そういえば、前に誉先輩に言われた。
「審判のカードが逆に出たから、恋愛には注意してね」と。
考えなしの私は「そうか、恋愛か。では錫也に気を付けていればいいんだな、うん」とぼんやり頭の隅で考えていただけで、特に頓着せず日々を過ごしていたのだが、まさかこんなことになるとは予想だにしていなかった。








「俺たち、別れよう」

「…………へ?」

う、え、ちょ、は、なん、………え?
突然の錫也の言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。えっと、うん、なんつった?

「だから、別れよう」

はー、『別れよう』ね。オッケーオッケーやっと理解。私耳遠いからさ!2、3回言ってもらわないとわからないんだよね!うん、これで納得、そっかそっか、

「なるほどね!はい、そうです…かっ!!!」

「ぐはっ!!?」

私は返事と共に錫也の鳩尾に蹴りを叩き込んだ。突然の攻撃になすすべなく、もろに食らう錫也。
私はさらにビンタすると、

「ばっバーカバーカ錫也のバーカ!!お前なんか私より可愛い女の子に『お帰りなさいませ』とかなんとか囁きながらカレーの歌を口ずさんでキモいとか言われてキレて標識投げ飛ばしてろバーカ!!!!」

滲む視界を乱暴に拭って、逃げた。
















あんな大口叩いたくせに小心者の私は、どんな仕返しされるかと朝から晩まで警戒心を強めて日常を過ごしていた。クラスメイトである隆文くんや颯斗くんは、そんな私の態度を不審に思いつつも何も聞かずに私の護衛を務めてくれた。さすがマブダチ。心の友。

そしてそんな1週間が過ぎた今。
小心者のくせに単純な私は、1週間も経てば錫也も私のことなど忘れてしまうだろう、鳩尾蹴られたあげくビンタする元カノの思い出なんて誰も持っていたくないよね!という実に安直な考えで、私は隆文くんと颯斗くんの護衛を断って1人、廊下を歩いていた。

「ったく本当不知火先輩は人使い荒いよね…」

嫌になるわ。颯斗くんが音楽部で不在だからって代役で私に届けさせるなんてね。どうかしてるぜ!

「ちゃんとあるかな。えーっと…」

1、2…と書類の枚数を数えながらぶらぶらと廊下を歩いていると、

「――ちょっと、いいか」

「えっ」

突然、目の前に先日私に一方的に別れを告げた男が現れた。自然と鋭くなる視線と、剥き出しになる敵対心。

「…………なによ」

「……ああ、いや、ええと…」

決まり悪そうに顔を背ける錫也だが、私は視線を逸らさずにじっと見つめた。

「用がないなら私行くわよ、じゃあ」

書類を片手に、さっさと錫也の横を通り抜けようとしたとき、突然抱きしめられた。

「ちょっ、……なに…!!」

「嘘だ」

「はっ?何を……」

言ってるのよ、と続けようとして、先程より強く抱きしめられた。

「嘘、嘘なんだ。別れようなんて、嘘」

「…………」

どういうこと、と錫也を睨み上げると、彼は苦々しい顔をしてごめん、と少し離れた。

「ただの俺の嫉妬だ。お前は、俺の彼女なのに、皆と分け隔てなく仲良く話してるから、――俺1人が付き合ってると思ってるんじゃないかって…」

何よ、それ。

私はしゅんと項垂れる錫也をキッと睨むとガッと奴の両肩に手をかけて、

「バカ野郎!!」

鳩尾に、力強く頭突きをした。

「ぐあっ!!?……ちょ、おま…」

苦しそうに腹を押さえる錫也に抱きついて、

「好きに決まってんでしょうバカ!不安になったら言いなさいよ!何度だって好きだと言う!」

遠慮なんてしないでよ!なんのための恋人よ!?そういい放つと錫也は一瞬唖然としたあと、泣きそうに笑った。

「―――大好きだよ」


XX:審判
神により最後の審判が行われようとしてあます。天国へ召される人、地獄へとおちるひと。どちらへの運命をたどるのでしょうか?














タロットが逆位置に出てしまったのなら、それを正位置に戻せばいい。
そう言って彼女は微笑んだ。





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110422




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