じんわり押し上げる腹部の快感から無意識に想い人のジャージを強く握りしめた。
「ぁっ、とべ……」
「先輩のような淫乱じゃ跡部部長に不釣り合いだと思いますがね」
扉の開く音が背後から聞こえ、先程まで火照っていた身体から血の気が引く。
ゆっくりと入口へ目を配ると練習を終えたであろう後輩の姿があった。
「ひ、日吉?」
「先輩が跡部さんを好きなのは薄々気づいていましたが……まさか部室で人のジャージを握りしめて自慰行為をするような人だとは思いませんでした」
いつもと変わらない声色で眉間に皺を寄せながらこちらを見下ろす後輩に絶望を覚える。
「っ!! ぃ、言わないで!! 跡部には言わないで!! お願い!!」
慌てて後輩へ駆け寄り、ジャージの裾を引っ張りながら懇願するが、怖くて後輩の顔は見られない。こんな情けない姿を想い人に知られるくらいなら死んだ方がましだと思った。
「……いいですよ。貴方の痴態は誰にも言いません」
微かな希望に安堵した矢先、顎を捕まれ強制的に見つめ合う形になる。
普段より数段意地悪そうな笑みを浮かべる後輩に脳内の警報ががけたたましく鳴った。
「まぁ、口止め料はいただきますが?」
少しカサついた柔らかな感触が唇に触れて思考が止まる。唇の形を確かめるように舌を這われた事に驚き、文句を言おうと開けた口へすかさず舌が侵入してきた。まるで別の生物のようなそれは歯列の裏をなぞり逃げ惑う私の舌を絡め取る。生理的な涙を流し、精一杯の抵抗をするとあっけなく後輩は距離を置いた。
「な、何して……」
「キスですが? 何か問題でも?」
「ファースト、キス……なのに……」
初めては好きな人と、なんて少し夢を見ていた私には余りにも非日常で……目の前の後輩のしたり顔を前にしても上手く言葉を紡げずにいた。
「へぇ、それはいいことを聞きました。ついでにもう1つ初めてを貰うとしましょう」
カチャンと軽い音が部室に響き、鍵をかけられたことを悟る。1歩1歩近づいてくる後輩に恐怖を感じ、ゆっくり後ろへと下がるとベンチにぶつかり座り込む形になった。
「く、口止め料!! キスしたんだからいいでしょ?」
焦って声に出すが後輩の耳に私の声は届いてないようであっけなくベンチへ押し倒される。
「まだ足りませんねぇ。さっきのキスは他の部員への口止め料です。今からのは跡部さんへの口止め料だ」
そう耳元で囁かれ、耳の裏を舌でゆっくりとなぞられた。耳裏から首筋、シャツのボタンを開けられ、鎖骨へと舌が這う。くすぐったさに目を伏せ、息を吐いて後輩の胸板を押すがビクともしない。それどころか行為はエスカレートしていき、下着の上から胸をもまれる。カップを下にずらし既に若干硬さを帯びた先端を真剣な顔で口に含む後輩はなんだか可愛く思えた。口内で飴玉のように転がし、優しく吸い上げると初めて訪れる快楽に自分でも甘い吐息が漏れるのがわかる。後輩は満足そうに笑うと右手を太ももへ移動させ、ゆっくりとスカートの中へ侵入させた。
「流石にさっきまで1人でしてただけあって下着までびちょびちょですね」
顔に熱が集中し、恥ずかしさでそっぽを向くがそんなのお構い無しに後輩は淡々と続ける。
「邪魔なんで脱がしますよ」
無言でいるとそれを了承ととらえたのか、勝手に下着を脱がされた。外気にふれた身体の中心に羞恥心が高まるがずっとお預けを食らっていた熱はまだ治まらない。彼の細くも男らしくゴツゴツした指が腟内へとゆっくり侵入してくる。自分の指では届かない場所をまさぐられ今まで我慢していた声が微かに漏れ始めた。2関節目をくいっと曲げた時甲高い声と大きく跳ねる身体に自分でも驚く。
「んぅ!……やめっ……!!」
「ここがいいんですね?」
にやにやと笑う後輩を睨みつけるがそんな顔をしても煽るだけですよ、と軽くかわされ指の速度を加速させた。感じたことのない快楽にだらしなく口の端から唾液が流れる。それを見た後輩は満足そうに唾液を舌ですくい上げ、再び深いキスをした。息苦しさと快楽で頭がクラクラする。つま先まで電流が走ったような不思議な感覚に耐えられず後輩の思っていたよりも広い背中に爪を立てた。
荒い呼吸が部室に響くだけで拒否する言葉が出てこない。後輩は覆いかぶさっていた身体をゆっくりと退かし、スポーツバッグをガサガサと漁り始めた。何をしているのかと見当もつかず目で追うだけの私に後輩は向き直り財布から取り出した小さなパッケージを見せた。
「コンドームですよ。流石に生はだめでしょう?」
「こ、こ!? え……」
なんで持ってるの?とかまさか入れるの?とか色々な疑問が頭の中で飛び交うが言葉にならない音が口から漏れるだけだった。
「この前男友達に冗談で押し付けられたんですけど、今ではそいつに感謝ですね」
そう言いながら後輩は躊躇いもなくパッケージを破り、恥ずかしげもなく履いていたハーフパンツを一気に下げた。そのままスルスルと膨張したそれをピンク色のコンドームで覆っていく。慣れた手つきに少し腹が立ちながらも私は見ていることしか出来なかった。
「じゃあ、挿れますよ」
「きょ、拒否権なんてないんでしょ? ……さっさと終わらせて」
先輩としての体裁なんて既になくなっているのだが、少しだけ強がってみせる。後輩にこのまま優位でいられるのは悔しいと思った。強がる私を後目に後輩の唇は大きく弧を描く。
「へぇ、泣き喚けばここでやめてやろうと思ってたんですがね。遠慮なく挿れさせていただきますよ」
「っ……!!」
既に受け入れ体制が整っている膣口へと当たるゴムの感触にぎゅっと目を閉じる。ゆっくりと上下に擦りながら入口を押し開くように指とは違う質量が体内へと侵入してきた。濡れているとは言え、感じたことの無い圧迫感と痛みに顔が歪む。薄目で後輩を見ると少し不安そうな、見たことの無い表情をしていた。
「……日吉、大丈夫?」
「あ、アンタは大丈夫なんですか? 痛いのはアンタの方でしょう?」
「日吉が泣きそうな顔してたから……」
「……別に泣きそうな顔なんかしてません。余裕そうなんで動きますね」
そういうと私の腰に手を当て、ゆっくりとぎりぎりまで引き抜き、一気に奥を突く行為を繰り返した。圧迫感や痛みが徐々に甘い快楽へと変わっていくのを感じる。肌のぶつかる音といやらしい水音が非日常を加速させ、私たちの理性を奪っていく。
「日吉っ、だめっ……もう……イく…から……!!」
息も絶え絶えに大きな背中へしがみつく。後輩の表情も余裕が無さそうで何も答えないまま腰を打付ける速度が早くなる。頭が真っ白になり、再びつま先まで電撃が走る感覚を覚えた。
「夕希……も、出る……っ」
その言葉と同時に打ち付けていた腰の動きが止まり、ゴム越しにどくどくとした液体を感じる。腟内のそれはびくびくと痙攣しているようだった。
ゆっくりと自身を引き抜き、事後処理をする後輩を見ないようにして身体を起こす。まるで何でもなかったかのように乱れた服と呼吸を整えた。
「あーあ、日吉のせいで制服がシワになっちゃった」
「はっ、アンタが1人でしてた時からじゃないですか?」
「な!? まだ言うか……大体手つき慣れてたし、彼女とかいるんじゃないの? いくら性欲持て余す時期だとは言え、浮気とかよくないと思うよ?」
組み敷かれた事が悔しくて、それよりも繋がった事実自体が嫌でなかったことを隠したくて饒舌になりながら換気のために部室の窓を開けた。
「初めてでしたけど?」
「え、初めて? 日吉童貞だったの?」
「そうですよ。大体中2で経験済みのやつの方が少ないと思いますがね」
「それはそうだけど……彼女とか……」
「出来たことありませんが何か?」
「それで……誰でもいいから卒業したかったわけ?」
最低、と日吉に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いて鞄を持ち上げる。なんだか遊ばれたような気分になって、それが許せなくて、日吉がかけた鍵を開け勢いよく扉を開いた。
「じゃあ、私は帰るから」
日吉の顔を見らずに逃げるように部室から出ようとしたが、すぐに手首を掴まれ動きを止められた。何故か分からないが早く帰らないと泣いてしまいそうだった。
「……もう外も暗いですし送っていきますよ」
その後輩の優しさにまた腹が立ったが有無を言わせない圧力を感じ、仕方なく痛む身体の中心に意識を向けないようにしながら居心地が悪いまま無言で帰路についた。
2020.09.19
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