと小さな机と椅子しかなかったが、私の好みの内装だった。しかも私の部屋よりも広い。
だが、佐疫や斬島はそんな私の部屋を見て驚いたように声を荒げた。


「え、これで家具が全部なの!?」
「いくらなんでも、少なすぎないか?」
『……そうだろうか』


まあ、確かにこれ以外の荷物って机の上に置いてある中ぐらいの大きさの段ボールぐらいだもんな。しかもあれ多分服とかしか入ってないだろうし。
とはいってもこの量だと……。


『……二人共この量なら私一人大丈夫だ。有難う』


そう告げて、部屋に入ろうとすると今度は斬島に手を掴まれた。


「家具を買いに行こう」


いや、片付けはいいんですか?




 

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