切原赤也とラッキースケベ



「あ!せんぱーーーーいっ!!!奈々子先輩っ!!!!」
「ぐぇっ!」

いつも目で探してしまう大好きな先輩を見つけた俺はまるで主人を見つけた忠犬のように廊下を駆け抜ける。今の俺、そのへんの陸上部より足速いかも、なんてくだらないことを考えながら華奢な背中に思いっきりタックルをした。自身の不細工な悲鳴に頬を赤くする先輩はやっぱり今日も最高に可愛い。先輩なのに俺よりチビで幼い顔立ちだからか、守ってやりたいなんて柄にもないことを思う自分がいる。恥ずいから絶対口には出さねぇけど。

「赤也くん、怪我したら危ないでしょ!?」
「へへ、すいません。先輩見たらつい……」
「っ……!」

少ししゅんとして見せればさっきまで怒っていた先輩が困った顔をする。こんなチョロいところもすげー好き。先輩に意識してもらいたくて最近はスキンシップを増やしてみたり、試行錯誤をしてみるがどうも男として見てくれないようで自信がなくなる。俺、結構モテる方なんスけど。

「おーおー、やってんねぇ」
「夢野も迷惑じゃったら突き放していいのにのぅ」

奈々子先輩と同じクラスの2人が教室から顔を出すと先輩は今まで俺に向いていた視線を声のする方へ向ける。それが面白くない俺は少し不機嫌になると視線の先にいる仁王先輩の唇が弧を描いた。

「のぅ、夢野。今からゲーセン行くんじゃがおまんもどうじゃ」

ナイス!仁王先輩!!と心の中で褒め称える。2人が奈々子先輩を気に入っているのを知ってる俺としては少し複雑だが、それでも一緒にいれる時間が長くなるのは嬉しい。

「ぇ、でも……テスト勉強……」

本来あるはずだった部活がテスト前という名目で無くなったことを今更思い出す。まぁ、部活がなくなったとことで勉強なんてしないけど。真面目な奈々子先輩は俺らとは違うようだ。

「いいじゃんいいじゃん。俺の天才的なクレーンゲーム捌き見せてやるぜぃ?」
「うーん、でもなぁ……」
「後でコンビニに寄って先輩が好きなアイス奢りますから!! ……ジャッカル先輩が!!」
「俺かよ!」

ちょうど教室に入ってきたジャッカル先輩のいつものツッコミが入ると、奈々子先輩はくすっと笑い「じゃあお邪魔しようかな」と了承してくれた。押しに弱いところも先輩のいいところだと思う。

先輩達と一緒なのはかなり不満だが、奈々子先輩を誘ってくれたことに改めて感謝しつつ昇降口に向かってぞろぞろと歩き出した。


***


昇降口を出ると生暖かい風が音を立てながら強く吹いている。梅雨が終わったばかりだからか風が少し湿気を帯びていて肌をかすめるたびに眉間にシワが寄った。

「うわー、今日風やばすぎだろぃ」
「俺ゲーセン行く気失せたぜよ……」
「じゃあ仁王先輩は帰っていいっスよ!!」
「夢野呼んでやったの俺なんじゃが?」
「すんませんしたッッ!!!!」
「もたもたしてねぇで早く行こうぜ」

呆れたように呟くジャッカル先輩に無言で同意して歩き出した。が、さっきまでいたはずの奈々子先輩の姿がなく、慌てて昇降口に戻る。しまった、いつものメンバーのせいで奈々子先輩に気を回すの忘れてた。

「先輩!!遅いっスよ!!」
「あ、ごめんね……。やっぱり私邪魔かなーって思って」
「そんなわけないじゃないっスか!!皆待ってますよ!!」

早く行きましょう、と先輩の戸惑いがちな手を引く。あれ、俺、今、もしかして先輩と手繋いでる!?うわあああちっさくて柔らかい。てか、手汗とか大丈夫かな。意識してしまうと心臓の音がやけにうるさくて、顔が熱い。手を繋いでるのをいいことにそのまま小走りで先輩達の背中を追う。そこまで遠くに行ってるわけじゃなくてよかった。てか、少しは待ってくれよ。

「ちょ、赤也くん速い!!速いって!!」
「え、あ、すんませんッッ!!」
「ぎゃっ!」

先輩のこと気にせず走っていたことに気づき急いで足を止める。先輩はいきなり止まれなかったようで俺の背中にぶつかると小さく悲鳴をあげた。その声に気づいた先輩達が後ろを振り向き、早くこいと急かした時に激しい突風が吹いた。その風は悪戯にも先輩のスカートをふんわりと持ち上げる。あ、水色のレース。

「!!」

先輩は顔を真っ赤にしながら慌ててスカートの裾を手で押さえるが時すでに遅し。口笛を吹く仁王先輩にわざとらしく目を逸らす丸井先輩。聞いてもないのに見てないと焦るジャッカル先輩。先輩のフォローしなきゃ。何か、気の利いた一言を……。

「先輩のパンツえっっっろ!!!(先輩、気を付けないとダメじゃないっスっか!!)」

あ、終わった。思っていたことがそのまま口に出てしまいさっきまで火照っていた顔から血の気が引いていくのがわかる。先輩はこちらを涙目で睨みつけると今までにない速さでゲーセンとは反対方向に走っていった。奈々子先輩の居なくなった方を見つめて固まる俺に先輩たちが各々声をかけてくるが面白がってるのがわかる。いつも心配してくれるのはジャッカル先輩だけだ。

「赤也、さすがにアレはないと思うぞ」

同情されたら尚更悲しくなるからやめてほしい。

「いいもん見たぜよ」

くつくつと笑うこの先輩を殴りたい。

「これは失恋確定だろぃ?」

自分の失態に返す言葉もない。慰めてやるから早くゲーセン行こうぜという丸井先輩にそんな気分になれないっスとだけ返し、俺もゲーセンと反対向きに歩みを進めた。

歩きながらスマホをひらいてトークアプリで一番上にある奈々子先輩の画面へ謝罪文を送る。帰り着いてベットに寝転がりながら再びトークアプリを開くと既読はついたが返事はこないままだった。

時間が経っても鮮明に思い出せる先輩の下着で頭がいっぱいになる。下半身に集まる熱に情けなさを感じつつティッシュを手繰り寄せチャックを下ろした。俺だっせぇ。


END




こちらも友人に差し上げた掌編小説です。
初期の暴君赤也も好きですが、わんこみたいな可愛い後輩の赤也に追っかけられたいですね!




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