あの日の約束を今 / 伊武深司



図書館で今日の分の課題を終わらせる。それから面白そうな本を1冊探して読み終わる少し手前になれば幼馴染が迎えに来てくれた。もちろん、この後は幼馴染と一緒に帰る。ここまでが放課後の私の日課だ。
気だるげな幼馴染はいつものように面倒くさそうな態度を隠すことなく私の隣まで歩いてくる。私はいつものことなので特に気にする素振りも見せずに本の続きに目を通した。

「ねぇ……俺が入ってきたの見えないわけ……」
「もうちょっと待って、今良いとこだからあと1ページだけ」
「はぁ……ったく、嫌になるよなぁ……せっかく迎えに来ても本に夢中なんだからなぁ……わざわざ来るんじゃなかった……」

いつもの如くブツブツと文句を言いながら隣に座ってスマホを取り出す伊武はよく誤解されるが実はとても優しい。文句を言いながらも夜道を1人で帰るのは危ないからと毎日家まで送ってくれるのだ。その優しさを知ってるのは、きっと、私だけ。その優越感から自然と頬が緩む。

「何笑ってるの……そんなにその本面白いの?」
「うん、王子様が大人になってお姫様を迎えに来てくれて__」
「もうオチがわかりやすすぎ……奈々子って本当夢見がちだよね……」
「いいじゃん!!可愛いお姫様と素敵な王子様と永遠の愛!!」
「子供の頃から変わんないね……まぁ、奈々子がいいならいいんじゃない?」

そう言うと興味無さそうに机に突っ伏してしまった。あらら、拗ねちゃったか。仕方ない。
私は読みかけのページに栞を挟んで本を閉じた。

「深司、帰ろ?」
「もう読み終わったの?なんだ、まだ少し残ってるじゃん……はぁ、嫌になるよなぁ。俺が気を使わせたみたいで……」

ごめんごめんと適当になだめながら2人で図書室を後にした。隣を私のペースに合わせて歩く伊武はやっぱり優しい。歩幅を合わせてくれる彼と並んで歩けばまるで恋人になれたような気がして浮き足立ってしまった。


見慣れた住宅街の道が夕陽に照らされてキラキラと光って見える。若干猫背な伊武を横目で盗み見ると何故か視線がぶつかった。いつもなら彼の横顔を盗み見るのは私の役目なのに。

「……さっきの本、どんな話なの」
「……んーと、小さい時に運命の出会いをしたお姫様と王子様が一度離れ離れになるんだけど、大人になって再開した時にちっちゃい時にしたプロポーズと同じ内容でプロポーズするの。ロマンチックでしょ?」
「ロマンチックとかわかんないけど……奈々子はそういうのが好きなの……?」
「もちろん!女の子は皆憧れるんじゃないかなー!」
「へー……あのさぁ………………やっぱりいいや」
「えー!!何!!教えてよ!!」

突如歩くのをやめた幼馴染みを不思議に思い、顔を覗き込めばいつもの気怠げな表情ではなく真剣な顔つきで思わず動揺した。きっと逆光になっている私の顔は伊武には見えてないだろう。

「……奈々子は……小さい時にした約束覚えてる?」
「……どんな?」
「忘れてるならいい」

私の横を通り過ぎようとする彼は心なしか悲しそうに見えた。慌てて記憶を掘り起こす。小さい時の約束。約束……あ!

「……私、深ちゃんの、お嫁さんになる……?」
「なんだ、覚えてるんじゃないか……全く嫌になるよなぁ。忘れたふりするとか、性格わるいんじゃない……?」
「え、あれ……深司ずっと覚えててくれたの!?てっきり……」

てっきり私だけがずっと深司を意識していると思ってたのに。じゃあ、あの時の約束はまだ時効じゃないのか。ということは、深司はもしかして私のこと……。

「……覚えてちゃ悪い?」
「え、じゃ、じゃあ……お嫁に貰ってくれるの?」
「『大人になって、相手がいないなら貰ってあげてもいいよ』」

その意地悪な言葉は小さい時に公園の砂場で聞いた言葉と全く同じものだった。嬉しくなった私は勢いよく伊武の胸元に向かって飛びついた。

「深司、大好き!!」
「っ……恥ずかしいから離れてくれない……?」

優しく抱きとめた伊武は行動と裏腹に突き放すような言葉を発した。でも、ちっとも悲しくなんかない。何故なら抱き留めた伊武の長い髪が揺れたときに覗いた耳が赤くなっていたから。

END



伊武くんの呟きというかぼやきってどの程度なんでしょうかね……。
伊武くんはアニメを見てた時に一瞬で「あ、好き!」ってなったのを今でも覚えてます。
完全に偏見ですが、伊武くんと恋をするのは根気が入りそうですね。

[幼なじみの恋に5題] 5.あの日の約束を今/伊武深司
お題提供先/確かに恋だったより





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