clap story | ナノ



  第拾玖話


綾部のパーティーに【夢羊】が加わった!

そんなテロップを脳内で流しながらも私は腕にその夢羊を抱えたまま木舌の後ろをついて歩いていた。まるで処刑場に案内されているような気分だが、実際の目的地は私を探しているらしいみんなの元である。
ちらりと目線を上げると数メートル離れた先にある大きな噴水の前で彼等が殺気混じりの気迫で辺りを見回しているのが見えた。

あっ……これはアカン……私死んだな。

確実に乱立している自身の死亡フラグに白目を向きそうになるもそれをぐっと堪え、この窮地をどう切り抜けるかを考える。
素直に謝るだけでは斬島や佐疫は許してくれるだろうが、谷裂や田噛辺りなんかからきついお灸が飛んでくるのは目に見えている。
ならばどうするか……悶々と突破口を思案していると腕の中で大人しく収まっていた夢羊がスリスリと顔をすり寄せて来た。

その瞬間、私はある作戦を思いついた。
しかしその作戦を成功させるには些か不安しかないが今は背に腹は代えられない状態……。
すぐ近くまで迫っているタイムリミットに私はぐっと決意を固めた。


「お待たせ〜、ちゃんと殺部を連れて来たよ。ほら、みんなに言うことは?」


ずいっと無慈悲にも木舌は私をみんなの前に立たせると軽く頭を撫でながらそう言った。
私は目線を足元に落としたまま五人から来る強烈な目線に耐え忍びながらも先程脳内で作り上げた計画を実行する。


『その……勝手な行動をしてすまなかった。初めて見るものが沢山あって……夢中になっていたんだ』
「殺部……」


そこで私は一旦区切り、ギュッと夢羊を抱き締める。それから目線だけを上げて目の前に立つ彼らを見上げた。


『……今度からは気をつける。だから、許してもらえないか……?』


ここまで来れば私が何をしているのかお分かりだろう。
そう、私はこの可愛い夢羊を使って彼らに所謂色仕掛けのようなものを実行したのだ。彼らとの身長差を考えても今私は上目遣いで彼らを見上げるか弱い子を演じられているだろう。
現に過ぎ行く人々の声に混じって「あの夢羊を抱えてる獄卒さん可愛い」やら「虐められてるのかな……可哀想」等という声も聞こえている。

さあ、このロールの判定は如何に……!?

注意深く彼らの様子を見ていると真っ先に行動を起こしたのは……佐疫だった。
徐ろにデバイスを取り出したかと思えば熟練の職人かと問いただしたい程流れるような滑らかな動きでシャッターを切る。カシャ、という無機質な音が連続で何回か続いた後佐疫はやりきったとでも言いたげに万遍の笑みを浮かべた。


「大丈夫、俺達怒ってないよ。でも今度からは誰かに一言声を掛けてからにしてほしいな。心配だからね」
『……すまない』


言動が合っていないことを指摘してはいけない……私はそれを感じ取ると素早く目線を逸らして謝った。蜂の巣にされるのは勘弁である。
佐疫の言葉通りどうやらもうみんな怒っていないようで軽く注意を受けた後話題はすぐ様私の部屋に置く家具の話しになった。


「殺部は何か欲しい家具はあるのか?」
『……パソコンと本棚ぐらいだな』
「あー……じゃあパソコンを置く机と椅子が必要だな。おい、色はどうするんだ」
「やっぱそこは黄色にしよーぜ!な、殺部!」


そう言って私の肩に腕を回して来る平腹に何でもいいと返せばブーイングが返ってくる。正直な話、パソコンが使えれば色やデザインはどうでもいいのだ。

……そう思っていた時期が、私にもありました。
私は今突然目前で始まった冷戦をどうやり過ごそうかと思いながらも近くで売っていたアイスクリームを食べ進める。
事の始まりはあの平腹のお前の私物を俺色に染めてやるぜ!的な発言のせいである。それに難色を示したのは他の皆さんだ。ならばと挙げられる色は自らのイメージカラーばかり。らしいと言えばらしいが君たちは私の自室をどうしたいの?なんなの?
とりあえずこの現状を生み出した平腹には正義の鉄槌を下そうと私はこの広く青い空に誓った。


 

[back]