前編 

「ねぇ、海堂くん……気持ちいい?」

私の問いかけに彼は眉間のシワを深く刻むだけで答えてはくれなかった。そんな彼とは対照的に、私のナカで一際大きく質量を増した彼の肉棒はとても素直だ。

彼の太ももへと手を添え、素直じゃない後輩へのお仕置きという名目で腰を落とす速度をあげた。私の良いところを独りよがりに突き上げて甘い声を漏らせば、乗り気ではない彼にも抗えない快楽の波が押し寄せる。次第に呼吸が荒くなり、彼の額に汗が滲めばもうそろそろ限界が近いようだった。
そのまま一定の速度で出し入れすれば、小さく吐息を漏らして海堂は私のナカに欲を吐き出す。私は大好きな後輩を犯す、この瞬間が大好きだ。

「……退いてもらっていいっすか」
「えー、もうちょっと上に乗ってたいのになー」
「もういいでしょう……」
「仕方ないなぁ」

彼の上から退けば彼は淡々と事後処理をこなす。情事の最中も終わってからも始まる前だって恋人らしい甘い空気なんて存在しない。__私たちが所謂セックスフレンドだからそんなもの求めたって仕方ないのだが。

海堂の逞しい背中を見つめながら、初めて彼と一つになった日を思い出す。
あれは確か、まだ夏と呼ぶには少し肌寒い、梅雨の日のことだった。

その日、発注していた新品のテニスボールが業者の手違いで部室ではなく体育倉庫に運ばれたと竜崎先生から説明を受けた私は確認するついでに段ボールを運んでくれる男手が欲しいと密かに想いを寄せる海堂に声をかけた。

彼は嫌な顔一つすることなく、素直について来てくれる。手塚にも一応海堂を借りると連絡を入れて二人で体育倉庫に向かった。

体育倉庫まではそんなにかからないのに、突如空には暗雲が立ち込め、激しい夕立が私たちをずぶ濡れにする。海堂は私の手を引いて体育倉庫まで必死に走ってくれた。雨に打たれている身体は寒いのに、触れられた右手が熱い。この時間がずっと続けばいいのに、そう思っても現実はそうはいかない。

「先輩、大丈夫っすか」
「あはは、海堂くんも私もずぶ濡れだね」
「っ……先輩、これ着ててください……」

私を見て微かに頬を赤く染め、長袖のレギュラージャージを差し出す海堂に違和感を覚える。そのまま、自分の体に視線を落とすと夏服のブラウスから薄らと可愛らしいピンク色が透けていた。ああ、なるほど。私としては別に照れるほどのことではないが、ウブな彼にとっては赤面案件だったらしい。そんな海堂の反応がなんだか可愛くて、私の悪戯心に火がついた。

「大丈夫だよ、これくらい。むしろ、海堂くんになら見られたいな、なんて」
「……からかわないでくれませんか」
「からかってなんかないよ?私、海堂くんのこと好きだし」
「はあ!?」

突然の私の告白に海堂は素っ頓狂な声を上げた。私にとっては精一杯の告白も、この告白はきっと彼にとっては冗談にしか聞こえてないのだろう。正直、面白くない。

「ねぇ、海堂くんは私のこと嫌い?」

我ながらずるい聞き方だ。彼は礼儀を重んじるいい子だし、世話になっている部活のマネージャーという立場の私に嫌いなんて言えるはずないってわかってる。

「嫌いとかじゃないっす……」

ほらね。いつもの仏頂面を困惑の表情に変える彼の頭は今この状況を必死に整理していることだろう。でも、整理する時間なんて与えてあげない。小賢しい方法でも、私は彼との繋がりが欲しかった。

「海堂くん、見て?」
「!?」

肌に張り付くブラウスのボタンを自らゆっくりと外していけば、彼の双眼に動揺と私の下着の色が色濃く映る。我にかえった海堂は慌てて私から視線をそらすと後ろへと後ずさった。
そんな彼を逃すまいと私はじわじわ距離を詰める。
ついに海堂の背中は体育倉庫の壁に当たり、それ以上後ろへ行くことを阻まれてしまった。私はにやけそうになる顔を必死に耐えて彼の首元に腕を回した。

「は、離れてください……」

照れながらやんわり私を拒否する海堂にさらに擦り寄ってスマホのカメラを内側に向けた。チャンスは一度。少しでも盛れますように。

「はい、チーズ」
「……どういうつもりですか」

私のスマホには上半身下着姿で海堂とひっつく私と、赤面している海堂の写真が映し出されている。この状況を知らない人間が見たらきっとイチャつくカップルの写真にしか見えないだろう。
海堂は怪訝な顔でこちらを見るが、私はここまでして引くつもりなんて毛頭ない。

「ね、この写真消して欲しい?」
「そりゃあ……」
「じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」
「拒否権はないんすよね……」
「ふふ、もちろん。でも、そろそろ真面目に仕事しないと手塚が見にくるかもしれないし……段ボール、部室まで運ぼうか。お願いは部活終わった後ね」
「……っす。……先輩、その格好で戻る気ですか」
「まっさかー、優しい後輩からジャージ借りようと思ってるよ」
「……どうぞ」
「ありがとう」

彼のジャージを受けとり、さっそく袖を通すと予想通り大きかった。チャックを一番上まで閉めれば自分の家のものとは違う柔軟剤の香りが鼻を掠め、図らずも鼓動が高鳴った。床に脱ぎ捨てたブラウスを拾い上げて、段ボールをもつ海堂の横に並べば、夕立は止んでいた。

そのまま無事に部活も終わり、たまたま鍵の当番だった海堂と、残って日誌を書している私だけが部室に残っていた。海堂は先程のことを気にしているようで部活中もずっとそわそわして手塚にランニングを命じられるほどだ。乾の言葉を借りるなら、この状況で彼が私を意識している確率100%。それが私には少し嬉しい。

「海堂くん、お願いのことなんだけど」

沈黙を破ったのは私。口には出せないが、突然のことに肩を揺らして驚く彼はとても可愛いらしい。

「なんすか……」
「さっきの続き、しようよ」
「続きって何すか」
「わかんないの?じゃあ、海堂くんはそのままじっとしてればいいから先輩に任せて?」

ゆっくりと扉に近づいて内鍵を閉める。そのまま海堂の座っているベンチへと向き直り歩みを進めた。借りたままのジャージのジッパーを下げて服を脱いでいけば、すぐに上下可愛らしいピンク色の薄い布が露わになる。海堂は声を荒げて文句を言うがそんなの聞いてあげない。
私は君が思ってるより頑固だよ?

「ふ、服、着てください……」
「やだ。お願い聞いてくれるって言ったんだから男に二言はないよね?」
「……」

無言で下を向く彼の膝の上へ跨って私の体重をかける。ベンチに置かれている手を私の胸へと誘導すれば彼は抵抗することなく、置きっぱなしだ。少しは自分から触ってくれたっていいのに。彼は硬派というかヘタレというか……とにかく私の予想を遥かに超えて奥手なようだ。

「ねぇ、触ってよ」
「無理っす……」
「じゃあ私が触っちゃう」

緩やかに主張を始めた海堂の下半身に手を伸ばせば彼は私の手を掴み、明らかな拒否を示す。だが、ここで引き下がるなら最初からこんな痴女みたいなことしてない。とことん小賢しい私は彼の耳元で「ここで私が大声出したらどうなると思う?」と囁けば彼の動きは止まった。

ズボンの上から円を描くように優しく中心を触れば彼は耳まで真っ赤に染めて歯を食いしばる。徐々に硬さが帯びていくそれを私は直に感じたくて、下着ごと彼のズボンをずり下ろした。

「何して……!」
「声出しちゃだめ、誰か来ちゃうよ?」

しー、と口元に人差し指を当てれば彼はまた無言に戻る。そのまま外気に触れた彼の陰茎を優しく手で包み込み、何度か上下に擦ればそれは私の手の中で大きくなり、先端を透明な汁で濡らした。初めてみる男の人のそれは思っていたよりも大きく、まるでそこだけ別の生き物のようだった。

「も、もういいだろ……」
「まだイってないでしょ。だーめ」
「……勘弁してくれ」
「しませーん」

羞恥心に耐えきれなくなった海堂が今まで見たことのない怖い顔をしているが、赤面しているせいでちっとも怖くなかった。そろそろいいだろうか。海堂のモノを包み込んでいた右手を離して、自分の下着に手を滑り込ませる。触れてもいないのに今までにないほど濡れていたそこは彼を受け入れるための準備が既に整っていた。

「海堂くん、ごめんね?」
「なんで謝るんすか」

一応伝わらない謝罪を済ませ、彼のそそり立つ雄を膣口へとあてがう。彼に逃げられる前に腰を沈めれば、海堂の微かな吐息が漏れた。と、同時に耐えられないほどの痛みが下腹部を襲う。過程はどうあれ、海堂の初めてを私が貰い、私の初めてを彼にあげた。その事実だけで、激しい痛みも幸せな充足感に変わっていく。

「っ、先輩、やめてください……」
「も、もう入っちゃったから、やめないよ」
「っ、は……」
「動くね……」

彼の言葉を無視して、ゆっくりと腰を上下に動かす。初めてする動きにぎこちなさは残るが、時折歯を食いしばる海堂の口から漏れる甘い吐息をもっと聞きたかった。

「んぁ、はぁ……海堂くん、……っきもちぃ……?」
「……」

無言は肯定だろうか。一生懸命腰を振れば、私の中の彼はさらに質量を増して私の質問に応えてくれる。徐々に呼吸が荒くなれば、彼が絶頂に近づくのがわかった。
更に、一定のリズムで腰を打ちつけ続けると、彼は突然私の腰を持ち上げて自身を引き抜いた。

「っ、どけっ!」
「ひゃあっ!」

引き抜かれた瞬間に私のお腹に向かって白濁とした液が勢いよく飛び出す。そういえば、避妊、してなかった。無知な私は避妊具の買い方なんてしらない。海堂の良心のおかげで、少し、救われた気がした。

「っ……血?先輩、初めてだったんすか」
「ぇ、あ、うん」

彼のハーフパンツを汚す私の血に申し訳なさを覚えて彼の顔を覗き込めば形容し難い複雑な表情を浮かべる。私は気にせずに近くに置いてあったテッシュを引き抜き、彼に渡して自分も事後処理を始めた。

セックスってこんなものか。それが素直な感想。好きな人と繋がれた心の満足度と下半身の痛み、海堂の私への感情の変化を天秤にかけたらなんだか自分のしたかったことがわからなくなってきた。でも、私しか知らない彼の熱を帯びた表情を見れたのはかなりレアだ。
正直、今回だけで終わるのは惜しいと思った。

「これで、写真消してくれるんすよね……」
「ぇ、ああ……うーん、やっぱだめ」
「話がちげぇ……」
「だって、私気持ちよくなってないし」

適当な理由をつけて写真を消すのを先延ばしにすることにした。それから、部室、私の家、彼の家と次第に回数は増え、立派なセフレになってしまう。

最初の方は写真を消すように言ってきた海堂も今では口に出すことすらせず、スマホの画像フォルダの中で眠っている。回数が増えてセックスにも慣れ、イけるようになっても結局海堂から私を求めることは一度もなかった。

ねぇ、海堂くん。どうしたら心も体も私を求めてくれる?
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