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  第玖話


どうも皆さんこんばんわ。貴方の綾部です。
今私は親切にも私を夕飯に誘ってくれたエンジェルこと佐疫とそんな佐疫が大好き(深い意味はない)な斬島と共に万里の長城かというぐらい長い廊下を歩いている。安心してください、比喩です。
でもこの館の三階はみんなの居住スペースだからかかなり広いことには変わりがない。
そんな広い中で佐疫と斬島の部屋の間とか私の運がヤバい。多分一生分の運使い果たした気がする。
これは夜、壁に耳あり障子にメアリーをするしかないと内なる神が言っている。

と、まあ現実逃避は此処までにして、私は今の状況をゆっくりと整理する事にした。
まずあの手紙についてだが、もうなってしまったものには仕方がないだろうし、お家に帰るという選択肢はもう無いと覚悟した。ごめんな親友よ……私は此処で特務室の関係性(♂)をじっくりと暴いていこうと思う。そしてあわよくば徒然なるままに書き綴ろうと思う。任せて、この任務……命を懸けて全うしてみせるよ!

次に殺部さんが残してくれた記憶と能力についてだ。
これは先程うたた寝してしまった時に夢の中で見た、としか言えない。
なんと表せばいいのか分からないが、断片的な映像を映画を見ているような感覚で見た、と言えばいいのかな。あと、能力に至っては不明な点も多いが、何となく理解は出来た。
あれだね、幽遊の霊丸みたいなものだね!

そして、私はちらりと横を見た。
右には佐疫、左には斬島。この状況を見てみんなは何を思い浮かべた?
もっと言うなら、佐疫の身長は177p、斬島は178p。そして私は女性の平均身長ぐらいしかない。

そう、この図は完全に捕らわれの宇宙人だ!

いや、言い訳をさせてほしい。
突然佐疫が私の手を取って歩き出したから離すタイミングが分からなかったんだ。そして斬島を見たらしょんぼりとした雰囲気を感じたんだ。斬島ずっと真顔だから雰囲気でしか分かんないけどあれはきっとしょんぼりしてたんだ!
そんな彼を見たら……放っておける訳ないじゃない……!!
思わず二人の手に軽く力を入れてしまい、ハッとしてすぐさま緩める。
いかんいかん、二人の手を握り潰すところだった。


「殺部は、その……好きなものとか、あるのか?」


ふと斬島が私の方を向いて尋ねて来た。
好きなもの、好きなものねぇ……。


『……強いて言うなら、楽しいもの(同人誌とか、薄い本とか……妄想が楽しいよね!)だな』
「楽しいもの、かぁ……」


ぎゅっと腕に抱き着いた状態で佐疫が目を細めて呟く。
なんだこの可愛い生き物は、そうかここが天国か。
必死に鼻から赤い液体が出ないように気力を振り絞っていれば、今度は斬島と繋いでいる手をほんの少し強めに握られた。
どうしたのかと斬島を見れば、彼はずっと此方を見ていたようで視線が合わさる。
それにしても……。


『綺麗な、瞳だな』


ずっと思っていたのだが、獄卒の瞳ってみんな綺麗な色をしていると思うんだわ。
もし私がマキちゃんのポジションだったら木舌の目玉抉り取った後、コレクションとして飾ると思う。
そんなサイコパスか、というような事を考えていると前方からざわざわと騒がしい声が聞こえて来る。
どうやら食堂が近いようだ。
お昼を食べ損ねたからか、食堂から漂う美味しそうな匂いにお腹が鳴りそうになりながらも私は上機嫌で食堂を目指して歩いたのだった。



 

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