ブン太とダイエットする話




「のぅ、奈々子」

部活の最中、休憩時間にドリンクを部員に手渡していると珍しい人物から呼び止められた。クラスメイトとして時々話をするが、彼氏であるブン太の手前あまり積極的に会話はしたがらないはずだ。

「何?仁王くんが私に話しかけてくるなんて珍しいね」

私が振り返って首を傾げれば目の前の男は感情の読めない瞳を細めて肩を竦める。「非常に言いづらいんじゃが……」と前置きをする仁王からは全然言いづらさなんて感じ取れなかったが、普段よりも背中が丸まっている気がした。

「おまん、太ったみたいじゃき忠告しとこうと思ってのぅ」
「は、はぁ!?」

突然の爆弾発言に私はみっともなく声を荒げ、目の前にいるデリカシーのかけらもない男の尻尾を思いっきり引っ張った。……正確には尻尾のような銀髪、だが。

「余計なお世話でしょ!!それに、私も気にしてるのに!!!」
「痛いぜよ!離しんしゃい……!!」
「奈々子、何をしてるんだい?」
「ひっ!?」

背筋を冷や汗が伝う。背後から感じるなんとも言えない威圧感に私は手中の銀色を離した。ゆっくりと近づいてくる足音に動けずにいると仁王は早くも逃げる態勢に入っている。ここで逃げられたら弁解もできないと慌てて仁王の腕を引っ張った。

「幸村くん!!違うの!!仁王くんが私にデブって言うから!!」
「そうなの?仁王」
「……デブとは言っとらん」
「でも太ったって言ったじゃん!!」
「それで仁王の髪を引っ張ってたのか」

口元に手を当ててほのかに笑う幸村くんに不信感が募る。私にとっては死活問題なのに笑われてしまった。いつの間にか隣にきた柳くんはいつものようにノートへ何かをメモしている。
え?何かメモすることあった?

「確かに、丸井と付き合い始めてから夢野の体重は__」
「あああああああああああ言わないでっ!!てかなんで知ってるの!!!」
「ふっ、俺の知り得ないデータなどない」
「怖いんだけど。勘弁して」
「いつものことじゃろ」
「でも、柳の言うようにブン太と付き合ってから奈々子は少し丸くなったよね」
「うっ……だって、ブン太が……ブン太がケーキ作ってくるから……」

太ったと言う現実を3人のイケメンに突きつけられれば私のライフはもう0だ。太った原因なんてわかりきってる。ブン太が毎日のように私のために作ってくれるケーキやクッキーなどの所謂お菓子たちだ。
ブン太と一緒で甘い物が好きな私は彼が作ってくれるお菓子を付き合ってから毎日のように食べた。それはもうたくさん。お前の笑顔が見たいからなんてお菓子より甘い言葉を言われれば断る理由なんてない。

だが、今日は心を鬼にしてブン太からの差し入れを断ることにした。

ブン太は彼女という贔屓目をぬいてもかっこいい。そして、そんな彼の隣で彼女として並ぶためには自己満でもいいから少しでも可愛くありたい。ごめん!!私の乙女心をわかって!!ブン太!!

「はぁ?お前別に太ってねぇだろぃ?」

わかってくれなかった。
土曜日のため、午前中で部活が終わればブン太はいつものように私の家へついてくる。私の部屋に入った途端当然のように机上へと並べられるワンホールのケーキ。部活が終わった後のご褒美に、と登校する前に冷蔵庫に入れておいたブン太特製の生クリームとカロリーの塊だ。誰の誕生日でもないのに繰り広げられるこの光景は日常になりつつあるのが恐ろしい。

ブン太は私の言葉を完全に無視してホールケーキを切り分けている。切り分けた一つを私の分のお皿に乗せるとそのまま差し出された。

「それより食えよ!ほら!」
「だから食べないってばー……」

やんわり断るとブン太は不満そうに唇を尖らせる。そんな顔ですらかっこよくて拗ねたいのは私の方だった。顔を背けても鼻をかすめる甘ったるい匂いに食欲が泉のように湧いてくる。ちらりとブン太を盗み見れば、私に切り分けたはずのケーキを既に頬張っていた。

「ぁ……」
「んだよ、食わねんだろぃ?」
「た、食べないっ!」
「はぁ、意地張んなよぃ……」 

ブン太はケーキの上の生クリームを人差し指ですくうと私の口の中へと突っ込んだ。突然のことに驚くも、口の中を支配するクリーミーな甘さと舌に絡まるブン太の指に脳内が麻痺していく。

「……歯、立てんなよぃ」
「ふっ、んんっ……」

ブン太は至極楽しそうに口の端を上げると、口内を犯す指を一本増やした。口内の質量が増えれば苦しさに顔を歪めてしまう。二本の指はばらばらに動くと上顎をなぞり、舌と絡ませ、まるで口淫をしているような錯覚に陥る。

「えっろい顔……」
「っ…ん!」

ゆっくりと指を引き抜いたブン太はそのまま自分の口元へ持っていくと私の唾液を舐め取った。その仕草が妙に色っぽくて彼に釘付けになればふとした瞬間に視線が重なる。なんだか、これから起こるであろう情事に期待している自分を見透かされているような気持ちになって羞恥心から顔を背けた。
が、ブン太はそんな私を許さない。不敵に微笑みながら顎をつかんで彼の方へ向けられると食すようなキスが待っていた。全て食べ尽くすような荒々しい口付けに呼吸を忘れて精一杯応える。キスをしながら器用に制服のブラウスのボタンを外そうとした彼の手を私はやんわりと押しのけた。

「……こんな明るいところで脱ぎたくない」
「そんなに太ったって言うなら見せてみろぃ?」
「やだってば……」
「脱いだらダイエット手伝ってやるよ」
「……どういうこと?」
「食べても運動すれば大丈夫だろぃ?」

悪戯っ子のような顔つきになるブン太が指す運動なんて火を見るより明らかだった。期待していた私は彼に身体をいかに見られないように行為を行うかそれだけを真剣に考えた。
ブン太はそんな私をお構いなしにするすると制服を脱がしていく。必死に抵抗しても力の差は歴然で、気がついたときには一矢纏わぬ姿でブン太が私に覆いかぶさっていた。

「脱がし方まで天才的?……ってなんだ、やっぱり太ってねぇじゃん」
「太ったもん……」
「もっと太ってもいいくらいじゃね?」
「ばか」

お腹の肉を摘もうとするブン太の手を割とガチ目に引っ叩いた。笑いながらもいつものように全身にキスをされれば愛されてると実感してなんだかブン太のケーキを断ったのが申し訳なく思えてくる。ブン太に似合う可愛い女の子でいたいけど、ブン太を傷つけるんじゃ意味がない。お菓子を食べる分、私もランニングしたり筋トレ始めようかな。そう思いながら彼の背中に手を回した。




[contents]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -