前編 

淫らな水音と後輩の掠れた喘ぎ声が部屋の中に響けば、背徳的な空気が二人を包む。後輩の自身を口に含んで舌を這うように滑らせ、優しく吸い上げると、彼はより一層女の子のような高い声を漏らした。

大好きな後輩の熱っぽい視線は今、私だけを見ている。
恥ずかしそうに目尻に涙を溜めて口元を手で覆う彼が視界に入るだけで私の心はなんとも言えない優越感に満たされた。恋人になれない私たちにはきっとこれくらいが丁度いい。

「夕希、先輩……俺、もぅ……」
「だーめ、さっきも出したでしょ?次は私を気持ちよくしてよ」
「……っス」

勿体ぶるように自ら制服をはだけさせて、後輩に胸を擦り寄せると、後輩は貪るように私の膨らみへ食らいついた。

「……あぁっ!もー、歯型付けないでよ?」

痛みなのか快楽なのか分からない刺激に、身体が大きく跳ねる。思わず漏れ出る嬌声に目の前の後輩は先程までの弱々しさなんてなかったかのように得意げだ。

「へへ……先輩が可愛いんで、つい……」
「はぁ、お口が達者になったこと」

彼と身体を重ねる度に、赤い印と歯型で私の身体は目も当てられない状態になる。無意識のうちにつけられたものだから、と最初は無視していたものの、最近はエスカレートしている気がする。

体育で着替える時、友達に不審がられてから気をつけるように赤也に再三注意をしてみたが、どうやら止めるつもりはないらしい。

私としては、彼の加虐的な行為に愛情を感じるなんて馬鹿馬鹿しい勘違いをする程度にはこの後輩を憎からず思っていて、あながち満更でもないのだが。

「先輩、下も舐めていいっスか?」
「えー、どうしよっかなー……」
「気持ちよくなりたいんスよね?なら、大人しく俺に食べられてください」
「ぅあ……生意気っ……!!」

私の背をベッドに沈めると、足を無理やり持ち上げられて秘部が突然外気に触れる。初めはこんなこと、しなかったのに。壊れ物のように戸惑いながら触れられていた頃が懐かしい。

切原が蜜壷から溢れ出る液体を舌ですくうように舐め取れば、突然の快楽に目を瞑ってしまう。だらしなく喘ぎながら、私は切原と初めて繋がった日を思い出していた。

***

私がまだ二年生だった頃、初めて本気で好きになった一つ年上の先輩に、私の全てを捧げたのは今はもう遠い記憶だ。異性と手を繋ぐのも、キスも、セックスも、全部全部、大切な私の初めては先輩との記憶しかない。

ちなみに、先輩との初めての行為は緊張したせいか、私が不感症なのかは不明なまま痛みだけを残して終わった。今思えばただ単に相性が悪かっただけなのかもしれない。それでも、私とのセックスに満足できず、浮気をした先輩にはほとほと呆れたし、他の女を抱いた手で触られることが不快に思った私は自分から別れを告げた。

その頃には“好き”なんて感情は消え失せていて、嫌悪感しかなかった私にとって振り振られはどうでもいいことだったのだが、彼の矜持は後輩の女に振られたという事実を受け付けなかったらしい。先輩と別れてすぐ、ヤリマンだの、売春をしているだの、根も歯もないくだらない噂が立ったのは今思えばあの男のせいだろう。

まぁ、あのくだらない噂がなければ切原と今、関係を持ってなかったのかもしれないというならあれはあれでよしだ。そう、このアホな後輩はヤリマンだという私の噂を聞いて話しかけてきた男の一人だった。

噂が立ってからセックス目的の男に告白されることが増え、下衆な男からのレイプ未遂もあった。正直、それで疲れて自暴自棄になっていたのかもしれない。たまたま、本当に偶々だったのだ。後輩の誘いに乗ったのは。

「アンタが例のビッチ先輩っスか?」
「……失礼なワカメ少年はそのビッチに何か御用?」

最初の出会いは最悪だった。蹴っ飛ばしてやろうかとも思ったくらいだ。そうしなかったのはきっと顔が好みだったから。

「俺、セックスしてみたいんスよ」
「だから?」

恥ずかしげもなくにやにやと厭らしい表情を浮かべるその男は私を先輩と呼んだ。なるほど、学年が違うなら今後関わることもないだろうという打算的な考えがこいつの態度をそうさせるのか。

「手解きしてくれません?」

本来ならビッチでもヤリマンでもない私の答えは一つ。なのに、この日私は自分の価値を自分で落としてしまった。私は彼に負けないくらいの皮肉たっぷりの笑顔で後輩の唇を軽く啄む。先輩にだって自分からしたことないくせに。

「いいよ、退屈させないでね。童貞ワカメくん」

先輩としたのは未遂を含めて3回。経験のない私に手解きなんて実際無理な話だ。それでも、今引いていたら現状は良くも悪くもそのままだ。ここで彼と関係を持って何か未来が変わるならかけてみたい、そう思った。いや、そんなのは後付けで、私はこの時からアホでバカでどうしようもないこの後輩に惹かれていたのかもしれない。

「べろちゅーして、いいっスか」
「だめ」

少し顔を赤らめて肩を強く掴む彼を軽く押しのけてスクールバックを抱え直す。告白が終われば直帰しようと準備は万全の状態で呼び出しに応じていたのだ。

「はぁ!?なんでだよ!?」
「怒るぐらいなら聞かなきゃいいじゃん」

案の定、後輩はわかりやすく怒鳴り声を上げた。こんなとこで致しているところを誰かに見られたらどうするんだ、と心の中で溜息を吐くが、そんなこと彼にはどうでもいいらしい。初対面から聡明ではないと思っていたがこうも単細胞だったとは。

「じゃあ、勝手にしますからね?」
「……はぁ、ワカメくん?ヤりたい盛りなのはわかるけど、ここじゃ嫌。今からうちに来なよ」
「俺はワカメじゃねぇ!!切原赤……」
「君はワカメくんで充分だよ。行くの行かないの、ワカメくん?」
「……行くっスけど」

それからなんだかんだ適当に会話をして私の家に着くと、自室に入った途端勢いよくベッドに押し倒される。確かにそういうことをするために呼んだとはいえ、性急すぎて選択肢を間違えたのかもしれないとさえ思ってしまう。

「べろちゅー、していいよ」
「……っス」

瞼を閉じて彼を受け入れる体制を整える。一瞬触れるだけのキスをすると、意を決したように唇をこじ開けて彼の舌が侵入してきた。歯列の裏をなぞられ、舌を絡ませる度に酸素を求めて肩で息をしてしまう。
荒々しい初心者のキスに私も夢中になって応えると、いつの間にかどちらのものかわからない唾液が口の端から垂れた。

「ん、はぁ……ねぇ、ワカメくん……」
「なんすか……」
「太腿に当たってんだけど、キスだけでこんなになってんの?」
「……うるせーな!悪りぃかよ!!」

硬い制服の生地を押し上げる彼の自身をゆるりと撫でれば、後輩はわかりやすく身体を揺らす。それがなんだか面白くて、私の悪戯心に火がついた。

「それ、苦しいんじゃない?舐めてあげるよ」
「え、まじ?フェラしてくれんの?」
「して欲しくない?」
「して欲しいっス……!!」

言うのが早いか、彼は下着ごとズボンを脱ぎ捨ててベッドでそわそわと私の様子を伺い始めた。口淫は一度だけ、先輩に教わってしたことがある。それを思い出しながら、後輩のそれを両掌で優しく包み込んで優しく上下に擦りながら、私は先走る液体を舐めとるように舌を這わせた。アイスキャンディーを食べるように丁寧に緩急をつけながら舐めてみる。時々頬張ってみたり、吸い付いてみたりと夢中で舐めていると頭上からは微かに喘ぎ声が聞こえた。

「っ、きもちいーい?」
「はぁ、もう出る……」
「ぅぐっ!?」

突然頭を抱えられて喉の奥へ彼の肉棒を突きつけられる。前後に腰を振ろうとする彼にこのままではまずい、と軽く歯を立てた。

「いっ……!」
「げほっ、げほ……次それしたら噛み切るからね?」
「……うっす」

なんだか興醒めした私はさっさと終わらせてしまおうとサイドテーブルから正方形の包みを取り出し、スルスルと彼の陰茎に被せた。彼はされるがまま大人しく待っているところを見ると、どうやらさっきの言葉が効いたらしい。

「上に乗るよ?」
「っス、あーやべぇ、俺童貞喪失するのかー……」
「何?ここでやめとく?」
「いやいや、むしろさっさと捨てたいっス」
「じゃあ、入れるよ」
「アンタは慣らさなくていいのかよ?」
「……いい」

先輩の時は愛撫されてもあまり濡れなかった私が、さっき会ったばかりの後輩の陰茎を舐めてこんなに濡れているという事実はどうなんだろうか。腰を前後に動かしてゆっくりと彼に体重をかける。腹部の圧迫感に呼吸が止まり、全て入った事を確認して余裕がないのを後輩にバレないように深く息を吐いた。と、同時に違和感を感じる。

「え……ワカメくん?」
「……俺、だっせぇ」
「っぷ!ふふ、ちょっと……ふ、いくらなんでも、早漏すぎない?」
「ちが!!いつもはもっと……!」
「ふふ、童貞ワカメくんから早漏ワカメくんに進化したね、おめでとう!」

笑いながら身体を起こせば、案の定、欲を吐いた彼の自身が首を垂れていた。見んなよ、といって背中を向ける彼がなんだか可愛くて、仕方なくリベンジしたいという要望を呑んでしまう。そこからセフレになるのは自然な流れだった。

「ビッチ先輩、こっちに集中してくださいよ」

その一言で現実に引き戻された私は彼の不満そうな表情に思わず笑みが溢れてしまう。久しぶりに聞く皮肉なニックネームに私も皮肉で対抗した。

「ふふ、早漏ワカメくんがもっと上手になったら、ね?」
「っ……!ぜってぇー泣かす!!!」
「んぁ……!」

彼の本心はどうであれ、大好きな後輩の熱っぽい視線は今、私だけを見ている。
彼と繋がる度に私の心はなんとも言えない優越感に満たされた。そして、いつの間にか厄介なことに彼を好きになってしまったのだ。思ってても報われない。だって、赤也は、私じゃなくて私との行為が好きだから。でも、それでもいい。彼を引き止められるならそれでいい。恋人になれない私たちにはきっとこれくらいが丁度いい。

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