生暖かい風は寝転がっている私の前髪を攫うように吹いた。
ここは屋上庭園。お昼を食べ終えた午後は眠くて仕方がない。眠気なんかに勝てるはずがなく、たまにこうしてサボっている。屋上庭園は昼寝をするのに最適で、既に意識がうとうとと微睡んでいた。そんな時突然太陽の光が遮られ、黒い影が現れた。
「お、やっぱりいたな。隣いいか?」
「どうぞ。不知火先輩もサボりですか」
「バーカ、俺は一度同じ授業を受けているからサボりにはならないんだよ」
影を作ったのは不知火先輩だった。
屁理屈が子供と同レベルで笑ってしまう。私の顔を覗き込んできた不知火先輩は私の横に寝転がると、目を閉じていた。
こうしてサボると不知火先輩もサボりに来る。それはたまたまの偶然なんだろうけど、私にとっては貴重で、大切な一時だ。別に何をするわけでない。ただ一緒にいるだけ。なのにこんなに満たされるのは何でだろう。
時々、このサボりは学校を抜け出すレベルまで達する。見つかればどうなるかなんて分からない程頭は悪くない。でも不知火先輩とだから楽しくて、後先なんてどうでも良くなる。悪友とはこういうことだと思う。
「退屈だな」
「そうですね」
こうして始まるんだ。次の言葉なんて分かり切っている。だから私は体を起こし、次の言葉を待った。不知火先輩も立ち上がると伸びをしていた。
ざわざわと大きな風が駆け巡る。
「学校抜けるか」
「どうせ会長命令なんですよね」
「当たり前だ」
私の前に大きな手が差し伸べられた。今日も私はこの手を取ってしまうんだ。駄目なことって分かっているのに不知火先輩となら大丈夫な気がする。これもカリスマ性の一種なのか。
手を握ると私を立たせるように腕を引かれた。同時にこの瞬間、彼自身に引き込まれていると思う。
日に日に依存しているのではないかと思う。
不知火先輩は悪友だ。けれど確実に違う気持ちを抱き始めている。一緒にいる時は大抵ろくな事をしていないから甘酸っぱいなんて言ったら苦笑いしてしまうけれど、恋をしているんだと思った。ついでにいえばそれはくすぐったいよりもむず痒い気持ちでもある。
一歩前を歩く不知火先輩を追う。何故か楽しそうに笑う先輩は輝いて見えて胸が高鳴った。最近重症だと思う。不知火先輩のいいところなんて沢山あると分かっているのに、こうして引き摺り込まれるなんてズルい。巻き込まれる自分が憎い。
足を止めて腕を引くと不知火先輩は振り向いた。意味もなく先輩の馬鹿と貶そうと思ったが、それよりも先に向こうが笑って私の頭を撫でてきた。ここでも不知火先輩に引き摺り込まれている。結局言いたいことは言えずじまいに。
「何膨れてんだ。可愛くないぞ」
でも今はそれでいいやと思った。この気持ちを素直に言える勇気が出たら、いつか言おう。それまでは先輩の息抜きにとことん付き合うんだ。
次に吹いた風は木の葉を大きく揺らしていた。
気まぐれ悪魔と悪友